第42話二日目(四)



 結局私たちのグループはその後大活躍するわけでもなく、かといって全然全くもって役立たずというわけでもなく、非常に中途半端な結果をたたき出した。

 獲得得点で言えば三位と、意外と高い順位ということもあり、私たちの奇行はお咎めを受けることはなかったが、ちょっとだけ視線が痛いです……。

 七未の天才的(頭がおかしいという意味で)な発想はというと、あの直後に先生や監視役などの生徒に全力で止められ、最終的にはパンツ一丁になりながら強制退場させられていた。その時には私や深桜ちゃんは既に七未を戦力外と判断、そそくさと玉運びを再開していた。

 競技が終わって少し経つが、未だに帰ってこない七未のことが多少心配ではあるが、まぁ学校の中で危険な目に遭うこともないと思うし、友達と言えば私くらいしかいないから、そのうち帰ってくるだろう。

 ついに体育祭二日目も佳境である。

 嘘、まだお昼です。昨日と違って時間の流れとか時空のゆがみとかの影響からか、二日目はどこかゆっくりしたペースな気がする。

 しかして、心と身体を休めるためのお昼休憩も、私にとっては暗黒に等しい時間となるだろう。

 それもこれも変態たちが私の貞操を競って奪い合いに来る、体育祭外の体育祭となっているからだ。どうしてこうなった。

 とはいえお昼休み。

 私は昨日と同じように設置しておいた回収ボックスを秘密の保管庫に運び、写真やら映像のチェックをグラウンドに一人残ってしていたら、後ろから這い寄る何かを察知した。

 なんとなく雰囲気やら空気感で誰だか分かってしまう自分が怖い……。

「……今日はどんな浮気写真を撮ったんですか?」

「浮気写真って……」

 とんだ言われようですね。それ以外にもちゃんと撮ってるよ、写真部に売りつける用とか、れいのファンに媚び売る用とか、いろいろと。

「まぁそれは別にいいでしょう。それよりも今は非常に重要な用件がありますから」

 重要……なんのことですかね?

「友梨佳さん、早速しましょうか」

 とぼけてる間もなく襲ってきた変態。分かってたけれど、お昼休み始まった瞬間開始とは聞いてないぞ! というかこれリスポン地点に張ってリスキルされたようなもんじゃん! ずるだよずる!

 そんな私の心の声がどこの誰だかに聞こえたのか、追加で変態が二人来た。

「結書さん、それは卑怯ですよ。変態にも変態なりの矜持というものがあるんですから」

「そうだよみーちん。ずるは良くないよぉ」

 リリィと桔梗ちゃんのご登場である。しかし登場が早かったのは何故ですかね? この二人もリスキル狙ってたんじゃないんですかね?

「仕方ないですね……、では今から十分後に開始としましょう。その間に友梨佳さんはどこかに隠れてくださいね。まぁ隠れても絶対に見つけられる自信しかないですが」

 そうだよね、変態ってステルス機能も高性能なら探索機能も優秀って、マジなんでこの子達変態やってんの? 真面目な方に努力すれば偉人にでもなれるんじゃないの? でも変態だからこそこの天才性を持って生まれてきたところあるし、なんだかなぁ。

「じゃあ今から十分後、フライングしないように友梨佳ちゃん以外はここで待機ってことにしましょう。七未さん、ステルス全開にしてもいるの分かってますから、動いたら埋めますよ?」

 リリィが怖いこと言ってる。勢い余って頭まで埋めちゃいそうだから、七未はじっと動かないことを推奨いたします。友達が生き埋めで亡くなるとか嫌だしね。

「ゆりんこ、また後でねぇ~」

 桔梗ちゃんも私を見つけられる自信しかない発言ですね。

 ……盗聴とかされてないよね?



 教室で楽しくお昼を食べている美少女たちを尻目に、私は一人変態たちから隠れています。

 どうしてでしょうか。私はただ美少女たちの小鳥のような囁きを聞きながら、ただただ白米をしこたま食べたかっただけなのに。どうして私はこんな場所で一人寂しくご飯を食べているのでしょうか。

「わたしすごい汗かいちゃった~」

「午後最初の競技ってなんだっけ?」

「ねぇ私の替えの体育着知らない? ここに置いておいたはずなんだけど」

 なんとまぁ華やかで録音のしがいがある会話が聞こえてきたりこなかったりする。

 いいなぁ、私がその場にいれば五感すべてで美少女を感じながら美味しいご飯を食べられるのになぁ。

 ちなみに今日のお昼ご飯を用意してくれたのはれいです。

 昨日の惨事を聞きつけて、だったら私が作ると言って、変態二人を仲裁していた。リリィと深桜ちゃんも互いに「こいつが作るもの食べさせるくらいなら」って感じで、しぶしぶ了承してくれた。

