第38話 一日目の終わり、二日目の朝



 無事に(……無事に?)借り物競争で借りられた私とリリィ、そしてロリコンは一番になり、全校生徒に私が先ほど恥ずかしい行為を行っていたことを知られるという辱めを受けた。

 もう帰りたい……。と思っていた時も一瞬だけありましたが、しかしこんな機会滅多に来るわけでは無いので、ここで帰るわけにはいかないのです!

 だが、残念ながら私が意気消沈していた時も体育祭は進行していて、ついに一日目最後の競技となっていた。

 体育祭の一日目の最後を飾るのは、激しい競争系の種目ではなく、三年生全員の息の合ったダンスだった。

 この日のために自慰を我慢して毎夜練習をしました! なんて言われた日には、こいつらやっぱり変態だわ。と思わざるを得なかったが、しかしそれもダンスが始まる前までで、いざダンスが始まると誰もが目を奪われた。

 綺麗や美しい、妖艶であり甘美、溌剌としながら、しかしお淑やかに舞い踊る三年生たちは、確かに私たちよりもずっと大人に近く、けれど少女のような可憐さを残した、言わば”未完成の完成形”を私たち下級生に見せてくれた。

 この瞬間を私は逃さずレンズに収めるために、シャッターを押し続けた。

 多分、今日初めてだろう。変態的な角度で撮っていない写真は。

 そしてこれも初めてだろう。女の子を、ひたすら純粋に可愛いと思えたのは。

「でもそんな友梨佳は、この後その写真でするんでしょ?」

「人が純粋に綺麗だと思ってる光景を、どうして七未は汚すの?」

 と、何とも私らしいというか、変態らしい会話で、一日目が終了した。




「今日はあまり友梨佳さんと一緒にいられなくて寂しかったです」

「そうですか……」

「ですので、夜くらいは一緒にいたいと思いまして」

「で、この状況と」

 いきなり拉致監禁とか、この変態に囲まれた学校にいれば慣れてしまうことかもしれないけれど、慣れてるからってやって良いわけでは無いんだよ?

「それで、深桜ちゃんはこの後私をどうする気なの?」

「朝までずっと私の相手をしてくだされば、それだけで十分ですよ」

 体育祭初日が終わった直後に夜の体育祭しろだなんて、私の体力持たないよ。

「友梨佳さん、今日の体育祭は楽しかったですか?」

「なにその質問……まぁ、楽しかったけれど」

「でも、私がいなくて寂しかったでしょ? 寂しかったはずです。寂しくないとおかしい」

 寂しさの押し付け良くないです。というか深桜ちゃんにも結構な頻度で会ってたと思うけれどなぁ。話はしてないけれど、視界の端にちらっと見えたりすることが何度もあった。

 でも、深桜ちゃん的にはこうして面と向かって話をほとんどしていないから、不満が溜まっているんだと思う。

 しかし、どうしてだろうか。今日は深桜ちゃんという変態にあまり絡まれていないのに、変態に絡まれまくった記憶しかないぞ。

 あ、あのロリコン改めシスロリコンの記憶が強烈だからか。

「そんな寂しがり屋の友梨佳さんは、絶対に私が側にいなくて寂しかっただろうから、今日は朝まで一緒にいてあげるという事です。私って優しいですね」

 寂しさのついでに優しさも押し付けられてしまった。これが余計なお世話ってやつなのか。

「友梨佳さん、友梨佳さんは私にしてほしい事ありますか?」

「この拘束を取っていただけませんか?」

「それは無理な相談です」

 言ってなかったが、私は今椅子に縛りつけられている。両手はおろか、両足の自由もないという、完全に詰んだ状態なのだ。しかし、まだ普通に座らされているだけ幸運と言えよう。これがもしリリィとか、七未とかだったら、多分私の大事な部分が晒されるだけでなく、様々な辱めも受けていただろう。

