帰省

第54話 どストレートにヤバいやつ

 暑い。

 このままでは人の形を保つこともままならないほど暑い。

 気温がそうさせるのもあるのだが、一番の原因は両側にくっつく変態のせいだろう。

 学校が夏休みの期間に入り、寮住まいの学生たちは帰省をしたり、部活に精を出す等様々な形で休みを謳歌しようとしていた。

 かくいう私も帰省組の一人である。

 まぁ別に無理して帰らんでもいいとは言ってくれているが、私が不自由なく学生生活を送れているのは両親あってのことなので、顔を見せるついでに今こんな変態と一緒に暮らしてるんだってことを報告するいい機会だと思い、今年は帰省することにした。

「田舎も田舎だから何にもないことだけは先に言っておくよ」

「友梨佳さんがいれば別に何もなかろうと気にしませんよ?」

「確かに、その点だけは同意してあげなくもない」

 この二人仲がいいのか悪いのか分からんな。

「にしても、結構な人数になったよね」

「れいちゃんはまぁ実家が近いからいいとしても、他六人もついてくるなんて思いもしなかったよ」

 現在八月五日の午前六時ちょっと前。

 新幹線が止まるターミナル駅の改札口で私の実家へ遊びに来る変態たちを絶賛待っている最中である。

 れいちゃんやらリリィ、深桜ちゃんと七未は同じ寮なので一緒に来たのだが、そこに加えてロリコンと生徒会副会長と会長が加わるというちょっと意味不明なパーティ編成となっている。

 まだロリコンまでは理解できるが、会長と副会長のコンビが来るのは予想外すぎて悪い方向に化学反応起こさないか今から心配で胃に穴が開きそう。

 しかもみんな「ちゃんとご両親にあいさつしとかないと」みたいな感じでめっちゃ外向けに体裁整えてこようとするあたり、本気の本気で私のこと獲りに来てるのが怖い。

「そういえば、あんたの実家って言ったらさ」

「それは今は話題に上げなくていいよ、れいちゃん」

「……今から知っておいてもらったほうがいいと思うけどね」

 心配するれいちゃんの気持ちも分からなくはないが、今からそれを言ったところで事実は変えられないので、ここで私がばちぼこに拘束されて帰省すらままならない状況になるのは避けたいのだ。

 というか言ったらまじでこいつら一か月くらい新幹線止めそうだから絶対言わない。

「隠し事ですか?」

「いいや、行けば分かるから言わないだけ」

「そうですか、なら今は詮索しないであげます」

 あら? 今日の深桜ちゃんはちょっと大人しい。

 珍しくはないが、中々みられるもんじゃないので、つい詮索してしまった。

「普段ならあらゆる手段を用いて吐かせようとしてくるのに、珍しいね」

「まぁ、私も意外と緊張しているということなのですよ」

 普段からヤバいことしてるから、せめてご両親にはいい印象を持たれたいのかも。

 私にもいい印象持たれるように努力してほしいものだ。

「ねぇ友梨佳。私の今日の服おかしくないかな?」

「おかしくないし、それ今日十回目だよ」

 リリィもリリィで緊張しているらしい。らしくない言動が朝から満載である。

「ワンピースってすぐ脱げるしすぐ着れるから便利よね」

「お前はどこでもぶれないな」

 七未は目を離すとすぐ脱ごうとするから困る。暑いだけかもだけど。

「それにしても先輩たち遅いですね」

 今の今まで暑さにやられて黙っていたロリコンだが、待ち合わせ時間の五分前になっても来ない生徒会コンビにイライラしたご様子でつぶやいた。

 あの二人が十分前に来ないのも性格を考えると異常だが、五分前でも一向に姿が見えないのは確かに異常かもしれない。

「事故とかじゃないといいけど」

「まぁ、待ち合わせ時間まではあと少しあるし、もうちょっと辛抱しましょう」

 朝方だからまだいいほうだけど、この気温の中待たされるのもつらい。

 買って間もない紅茶がもうぬるくなっているのを感じて、やっぱり夏は好きになれないなと感じてしまった。



「すまない、待たせたね」

 結局生徒会コンビは待ち合わせ時間ちょうどに来た。

 なんでも、来る途中で手土産を忘れたことに気付いて取りに戻ったら時間ギリギリになったそうだ。

 みんな少なからず心配したし、暑い中待っていたので文句の一つでも言ってやろうという雰囲気だったが、それよりも早く涼しい場所に移動したい欲のほうが勝り、あいさつもほどほどに私たちは時間通りに到着しているはずの新幹線へと搭乗することにした。

「にしても暑い」

 指定席に私が指定した通りにみんなを座らせた後、ロリコンが溶けたスライムみたいになりながらつぶやいた。

「最高気温が今年一番らしいからね、みんな暑さ対策は欠かさないように」

 この発言だけ見ると生徒会長らしいけど、人の素肌を発情した顔で見てるところを加味するとあまり生徒会長らしくないというか、私まだこの人の性格をしっかり把握してないから、底が見えない感じがして正直めっちゃ会話しづらい。

「ところで、友梨佳さんのお隣の方はどちら様で?」

 通路側に陣取った私の隣は一般の人(他人)なのだが、深桜ちゃんはよからぬ雰囲気を感じ取ったのか、めちゃくちゃ警戒と嫉妬と憎悪を孕んだ声色で訊いてきた。

 私も若干だが予感はあった。

 帰省するといったその日からこうなることは予想できたので私は心の準備が整ってたし、もしかしたられいちゃんも少なからずこうなることは理解できていたから、先ほど「先に言っておいたほうがいい」といったのかもだけど。

 これの、この行動力と、この予言や未来予知とも言わしめる的中率をどううまくいったところで妄想だと思われてしまうのは明白である。

「挨拶が遅れてしまいましたね」

 私の隣の女性(というか少女に近い年齢)はすっと立ち上がり、汚れを知らない純粋無垢な笑顔で言い放った。

「私、皆見みなみ星奈せいなと申します」

 ここまではよかった。

 ここからが問題だった。

「友梨佳ちゃんの従妹で、許嫁です。どうぞよろしくお願いいたします」

 一同開いた口がふさがらず、頭の上にはてなマークがびっしりついていた。私だってこの場でそんなこと言うとは思ってなくて冷や汗が止まらない。ついでに背中に感じる殺気も膨張が止まらないみたい。

 そんな中一人だけ馬鹿を見る目で見ていたロリコンがぼそりとつぶやいた。

「どストレートにヤバいやつが来ましたね」

 ホントそう思う。

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