 つまり、久しぶりにまともな美少女のご飯にありつけているというわけです。

「…………ねぇ、別にここでご飯食べてもいいけどさ、息荒げないで下さいよ」

「ごめんよ、でもどんな子だろうと女の子の太もも眺めながら食べるご飯ってすごく美味しいなって思ってさ」

「……残念な変態ですね」

 変態じゃないよ! 女の子が好きなだけ! って言っても通用しないんだろうなって思ってます。

 私が今現在隠れているというか避難しているのは自分のクラスの隣、シスロリコンが所属しているクラスの、シスロリコンの机の下である。これぞ灯台下クラス! 普通なら人がいないところで息をひそめているだろうという追跡者の思考を逆手に取った手法であり、これをすることによって変態追跡者の一人であるリリィに見つかる可能性がぐっと下がるという、我ながら良策と言わざるを得ない策に打って出たのだ。

 さらに言えば、シスロリコンということを除けば愛らしい系美少女であるシスロリコンの太ももを眺めながらご飯が食べられる! ここが天国だったか。

 それに、シスロリコンにもちゃんとお友達がいるらしく、シスロリコンの机を囲むようにご飯を食べているので、そうそう見つからないようになっている。いわば美少女の壁である。囲まれていて非常に悩ましい光景です。あとちょくちょく足で蹴られるという特典もついてきて、私非常に嬉しい限りでございます。

「あ、パンツ見たら頭踏みつぶすから、そのつもりで」

 ご褒美でしかないんだよな、それ。

「ダメだよちーちゃん。この人変態だから喜ぶだけだよ」

 変態のことをよくわかってらっしゃる方がいますね。しかも可愛らしい声。

「それに、踏むならやっぱり小さな女の子じゃなきゃ」

 ……怖いこと言いますねこの子。やっぱり変態の友達は変態ってことなのか。

「小さい女の子なら踏むより踏まれる方がいいぞ。あれは興奮する」

 この机ロリコンしかいないのかよぉ!

「いやお前ら、小さい女の子踏むだの踏まれるだの、気持ち悪いこと言ってるなよ」

 おっ? 随分と常識的なことを言えるお友達もいるっぽい?

「小さい女の子なんて、そこにいるだけで興奮するもんだろ?」

 こいつは絶対に小学校とかの近くに住まわせちゃいけない部類の変態だわ。しかもその他の子ら以上にやばいロリコンだし。

「でも、私別にこの机の下の変態、嫌いってわけじゃないのよね」

「どうして? ただの変態だよ? しかも歳食った変態だよ? 目を付けられたらたちが悪い変態だよ?」

 かわいい声でひどいこと言うなこの子。興奮するからやめろよ。というかあんたらには絶対言われたくないわそれ。

「この子の顔、ちょっとだけ二番目の妹に似てるのよね。あと雰囲気とか」

 ……うーん。非常にまずいのではないだろうかこの状況。

 何がまずいって、新しい変態に目を付けられたって事実がまずい。あと相手のことをよく知らずに頼って近づいてしまったということがまずい。

「あの子最近私に裸を見られるのを嫌がるのよ。たぶん時期的に下の毛が生えてきた頃だから、それを見られるのが嫌なんだと思うのだけれど」

 マジこいつほんと妹たちとの接見控えさせた方が良いぞ両親。

「でもね、そういう時期でしか見られない光景ってあるじゃない? だから私はいつも無理やり脱がしてるんだけれどね」

 犯罪すれすれ……ってわけでもないのか? 姉妹だから許されるのか?

「でも、無理やりって私も趣味じゃないし、いっそ放置プレイして自分からおねだりするの待とうかなって思ってね」

 思考回路がマジロリコンで恐怖を感じる。リリィとか深桜ちゃんとかとは別次元での恐怖が、私の頭上から降りかかってくる。あ、あとパンツ見えた。ピンクの可愛らしいショーツですこと。

「でも、その間の玩具って必要じゃない? 無いよりある方がマシレベルだけれど、躾次第ではバター犬くらいにはなるでしょうし」

 犬ですか……。まぁもう人形とか拉致監禁なんでもござれの人生だったし、犬になるくらいなら抵抗……あった方がいいよね。

「というわけで、よろしくね、私のわんちゃん」

 私の意志とは……。

 もうさ、私のこと無視して勝手に決定事項作るのやめようよ~。私の身体が頑丈でも耐えられなくて壊れちゃうよ?

 ところで疑問ですが、この子の名前って結局なんなの?

 まぁいっか、シスロリコンで。

 そんなこんなで、私は現時刻をもってシスロリコンのバター犬となりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る