第50話 ダブルイレブン
空き教室に入った私たちはひとまず向かい合うように座って、以降どのように動くかを相談する流れだと、教室に入る前の私は微かに思っていたのに。
「どうして普通の椅子があるのに私に座るんですかね」
たとえロリコンのお尻だとしても私にとっては女の子の柔らかいお尻ちゃんなので若干興奮してしまうのです。
「なに? 嫌なの?」
まるで私の椅子になれるのは光栄なことなのとでも言いたげな表情を浮かべている。
「で、グラウンドの様子はどうです?」
嫌と言っても言わなくても結果が変わらないと察した私は、もう無理やり会話を進めるという選択肢を選んだ。
「自分で見れば?」
そう言ってロリコンは私という椅子からただの椅子へと鞍替えする。
生暖かい背中に多少の悦びを感じつつ窓の外へと視線を向けた。
私たちの入った教室はちょうどグラウンド全体が見えるのだが、蹂躙という言葉がこれほど似合う光景もない気がする。
最初からグラウンドにいた子たちは全員あの魔王のような奴らにやられてしまったようだ。
「あれって確か……生徒会長と副会長だっけ?」
こういうことに疎いロリコン(偏見)でも分かりやすい見た目してるから遠目からでもすぐ分かるらしい。
グラウンドで大半の生徒が脱落してるようなので、あとどれくらい残ってるのかは気になるところ。
「確か残り十組で一度放送が入るから、しばらくは静観しておきましょうか」
私たちが動くときはもう魑魅魍魎の悪鬼羅刹しかいない事態は避けたいが、たぶん避けては通れないんだろうなとこの時私は覚悟しました。
ま、私にとってはいつもとあんまり変化ないんだけどね。
「勢力的には体育館組、グラウンド組、中庭組で分かれているようね」
どうやら携帯でお仲間と情報を共有しているらしい。
「でも勢力って言ってもペア戦なら勢力とかないのでは?」
「この豚は馬鹿かしら。大半の生徒は副賞のパンツ狙いなんだから、自分が欲しい人のパンツを強い人に取ってもらう、代わりに自分が壁役やら情報収集係として支援する側に回ってるってことでしょ」
なるへそ、そういう狙いがあるのか。
「まぁ、主力の奴らは一等我の強い子たちだから、お目当ての人以外は眼中にないっていうのもあるけど」
あ、確かにそうですね。
自分が興味のない子のパンツを取ったところでって考えは確かに分からなくもない。ゲットしても使わないのなら欲しい人にプレゼントはみんなハッピーなのかもしれない。(パンツ取られた人のことは考慮外)
「それでいうと生徒会長と副会長は誰目当てなのか少し気になるわね」
「あの二人の場合、普通の競技でも負けるイメージが想像できないから、キャラクター通りって感じがする」
「なんにしても、主催者が優勝は一番つまらないパターンだし、誰でもいいからあのペア落としてもらいたいわよね」
自分ではやらないという確固たる意志が強すぎて逆に惚れそう。
「残ってるのは一年生4ペア、二年生5ペア、三年生3ペアらしいわ」
「あと2ペア落ちで入賞ですか」
「入賞しても何ももらえないけれど、まぁ気分はいいわよね」
ここまで何もしていないことは棚に上げるらしい。
この競技は時間無制限だといつまで経っても勝敗がつかないため、確か二十分の制限付きだったはず。
制限時間まで複数のペアが残っていた場合はよりパンツを多く集めたペアが勝利の単純なルールだ、確か。(あまり人の話を聞かないタイプ)
ゆえに私たちは入賞できても優勝は出来ない。そのことについてはロリコンも承知らしく。
「リスクとリターンを計算しての行動よ。でも別に私は動くつもりがないってだけで、あなたが個人で動く分にはいいんじゃない?」
それは考えとしてあったけれど、私が個人で行動したとしても収集できるパンツには限りがあるし、もうどうせ(変態度が)強いペアしか残ってないから現状魅力的な提案ではなかった。
「ま、わざわざ狩られに行かなくてもって感じだし、私もここで時間までゆっくりしてる」
こうしていると普通の友達同士みたい。どうして私たちは変態に生まれてしまったのかと疑問すら浮かんできてしまう。しかし変態はなるべくしてなってしまったというか、生まれつきの避けられない運命だから仕方ないよね。
そういえば他の変態たちは今頃どうしているだろうか。私を探して校舎を練り歩いているのだろうか。そう考えると教室出るの一気に嫌になったな。
「やっぱり一年ではリリィと深桜ペアが強いみたいね。撃破数二桁ペアの一つらしいわ」
今この世で一番出会いたくないペアナンバーワンなんだけどそれ。
「あ、見つかったわ」
「え?」
何が? と言おうとした私だが、グラウンドからものすごい殺気のような悪寒のような圧を感じたのですべてを察してしまった。
「手を振ってるわ、というかこっちに今から行くね見たいな雰囲気出してるんだけど」
などと言ってるロリコンはすごく冷静だったし、なんなら手を振り返してる。
「見つかりたくない人たちには見つからなかったけれど、見つかったら確実にやばい人たちには見つかってしまった」
「どっか別の場所に逃げましょうか、面倒だし」
動くのもリスキーではあるが、このままだと確実に生徒会ペアにやられるだろうし、動かざるを得ないか。
どっかの神様はこのまま平和に競技終了を許さないらしい。
「それで出てきたところを早速私に捕まったわけだね」
生徒会ペアから逃れるため教室を出た私たちだったが、あっけなく捕まってしまった。ルートに先回りどころか、このルートで逃げるだろうって最初から分かってたみたいに堂々と仁王立ちで待ち構えられてるとか、もう超能力の域でしょ。
「ま、大抵の生徒の行動パターンは予習済みだから、会長は」
生徒会長だから行動パターンつかんでるというより、変態だから行動パターン把握に必死のような気がする。というか私がそう。
しかし、いつ見てもこの会長は美人というか麗人というか、もはや同じ人類というカテゴリーなのかも怪しいくらい綺麗なんだよな。自然と天使かな? って言いそうになる。
「さて、今度はどうやって決着つけようか」
「別にどういうルールでもゲームでもいいですよ」
この期に及んでもまったく目の前の会長に興味を示さないロリコンはやはり真正。
「それじゃあ、この中から一枚選んでもらおうかな」
そう言って会長は持っていたカードを私たちの前に広げた。
「この五枚のカードにはそれぞれ特殊なゲームの内容が記載されてる。引いたゲームで勝敗を決める。で問題ないかい?」
「別に構いませんよ」
悩むことすらせずにロリコンは一番真ん中のカードを引いた。私に相談とか一切考えないあたり流石ロリコンという他ない。
「なにこれ? 『ダブルイレブン』?」
なにそれ、そんなゲーム聞いたことないんだけど。
「早速準備と行こうか」
会長は満足げな表情で近くの教室へと入っていく。
「ルールに関しては後程説明しますので、まぁお付き合いください」
副会長はなんか諦め気味というか、ちょっと疲れてる感じの顔だった。
どれだけ完璧超人でも、あの会長との行動はひどく疲弊するらしい。
本当に、見つかりたくない人には見つからなかったけれど、見つかりたくない人に見つかってしまったものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます