第53話 封印されし記憶(思い出したくないだけ)
何があったかと聞かれたら、何もなかったと思うと言うことにしました。
と、最初に言われても何が何やらと思うだろう。私だって前触れもなくこんなこと言われたら「てめえの頭の中はファンタジックパズルボブルかよ」と意味不明の罵倒をしてしまうにきまっている。
体育祭である。
それが何? って思う方もいるだろう。
今がいつか、皆さまお分かりだろうか。
7月23日である。
めちゃくちゃ時が飛んでいる!? と思っただろう。私も思った。
あのパンツが舞い散り、乱闘が繰り広げられ、世界崩壊一歩手前くらいの狂喜乱舞だった時間から、もう一か月以上も過ぎているのだ。(一か月以上だっけ?)
どうしてこうなったかというと、あの後私普通に風をこじらせて入院しておりました。
いくら強靭な肉体と精神を持つ私でも弱ることはあるし、病気にかかってしまうことがあると発覚し、私が退院した際はみんな壊れ物を扱うがごとく丁寧な接し方で「貴様らそういう対応も普通にできるのに何でいつもそうやって接してくれないの?」って涙ながらに語ってしまいそうになるくらい丁寧だった。とにかく丁寧だった。私お姫様気分だった。
だった。である。
最近対応がもとに戻りつつあるのがちょっと許せない。また入院してやろうかこんちくしょうめ。
と、いうわけで私はその後の体育祭の記憶がさっぱりない。
さっぱりないというか、気づいたら保健室の天井のシミを数えていたし、気づいたら病院で「知らない天井だ」ってつぶやいてた。
もはや異世界転生レベルでクラスの内情についていけない。
あの子とパンツ交換しただとか、あの子のぱいおつ触っただとか色々聞こえてくるが、ほんとに何があったのって感じだし、なんで私抜きでそんなことしてんのって勝手に怒ってたりします。
何はともあれ。
私がいない間に世界線が切り替わって、みんなオープン性癖! したみたいです。
学校の特色に染まってきた、あるいは理解してきたのほうが感覚としては正しいのか?
そんなことはどうでもいいか。どうでもいいな。
「私はかわいい子が恥じらいながらパンツ越しにお漏らしする姿が見れればそれでいいのだ……」
「平和的な顔面で狂人み溢れる願望つぶやかないでよ」
おお、わが麗しのれいちゃんよ。そんなこと言わずに見せておくれよ。
「あんたがまだ本調子じゃないことだけはわかった」
ある意味絶好調だけどね。一部が。
「まぁ、あんたが焼死取り戻さない限りは、あの子たちも過激な行動をしないから平和で何よりだけど」
変態も病み上がりの人に対しての遠慮は出来るらしいというのが今回判明して私はほっとしたのでした。
いや普通に私があの待遇でよく心身ともにぶっ壊れないのってすごいことなのではって感じるわ。普通の子だったら最初の一週間で失踪するレベルでやばいことしてましたからねやつら、まじで反省して。
と思う反面、すこしさみしさを覚えているのも事実。
リリィしかり深桜ちゃんしかり、私にとっての日常はあの子たちが変態という個性をぶつけ合って結果的に私が大惨事っていうのだったし、それが楽しかったことも認めよう。
今は冷戦真っただ中なくらいけん制しあいつつも、私の調子が元に戻るまでは表では静かにしようとしてくれている。逆に調子狂うよね。
「でさ、もう夏休みはいるわけじゃない? 夏休みとか帰省する子もいるだろうし、今のうちに予定立てるとか連絡先の交換とかしておかないと、一か月まるまる会わない子とかいるなって思いまして」
「思いまして?」
「とりあえずクラスの子たちの連絡先を聞いたんだけど」
「れいちゃんがそんなことしたら」
「うんわかってる。その日のうちにほぼ全生徒の連絡先が手に入った」
さすがである。私とは月とすっぽん並みに人気度に差があって友人だけど今殺意の波動がにじみ出てしまった。
「まぁそんなことは置いておいてだ、友梨佳は夏休みどうするの?」
「どうするって言われてもなぁ」
帰省はするだろうけど、それ以外の予定といえば一日でどれだけ情事に耽れるかくらいのものだろう。もちろんおひとり様でだ。
この学校なら大半の生徒がそんな感じなのでは? という偏見の目で見てしまっている私をお許しください神様。
「どきどき! 一か月深桜ちゃんと一緒にプライベートビーチで全裸合宿! の予定がありますよ?」
いつの食事や飲み物に薬物仕込まれるかホントにどきどきよね。
「いやいや、一か月リリィちゃんと山籠もりで子宝祈願合宿がもう組まれてるのだけれど」
人里から遠ざけようとするのはもう変態の常とう手段なの?
「あー……、なんというか、変な虫が一気に湧いたね」
「言われてますよリリィさん」
「ん? それは深桜ちゃんのほうかと」
自分は大丈夫って思考回路はよくないゾ、どっちもだよこの場合。
「自重しているとはいえ、夏休み期間は一緒に行動できないことが多いだろうし、譲れないんだろうね」
譲る譲らないの問題じゃないよれいちゃん。今の予定、私全然全く何にも聞いてないんだから。
「なんにしても、私帰省するから一か月の拘束は無理だし」
「規制……? 確かに友梨佳さんには必要ですけど」
「寄生ねぇ、確かに友梨佳にされるのであれば歓迎だね」
どっちも漢字間違ってるぞ多分。
「……私も忘れられたら悲しい……」
「人のまたぐらで悲しむなななみんよ……」
こいつ私がいない学校生活とかどうしてたのレベルで未だに友達いない気がする。
……友達作らんでも学校は通えるか。
「では私はその帰省に同伴するとして」
「いやいや、私だけで十分でしょそれは」
「何もすることないし、ゆりちゃんに付いていけば面白そう」
同伴させるとも言ってないし一人いれば十分理論は意味不明だしお前はベスト露出スポットを私の帰省先で探そうとするな。
「とりあえず、みんなで友梨佳さんのご実家にお邪魔する、でいいのかしら?」
「そうだね、まずは行って認めてもらわないとね」
「うーん、人通りの少ない田舎とかだと助かる」
どいつもこいつも何故いつも私の意見を聞こうとしないのだろうか。
とは言いつつも、別に断る必要もないし、むしろ今回ばかりは都合がいいともいえる。
人除けならぬ、変態除けとしては十分すぎるメンバーだ。
「じゃ、みんな8月5日から二週間は予定空けといてね」
はーい。という謎に連携の取れた返事を返してくれた七人は、その後のチャイムの音と共にそそくさと散っていったのだった。
……七人?
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