 だからと言って、深桜ちゃんで助かったなどとは、私は思えない。

今はまだ普通なだけであって、これから夜が深くなっていくにつれて、私を置いてきぼりにした深桜ちゃん劇場が開催されるに違いないのだ。

「それ以外に何か、私にしてほしい事ありますか?」

「トイレ行きたい」

「ここでしてもらって構いませんよ」

「いやいやいや、ここ普通の部屋でしょ。というか深桜ちゃんの寝室だよね。そんな場所を私の分泌物で汚したら悪いし」

「友梨佳さんから出るものが、汚いわけないじゃないですか」

 いや汚いでしょ。というか私が嫌だよ。股がびしょびしょのまま過ごすなんて。

「ほら、私がトイレしてるところ見せてあげるから」

「いつも見てますし」

「今日の私のトイレは一味違うよ!」

 何とかしてトイレに行きたい私は、ある事ない事言って深桜ちゃんの興味を引こうと必死だった。

 必死だったが故に、私はとんでもない事を口走ってしまったという自覚も無かったわけで。

「今なら私のおっぱい揉み放題も付きますよ!」

「よし乗りました! 早速トイレに行きましょう」

 …………うーん、トイレに行きたい一心で、本当にやばい条件を付けてしまった気がする。まぁいいか。私のおっぱいなんて所詮小さくもなく大きくもない中途半端に育ったものだし、あまり揉みごたえとかないから、深桜ちゃんもすぐ飽きるだろう。

「うふふ、一日中友梨佳さんのおっぱい揉み放題なんて、銀リリィはさぞかし悔しがるでしょうね」

 あれ? 私一日中とは言ってないのだけれど? どこでそんな風に変換されたのかしらん?

「あ、でもその拘束取るの面倒なので、簡易トイレでいいですよね?」

「いやいや、ちゃんとしたトイレに連れて行ってくださいよ」

「こういった場所でするって事が、興奮するんじゃないですか」

 もう何を言っても聞いてもらえないようです。

「じゃあ、ちょっと待っててくださいね。今持ってきますから」

 あぁ、今日も私の意見は聞いてもらえず、さらにまた一つ禁断の扉を開いてしまうようです。

 誰か助けてくれませんかね? 代わってくれてもいいんですよ?




 朝、朝である。

 私が汚されてしまった感がある夜が明け、とうとう体育祭二日目の朝がやってきたのだった。

 昨日の夜の事は話さないでおく。思い出しただけで私の人格が崩壊してしまいかねないから。

 というわけで、気を取り直して二日目である。

 今日は中日という事もあってか、目玉競技やら、注目競技が目白押しと来ている。これはシャッターチャンスがいっぱいの予感ですよ!

 と、まずは着替えからしないといけないか。

 昨日拉致された後に、強制的にお風呂に入れられたのはいいが、別に着替えが用意されていたわけではないから、汗が染みていた体育着をそのまま着せられていたのだ。それって今思うとお風呂入った意味無くない?

 とまぁ、別にどうでもいいことを考えながら、私はベッドの近くに置いてあった自分の替えの体育着に着替えた。

 まぁ、今ここ私の部屋ってわけじゃないんだけれどね。

 知っての通り、私は昨日の体育祭が終わった直後に拉致監禁されたので、今深桜ちゃんの部屋で一夜を過ごしてしまったのだ。しかもベッドも同じである。

 だから、今着替えている体育着も、本当に自分の体育着ってわけではなくて、深桜ちゃんが用意した体育着である。

 そう思うとちょっと着替えるのに抵抗がある。というか抵抗しかない。何か仕掛けられてそうで戦々恐々。

 でも、今こうして眠っている深桜ちゃんの表情を見ていると、それでもいいかなって思えてしまうから、ずるいと思う。

 だってこんなに幸せな表情をされたら、どんな無茶な要求も断れないじゃない。

 …………これで変態じゃなかったら完璧なのになぁ。


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