第121回『河童』→落選

 県境付近に円神山という小高い山がある。山頂に不気味な池があって、干ばつにあっても水が枯れることはない。麓の集落で聞くと、ヌシが住んでいるおかげなんだそうだ。

 ある日、県からの調査依頼を受けて山を登る。すると、

「お前、水を汲みに来たんか?」

 いきなり老婆に話しかけられた。

「ええ、県の調査で」

「ならぬぞ。ここは神聖な場所じゃ。水を汲むことは許さん」

「それでは調査ができないんですけど」

「帰れ、お前なんぞ帰れ!」

 すごい剣幕で追い返された。

 次の日は、

「おじちゃん、祟りに遭うよ」

 と小学生。その次の日は、

「あんた、マジしつこい」

 と女子高生。

 この池には、どんなヌシが住んでいるというのだろうか。

「調査報告はまだ? お金払わないよ? これほどの干ばつでも池が枯れないなんて、ちゃんと解明してよね」

 県の担当者にも睨まれる。しかたがないので夜中にこっそり山に登ってみる——と、木々の奥になにやら人影が見えた。

「ほら、ちゃんと引っ張って」

「このホース、マジ重い」

「円神様のお皿を涸らしてはならぬぞ!」

 それは、集落総出で山頂の池に水道水を注ぐ姿だった。

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