第59話 友梨佳教

 面白半分でついて来てしまったけれど、予想以上に面白いことになりそうだと思ったのは、新幹線での珍客登場からだった。

 生徒会長として、ではなく。

 先輩として、でもなく。

 一人の友人として、若木友梨佳という人間のルーツをもっと知りたいと思ってしまうくらいには、あれは強烈だった。

 私は自身を特殊だとは微塵も思っていないし、特別だとも思っていない。いわゆるどこにでもいる普通の学生である自負がある。

 だからこそあれほど特殊性に富んだ人間を見るのは面白いと思うし、何なら可能性が少ないにしても”私のもの”にしたいと、多少なりとも考えてしまうくらいには友梨佳という人間を評価している。

 変態。その一言で済ませてしまえれば、あれはあそこまで特殊な関係性を維持させられないだろう。

 若木友梨佳はそれを束ね、自身に繋ぎ止めておけるだけの何かを持っているのだ。

「会長」

「今は学校外の、しかも休みの日にまでその呼び方はよしてくれ」

 嫌いな肩書ではないが、休みにまでそれに縛られるのは御免である。

「失礼、シロ」

「相変わらずいきなりめっちゃフランクになるね。で、何かな?」

「なんだか私たち、ストーカーされてるみたいなのですが」

 後方50メートル。彼女が言うように私たちをじっと見つめる人がいるのは分かっていたが、それがどうかしたのだろうか。

「あれ、友梨佳さんのお知り合いですよね、たぶん」

「たぶんね。というかそれくらいしか心当たりがない」

 一目ぼれしてつい後を追ってしまったという線もなくはないが、まぁ違うだろうね。

「何が目的か知らないですが、後をつけられるって気持ち悪いですね」

 ストーカー気質な彼女が言っても冗談にしか聞こえないのだけれど。

「声かけてみるかい?」

「いえ、キモいので撒きましょう」

 ほんと冗談か本気か分からないことを言うもんだ。



慣れない土地、というのもあるだろうが、ストーカーさんはそうそう撒けずに、私たちは近くにあったゲームセンターに入った。

 程よく視線をカットできる室内ならば行けるだろうという判断だったのだが。

「一人になってしまった」

 まさかはぐれると思わなかった。

 ただ、ストーカーは私を追ってきているようだ。先ほど確認した子が私をじっと見ているのが遠目でも分かる。

「……仕方ない。話をつけに行くか」

 何か言いたいことがあるのか、それともただの監視か。気にすることもない程度のことだが、まぁ私も例にもれず美少女である。万が一も考えて先手は打っておかないと。

 そう思ってストーカーの前まで堂々と歩いていく。ストーカーも特に逃げ隠れせずに私をただじっと見ていた。

 その目に一瞬だけ、既視感を覚えたが、どこでそれを見たのか思い出せない。

「失礼、お嬢さん。私に何か用かな」

 私は丁寧に、かつ優しい口調で話しかけた。

 歳は十代前半といったところだろうか。身長も150ないほどに小柄であり、髪はおさげにしている。幼いという印象が強い子だった。

「いえ、特に」

 表情一つ変えずに返答するストーカーに苦笑する。

「何もないことはないだろう? ここまで偶然同じ道を歩いて、同じお店が目的でしたってわけではないでしょう?」

 少々の怖さを感じつつそう返すと、ストーカー少女はため息一つついた後に至極興味なさげな声色で言った。

「特に。見てろって言われただけなので」

「誰に?」

「友人に。友梨佳ちゃんの友人なら、巻き込まれる可能性もあるからって」

 巻き込まれる? 何に? と質問しようとした直前、回答が向こうからやって来た。

「ここに若木友梨佳様のご友人がいるそうよ」

「本当に? さっきみたいにデマ情報じゃなくて?」

「デマかもだけど、調べておいて損はないわ」

 女子学生と思われる数人のグループがご来店なさった。しかも”若木友梨佳のご友人探し”という目的をもって。

「あれ、友梨佳教の信者だから、友梨佳ちゃんの友人でも対象になるの」

「し、信者? 対象?」

「あれにつかまると一か月は解放されないと思ったほうがいいよ」

 シンプルイズ恐怖。

 信者もそうだし対象って何の対象なの? 付き合うとかの次元じゃないってことでしょ? 一か月帰宅を許されないはもう犯罪レベルなのよ。

「あ、対象っていうのはもちろん性的な意味で。あれは友梨佳ちゃんのありとあらゆるものをコレクトしたい過激派」

「そもそも宗教化されてるのが怖いな」

「私は穏健派」

「君も入信済みなのね……」

 興味本位で来たけれど、何やらやばいことに巻き込まれそうな予感がしているのは私だけだろうか。

 というか友梨佳教って何なんだ……。

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