第58話 姉妹

 もちろんだけれど、私は友梨佳とは幼馴染みたいなものである。

 小学生の時から知っているし、小学生の時からずっと一緒だった。なのでこの辺りは私にとっても勝手知ったる地であり、地元ということになる。

 ……というわけでは、あまりない。

 生まれてこの方、自由に外を歩くっていうことをあまりしてこなかった私は、地元どころか、家と学校の間くらいしか知っているところがないのが現状である。

 さらに今は寮暮らしもあって、本当の意味で自分から外出したのなんて今回が初めてなんではないだろうかと思っていたりもする。

 そんな私が、友梨佳がどこかへ消え(たというか、半分拉致に近い)、特に親しくもない先輩や同輩と取り残され、各々好き勝手に観光にフラフラと歩いて行ってしまったため、とりあえず近くにあった喫茶店へと逃げ込んだわけである。

 そしてこれを目撃してしまったのである。

「うーん、ゆりちゃんのことだからきっと向こうでもモテモテなんだろうなって思ってたけど、あの人数は予想外だよね」

「家族が増えるのはいいこと……」

「家族っていうか、ライバルじゃないかな? この場合」

「ライバル? この私があの有象無象と同格といいたいの?」

「負けることはないと思う。でも特に私たちの気配すら察知した二人は警戒したほうが良い……」

「わざわざ迎えに行ったバカが付いてるから万が一はないけれど、確かにあれは中々の変態とみたわ」

 私の後ろの席に陣取る3人組は、ベクトルが違えどまぁ美人といっていいほどの女性である。

 その性格を知らなければ、の話だが。

「ところで……」

 物静かないかにも文系っぽい黒髪ロングが、先ほどとは少し声のトーンを落として話し出す。

「れいちゃんも帰ってきてるのかな……」

 いきなり自分の名前が出てきて少し驚いてしまった。

 面識自体はそれほどあるわけでもないし、進学する際に一気にイメージをチェンジした関係で、先ほど見られた際に私だと認識されていなかったらしい。

 運がいいのか悪いのか、我ながら分からなくなってしまう。

「帰ってきてるのではなくて? さっきそれらしい人を見た気がするけれど……、さすがにもういないわね」

 後ろにいるんですけどね。

 少々高飛車感が出ているお嬢様に関しては、自称お嬢様と違って本物の社長だったりする。

 そう考えると若木一族って親族も含めて相当すごい家系だと思います。友梨佳からは全然全くそんな感じが微塵も感じられないのが、少々どころかものすごく残念なところなのだが。

「まぁ、れいちゃん帰ってきてたらちょっと文句言わないとだよね」

 ギャルが少し入ったような格好の、陽キャ代表みたいな雰囲気はずっと変わっていないようで何より。

 さらに抗議は確かに受けないといけないなってちょっと思っていたりする。

 まぁあれは口約束だったし、私も守れるかは全然わからなかったからできる限りって言ったし、一方的に責められる謂れはないはず。

「そもそもが無理な話、あの友梨佳ちゃんに変態を寄せ付けないよう見張るなんて……」

「無理ですわね。友梨佳さんが何もしなくても向こうから寄ってくるんですもの。あれは天然の変態たらしですわ」

「それもそうかぁ。私もできるかって言われたら多分無理だし。てかもうあれは災害みたいなもんでしょ」

「やっぱり高校卒業後は一生外に出さないようしないと……」

「準備自体は終わってるのですけれどね。後は本人を説得するだけなのよ」

「でもそれが難しい……」

「監禁しても次の日には何事もなかったように外出てるしね」

「あれはもう人ではないのでは……」

「だから災害なのでしょう?」

 散々ないわれようだな。

 まぁ悪口というか事実並べてるだけなんですけれどね。事実が酷いだけ。

 ここまで話を聞いていた私だが、この並びにすごく恐怖を覚えたのには訳がある。

 この三人、正真正銘の友梨佳の姉妹であるのだ。雁首揃えて姉妹の里帰りをこっそり見に来てるって、仲がいいのか気持ち悪いのか分かんないなもう。

 正確にはあと一人いるのだが、まぁそれはおいおい嫌でも会うことになるだろう。

 あざみ華景かかげ、友梨佳、綺羅歌きらか澄野すみの

 友梨佳の友人なら嫌でも覚える名前一覧である。

 友梨佳も約三人の記憶は一切抹消しましたと言わんばかりに話題に出さないし、実際友梨佳に姉妹がいるって知ってる人少なそう。

 そして、姉妹はやはり姉妹なだけあるのだ。若木の血は伊達ではない。

 しかし、バレたらめちゃくちゃ面倒くさそうだからとっさに隠れてしまったけれど、みんな集まるまでここで私も息を潜めないといけないと思うと、随分と居心地の悪いお店に入ってしまったものだと、自分のことなのに他人事のような感想を抱いてしまった。

 さっさと時間にならないかなぁ。

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