第45話 現実逃避のトイレさん



 最終日である。

 女の子のあれやこれやらくんずほぐれつを、明日から見れなくなるなんて、私は明日から何を生きがいに過ごしていければいいのだろうか。

 しかも私はロリコンに絡まれたというだけで、私物をことごとく捨て去られてしまっている。明日からのおかずを今日中に確保しておかなければいけないのだ。

 待っていろ、私の可愛い女の子たち! あなた達のあられもない姿はこの一眼レフカメラでしっかり記録してあげるから!

 まぁ、このカメラは体育祭実行委員から借りたものなんだけれどね。

 私物のカメラちゃんは焼却処分されちゃったから、今頃女の子たちの妖艶な姿をとらえたフィルムと天国で仲良くしているはず。

 何はともあれ、最終日です。

 本日のメインディッシュというか、注目すべき種目は実行委員主体で考案したスーパーアダルティスト競技(何言ってるか分からないと思うが、私も分からないので安心してね!)だろう。

 この競技はみんなが楽しみにしていて、みんながこれのために昨日自慰を我慢したともっぱらの噂だ。これは期待しない方がおかしいのではないでしょうか!

 しかもその競技、午前と午後に一つずつあるようで、みんな脱水症状にならないか心配でたまりません。ちなみに私は絶対になると思って飲み物を多く持参しております。

 ちっ、違うよ!? 私がいっぱい飲み物持っておけば誰かと間接キッスできるとか全然思ってないから! ほんとに思ってないよ!

 とまぁ、高まる期待と溢れる汁を抑えきれない私は朝からこんな調子です。

 あとはさっき変態達に絡まれてちょっとやばい賭けの景品にされたことへの逃避も兼ねているのである。明日からの私は誰かの奴隷なので、自由に生きられるのは今日までだと思うのよさ、多少の妄想空想は許してヒヤシンス。

「それで、友梨佳っちは現実逃避しすぎてトイレに籠ってしまったと」

「分かってるならわざわざ探さないで下さいよ、七未さん」

この変態は素晴らしいくらい簡単に私の居場所を突き止めてくるから厄介オブ厄介の顕現。さてはこいつ私のこと好きだな?

「私ってさ、友達少ないから……」

 というか私しかいないだろ。唯一のお友達の前で見栄をはらなくていいんだぞ。

「で、何か用?」

「用があるというか、用を足しに来たというか、用を足しに来たら隣から見知った匂いがしてきたというか」

「匂いで判断しないで」

 体臭がやばい子みたいに聞こえちゃうでしょうが。

「いや、股下の匂いってみんな特徴ありますし、不思議と誰だか分かっちゃうんですよね」

 さいですか……。

 もう人の判断を股の匂いでする奴が現れても動じなくなってしまった。私の純情な感情を返してほしい。

「あとその体勢辛くない?」

 今七未ちゃんはトイレの上から覗くような形で私に話しかけている。おそらく便器の上か何かに乗って背伸びしているのだろう、縁にかかっている指先が震えていた。

「大丈夫、私って基本マゾだから」

 あ、興奮してるのね。心配して損したわ。

「でも友梨佳ちゃんや、もう第一競技始まっとりますよ。写真撮りに行かなくてよいのですかい?」

「今日最初の競技は変態ズが一人も参加していない競技なので、応援席が修羅場になる前に抜け出してきた次第でございます」

 お姉さま方のおっぱいを眺めたかったけれど、応援席で変態にSAN値削られながら見てたんじゃ何一つ楽しめないだろうし、だったらトイレで一人妄想をしていた方が精神衛生的にいいのでは? と私は考えたわけでございまする。

「でも私含めて変態って好きな子が今どこで何してるかなんて、なんとなくわかるように作られてるから、ここがばれるのも時間の問題だと言っておきます」

 お前らニュータイプなの? それともそういう単体宝具なの? それ変態っていう一言で片づけていい能力じゃないからね?

「まぁ、私はちゃんと忠告しておきましたから、逃げるなら今のうちですよ」

 そう言い残して七未は隣の個室から出て行ってしまった。

 だんだんと遠くなっていく足音を聞きながら、たまにはお友達の言うことは聞いておこうと思い、私も個室から出て、トイレを後にした。



 結果的に言えば応援席に変態の姿はなかった。

 いや、正確には私の知る変態はいなかった。

 私がトイレに籠っていた間、この学校では半裸が制服扱いになったのかと勘違いしてしまうくらい、上半身裸の女の子がいっぱいいた。むしろ体育着をちゃんと着ている子が異端なのではと思うくらいみんな半裸だった。

 なにこの桃源郷、もう一生このままで過ごそうよ。

というわけで私も脱ごうかな、と体育着に手をかけた瞬間、私の世界は暗黒大陸

に突入した。

 そう、最恐最悪の変態たちが、この天国に舞い戻ってきてしまったのである。

 そして、もっと最悪なことに、私がみんなに合わせて体育着を脱ごうとしている瞬間を、ばっちりと目撃されてしまった。

 いや、まだ見つかったとは決まっていない。だって私と変態たちの距離はまだ遠いのだ。しかもこの混乱状態、私はとっさの判断でほふく状態になり、その場からゆっくりと離脱をする。

 しかし、それを許さない子が一人、その中にいた。

「友梨佳さん、どうしたんですか? もしかして芋虫のものまねですか?」

 どこのスタンド使いだよ! と思うくらい素早い行動で私をとらえたのは、もちろんこの方、みんな大好き深桜ちゃんです!

「いやさ、下から見た世界も、存外悪くないかもなって思ってさ」

 苦しい言い訳であるが、しかし相手は深桜ちゃんである。大好きな私の言うことは何でも信じてくれるはず。

「やっぱりこの犬は踏まれたいのよ。そうよね? そうと言いなさいよ」

 相変わらずのロリコンである。

「おいロリコン、誰に許可貰って友梨佳ちゃんに話しかけてるわけ? ロリコンは黙って小学校でも眺めて興奮してなさいよ」

 そしてこちらも相変わらずロリコン絶対許さないマンである。

「まぁまぁ、ここはわたしに任せてよ~」

 とか言いながら私に跨ってくるのは、ふわふわ雰囲気マックスの桔梗ちゃん。ふわふわ雰囲気はあくまで雰囲気であって、ふともものことではないと言っておきますね。ほんとだよ? 私嘘なんてついたことないし。


 今日は体育祭の最終日。

 みんなが待ちに待った特殊種目が目白押しの日である。

 なのに、私はどうしてすでに疲労感が蓄積しているのでしょうか。

 体力が持つか心配な友梨佳ちゃんなのであった。


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