第56話 二人目の刺客

「私は帰ってきた!!」

 久しぶりに地元に帰ってきたからか、少しテンションが高くなってしまう。

「何キモイこと叫んでるの? 普通に邪魔だからさっさと歩いてくれない?」

 辛辣なロリコンの発言も今なら許せる気がする。気がするだけだから許してないんだけどね。

「結論だけ言えば、もう少し田舎風景を期待していたのだけれど、まぁこれはこれでよい雰囲気だね」

 新幹線通ってるくらいなんだから、駅出たとたん田んぼ風景はさすがにないでしょ。

「でもこの後また電車移動でしょ?」

「うん、あと3時間くらいは移動するし、ここよりももっとお店とか少なくなるから、必要なものはこのあたりで買っておいたほうがいいよ」

 私が適当に言うと、各々指定時刻までは自由時間として駅前周辺を散策することになった。

 なったのはいいけれど。

「それで、どこに連れて行ってくれるのかな?」

「できれば個室があるお店とか案内してほしいですね」

 変態二強の深桜ちゃんとリリィちゃんは他の追随を許さないスピードで私を攫い、あわよくば二人きりになろうとしていた。

 ななみん大丈夫だろうかとか悠長に考えていた私だが、たぶん見知らぬ地で一人ぼっちにされてしまったななみんより、今の私のほうがよっぽどひどい状況だろうと思われる。

「まぁ、私があの程度で友梨佳ちゃんを逃がすはずがないんですけどね」

「わかってはいたけれど、その神出鬼没マンなのやめな?」

 わかってても結構驚くから。

 深桜ちゃんもリリィも驚いただろうと思って表情をうかがうと、めちゃくちゃ苦虫を噛み砕いて味わってしまったような顔をしていた。

「これだから変態ってやつは」

「私たちに喧嘩売るとはいい度胸ですね」

 仲良し変態コンビはこの程度では逃れられないと思っていたらしい。流石は学校を代表する変態たち、他の変態の変態度を測るのもお上手で。

 変態度ってなんだよ。

「でも、多分皆さん後で私に感謝すると思いますよ」

「は?」

「あ?」

 圧がすごいな二人とも。


「まぁどういうことかというと、ここは私たちにとっては庭みたいなものなのですよ」

 そう語る星奈の後を追う私たち三人は、普段だったら絶対に通らない繁華街の裏路地を通って目的地に向かっていた。

「確かに。普段から使ってる道とか歩いてたら、知ってる人に会いそうではあるけど」

 でも私の地元というわけではないので、そこまで警戒しなくてもいい気がする。

「私がなぜ新幹線の予測をしてまで友梨佳ちゃんを迎えに行ったかというと、地元のうるせー奴らが迎えに行くなんて言い出しましてね」

 言い出しそうな子が何人か思い当たりすぎて怖い。

「そんなことをしたらどうなるかなんて想像しなくても分かるくらい大惨事になるので、事前に私が誘拐しようと思いまして。まぁそれもお連れの糞がいっぱいいて失敗したんだけどね」

 人の友達を糞とか言うな。嫌いになっちゃうぞ。

「事情は分かりましたが、ここまで避けなくてもいいのでは?」

 見るからに人が通る場所ではない道を通っているからか、深桜ちゃんは若干不満そうだった。

 せっかくおめかししてきたのに、こんな汚い裏路地通ってたら気分も落ちるってものか。

「あなた達はあの子たちの異常性を知らないからそういうことが言えるんです」

 異常性の塊みたいな子から異常扱いされる子たちとは。と思った私だが、みんな私の知り合いだったわ。

 普通に行くよりも倍以上の時間はかかってしまったが、私たちは朝食とも昼食ともつかない食事のため、私が以前通っていた飲食店へとたどり着いた。

 のはいいんだけれど。

「あ、ほんとに来た」

「私の言ったとおりでしょ? こいつの考えることなんてこの私にかかれば全部お見通しなんですの」

 駅前に置いてきたはずのななみんと、お上品な雰囲気で話す少女が一緒のテーブルでパンケーキを頬張っていた。

「まぁ、なんとなく分かってたけれど、無駄骨だったね」

 リリィ、ここでそれは言わないでくれよ。

「で? この人は?」

「怖いからその目やめて深桜ちゃん」

 きっと私が紹介しなくても自分からすると思うから。

「庶民の分際で私をこの人呼ばわりするとはいい度胸ですね」

 庶民の分際というが、君も大抵庶民寄りだと思うよ?

「私の名前は霧塚きりづか沙綾子さやこよ」

 堂々とした態度で、堂々とした表情で自己紹介する彼女は、さらに自慢するようにこう語った。

「友梨佳様とは”親公認”の許嫁となっております」

 まるでどっかの誰かさんは公認じゃないみたいに言ってますが。

「君も別に親公認じゃないんだよなぁ……」

 つぶやくも誰も拾ってはくれない言葉が空気に溶けて消えた。

 もう帰りたい。

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