第39話 二日目(一)



 本日体育祭二日目の、最初の競技は『じゃんけん競争』である。

 分かる。分かるよぉ。じゃんけん競技ってなにそれ? って思う気持ち、すごく分かるよぉ。

 まぁこの競技は簡単に言ってしまえば、『借り物競争』のじゃんけん版である。例によって複数の箱がトラックの各所に配置されていて、その中に1から5までの数字が書かれた紙が入っている。選手は箱からその紙を引いて出た数字分、勝ちと負けを積み重ねなければならないのだ。

 そう、この競技、じゃんけんに強くても負け数が稼げず、じゃんけんに弱くても勝ちが稼げない。たとえ10連勝したとしても負けがゼロであれば、次の箱まで行けないし、逆もそのしかり。

 そしてこの競技、何がいいかって、『借り物競争』と同様に選手がみんな私たちが座っている応援席に近づいてきてくれるのだ。

 これほどのシャッターチャンスがあるだろうか、いやないね。私が朝から晴れやかな気分であるのは、ひとえにこの競技が二日目最初の競技に入っているからだ。

 けれど、この競技も女の子の甘い汗が感じられないのが、唯一残念なところだろう。

「……昨日はお楽しみだったようですね」

「楽しいと思えるようになってしまったら、私はもう取り返しがつかないくらいまで落ちてるよ……」

 あれをお楽しみだと言うのであれば、私は人間やめて犬になった方が良いとさえ言えますよ。

「でも、友梨佳ちゃんなんだか楽しそうっていうか、嬉しそうにしてるじゃん」

「いや、これは今日の最初の競技が『じゃんけん競争』だからだよ。昨日の事は関係ない。むしろ昨日の出来事は全面的に記憶から消し去りたい」

「でもでも、昨日はずっとあの深桜と一緒だったわけでしょ? いいなぁ……私も一晩中友梨佳ちゃんを独り占めしたいなぁ……」

 いっつもしてるじゃないですか。

「あら、朝から友梨佳さんに引っ付く糞がいると思ったら、リリィさんではないですか、おはようございます」

「ニタニタと朝から気持ち悪い笑顔浮かべちゃって、みんな気味悪がるからやめたら? おはよう」

 なんでみんな嫌味を言ってから挨拶するの? 流行ってるの?

「友梨佳さん、昨日はすごく楽しかったですね。私、今でも思い出します……あの友梨佳さんの温もりを」

 温もり……まぁ、温かいって言ったら温かいのかな? 一応出したばっかの奴だったし。いや、小の話ですよ?

「友梨佳ちゃんの温もりなら、私も毎日感じてるよ。主に顔に」

 そうですね。毎夜私の股に顔突っ込んでますものね。

「そんな意識の無い時のことなんて、回数に数えられませんよ。それに、友梨佳さんの恥ずかしくも嬉しそうな表情を見ながら行為をするのが良いんじゃないですか」

 恥ずかしいは否定しない。けれど嬉しそうは全力で否定させていただきますよ。別に本当に嬉しくないですから。……本当ですよ?

「それは、まぁそうだけれど……」

 そこで同意するのが変態。否定するのが普通の子って、良い子は覚えておきましょうね。

「でも、友梨佳ちゃんたまに起きてても止めない時とかあるし、いつも意識無いってわけじゃないと思う」

「……友梨佳さん? 反論があるのであれば、私聞いてあげますよ?」

「あっと……それは……まぁ、なんですかね。一人でイけなかった時とかは、ちょっと嬉しかったりします」

 でも、私が自慰でイけない理由としては、リリィが何時私の部屋に入ってくるか分からないってのがあるから、私は悪くない。リリィが悪い。

「……今度から、そういう時は私を呼んでください」

「いやいや、深夜の外出は禁止だよ? 深桜さんともあろうものが、学生寮の禁足事項に触れるなんてこと、ありませんよね?」

 リリィ、それは君にも言えることなんだよ? 消灯時間後の部屋移動はもちろん、ルームメイトの個室にも移動はしちゃいけないんだよ?

「実は最近、新しい貞操帯を買いまして……」

 嫌な予感しかしないのですが気のせいですか、気のせいじゃないですよね知ってました。

「その貞操帯には、なんと振動するアレが付けられるんです!」

 アレとかぼかしても無駄だぞ。私ちらっと昨日見たぞ、あんたの部屋にリモコン式のローターがあったの。

「それを装着すれば、離れていても友梨佳さんの絶頂をコントロール出来る! ああ、なんて夢のような装置なのでしょうか!」

 私から言わせれば無間地獄の扉が開いたような気分です。

「というわけで友梨佳さん、これ、付けてください。今すぐ」

 と言って深桜ちゃんは持っていた袋から新しい貞操帯とやらを取り出して、私に手渡す。

「ここで?」

「ここで」

「本気で言ってる?」

「私はいつも本気です」

 いやー、さすがの私も公衆の面前で下を脱いで貞操帯を付けるなんて辱めは受けたくないんですけれど。

「それはいい! すごくいい提案ですよ、深桜さん」

「だから、あんたは気配消すのやめなさいって言ってるでしょうが」

 いつ現れたのか、私の背後には露出大好きっ子である七未がいた。あんた忍者の素質あるんじゃない? そういう学校に通いなよ。あっ、でも七未は巨乳ってわけじゃないから、入学できないのかな?

「しかし、ちょっといただけませんね。露出っていうのは、見られるかもしれない、見られているかもしれない、という前戯を楽しんだ上で、見られちゃった、見られちゃってる、という本番がより一層興奮するんじゃないですか」

「熱弁しても無駄だぞ。それ、あんたしか理解できない領域だから」

 正直、ここまで至った露出狂とは関わりあいたくないけれど、友達になっちゃったんだよね。軽く後悔。

「確かに、露出は本来見られるかもしれないというギリギリのラインを楽しむものであって、見られるの前提の露出はそもそも露出ではなくただの変態ですね」

 あれ、理解してらっしゃるの深桜ちゃん?

「そうね、だったら午前中は貞操帯の装着はさせずに、お昼の時間を使って友梨佳ちゃんが校内のどこかで露出プレイをする。それを私たちが探して、見つけた人は特等席でそれを鑑賞できるって感じにしたら?」

「それにしましょう! たまには良いこと言いますねリリィさん」

「そうだね、私もそれなら賛成」

「そういうのはまず最初に私に同意を求めないかな、普通」

 と言ってから私は、あっ、こいつら普通じゃなかった。と思った。

「よーし、だったら早く午前の競技を終わらせないとね!」

 それは個人が頑張っても無理なのでは。

「そうですね。私たちが力を合わせれば、午前の競技など一時間で終わらせられますし」

 あなたたちは本当に人間ですか? 人間やめて変態という新種の生物にでもなったんですか?

「露出のことなら、誰にも負けませんよ」

 露出以外でも誰かに勝とうよ。まぁいいけれど。


 ……で? なんでやること前提に話してる、この子達は。

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