第103回『天空サーカス』→落選
また一人、関係者が死んだ。
巨額発注の闇をマスコミに追及され、耐えきれなくなって自殺したという話だ。これで真相はうやむやになった。
「はい、お仕事、お仕事」
そんな話をした後でも平然としている上司が地獄のピエロに見える。いずれ私もコイツから任務を渡されるだろう。ヤバくなった時は秘密を抱えて死ねという暗黙のルールと供に。同僚だってみんな同じ気持ちのはずだ。辺りを見回すとみんな必死に平静を装っている。私達は巨大組織に踊らされているサーカス一座に過ぎない。
マンションに帰ってヒールを脱いだ私は、ふかふかのベッドに体を投げ出した。悪魔に魂を売った見返りに生活は十分潤ったが、心は冷たく乾ききった。
私は一人天井を眺めながら、子供だった頃を想い出す。
あの頃は、天国にはまだ沢山の人がいた。おばあちゃん、おじいちゃん、そして優しかった人々。その人達が一人、また一人と姿を消していく。
「ごめんね、おばあちゃん……」
すっかり空っぽになった天国に、一人残るおばあちゃんの輪郭もかなり薄くなってしまった。その最後の姿を目蓋に焼き付けようと、目を閉じた私は暗く長い眠りに落ちていく。
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