第32話 一日目(一)



 体育祭当日と言っても、学生寮から直接体育着で登校していいというわけではない。

 まずは朝のHRを手短に終わらせ、各生徒がどの競技に参加して、何時にどこにいるのかを確認してから、教室で着替えとなる。

 いくら学生寮と学校が近いと言っても、数分は敷地外を通るのだ。そこら辺の体裁というか、周辺住民の目も気にしないといけない。

 まぁ、ここら一帯が学校みたいなもんだから、そういった心配はないんだけれどね。

 さらに言うなら、私としてもたくさんの女の子が一斉に着替える瞬間に立ち会えるという事で、とても満足しています。

 ……満足、していいのかしらん?

「どこ見てるんですか? 友梨佳さん」

「いや、空が青いなって思って」

「そうですね。晴れて良かったですね」

 ついでに言うと深桜ちゃんのパンツも晴れ晴れとしていた。

「深桜ちゃん深桜ちゃん、ちょっと近くないですかね? こんな近いと私着替えづらいのですが」

「だって友梨佳さん、こうしてないと私以外の女の子の身体をじろじろ見るでしょ?」

「いいじゃない! 今日くらいいいじゃない! 体育祭くらいうら若き少女たちの肢体を堪能させてくれてもいいじゃない!」

「友梨佳さんは、私の身体で満足してください」

 そんな………………。

 あ、でも補足しておくと、他のクラスメイトも私の事を警戒してか、極力素肌を見せないような着替え方をしていたりする。

「そんなに息を荒げてたら、警戒するのも納得だけどな」

「れい、私が今日という日にどれだけ賭けていたか知っているでしょうに」

 私を避ける(決していじめではない)クラスメイトが大半ではあったけれど、たまに話したりする子やれいなどは、比較的近い距離で着替えてくれている。ぶっちゃけて言ってしまえば、壁役である。

 でも、それでもいいの。女の子が近くで着替えている。無防備な状態を私に見せてくれているというこの瞬間があるだけで、私がどれだけ救われているか。普段から真性の変態に囲まれていると、こういった普通の女の子の裸体が新鮮で、私控えめに言って昇天しそうです。

「気合のベクトルが違うんだよなぁ……」

「でも、やる気がないよりかはマシでしょ?」

「そりゃそうだけれど」

 ベクトルなんて関係ない! あるかないかが問題なんだ!

「しかし友梨佳さん。クラスなんかに貢献しないと、この先の学校生活にも支障があるのでは?」

 深桜ちゃんの言う事ももっともである。

 この学校に入って初めての行事であること。そしてこれがクラス単位や学年単位ではなく、全学年で行われる行事であること。

 これらを理解したうえで行動をしなければ、今後私が変態行動を取るうえで、今以上に白い目で見られることになってしまう。

 分かってはいるんだけれどねぇ。引けない時ってあるじゃない。

「今日のところは学年別競技が大半だから、まぁあからさまに変な行動しなければ大丈夫じゃない?」

「れいさん、今日はそれでいいとしても、明日は組別、明後日は色別なんですよ。後々に響くような行動も控えるべきかと」

 この学校の体育祭って三日もあるのか……、知らなかった。というわけでは無い。むしろこんだけ体育祭に日程を割いている学校も中々無いっていうか、ここだけじゃない? こんなにバラエティ豊かな体育祭って。

「でも、そんなに気にしなくても、普通に体育祭に出てれば変な行動とか取らないだろうし……」

「れいさん、ここにいるのは、変態を自称して変態を引き寄せ、変態に愛され変態を愛している変態の申し子ですよ? 普通に参加なんて無理ですよ」

 おい。お前が言っていいことじゃないぞ。というか私は変態を愛しているんじゃない。女の子を愛しているんだ。かわいくて綺麗で、愛らしい女の子が大好きなんだ。私が変態なのはもう認めよう。しかし、私が変態を愛しているかと言えばそうではないと否定しよう。

「とりあえず、やる気がある事だけは見せておいた方がいいってこと。別に誰も友梨佳に活躍を期待してないし」

 ちょっとは期待してよ。褒めて伸ばさないと私縮んで硬くなっちゃう。

「はい、終わりましたよ」

「ありがと」

 どうやらそんなこんなを話していた間に、私の着替えが終わったらしい。

「……突っ込まないようにはしてたけれど、普通に考えたらこの光景も異様だよね」

 ははは、今更何を言っているのかねれいは。

 私が自分で着替えが出来るとでも? 深桜ちゃんがいる空間においては私という個人は存在せず、ただひたすらに人形に徹していなければいけないのだ。少しでも自分で何かしようとすると、深桜ちゃんが「勝手に何してるんです?」とか見えない短刀で心臓を穿ってくるんだから。慣れって怖いね。

「友梨佳さんは私がいないと何も出来ないですからね」

 深桜ちゃんのいい笑顔いただきました。

 でも、何も出来ないじゃなくて、何もさせてくれないが正しいんですけれどね。




 ではここらでちょっと体育祭の補足をしておこうと思います。

 この学校の体育祭は三日間行われる。

 一日目が学年別。つまりは一年生、二年生、三年生で別れて競技を行うというという事。

 二日目が組別。これはクラスを縦に割ると考えていただければ分かりやすいと思います。例えば、一年一組だったら二年一組、三年一組と同じ組というわけです。

 そして最終日である三日目は色別。これはクラスが決まった時に、クラスごとに色が割り当てられます。私たちのクラスは青だったので、二年三組、三年一組と同じ色となっているわけです。

 それぞれ日別で得点計算され、最優秀の学年、組、色には、学校生活で非常に嬉しい特典が与えられるのです。例えば学食の優待券だったり、最優秀専用の売店などが利用可能などなど、本当に様々です。

 さらに、この三日間全てで最優秀に輝いたクラスには、長期休暇中限定ではあるけれど、豪華旅行も予定されていたりする。しかしこれは未だ達成したクラスは無いので、実際に行った生徒はいないとか。

「なるほど、よくわかりますた」

 グランドに行く途中、リリィと合流(待ち伏せ)したので、簡単に体育祭の説明をしてもらった。

 にしても、複雑やなぁ。もっとシンプルにかわいい子がいっぱいいるクラスが優勝! とかに出来ないの? 出来ないか。みんなかわいいもんね!

「まぁ私や結書深桜は実行委員に入ってるので、積極的に競技には参加できないんですけれどね」

「そうなん?」

 だったら深桜ちゃんあんなに必死に二人三脚に出なくても良かったのでは……。

 そうか、それも計算の内か。目いっぱい私と体育祭を堪能出来ないから、せめて参加する競技は私と一緒が良いということか。かわいいやつめ!

「ええ。でもだからと言って友梨佳さん、私以外の女の子に気安く接触したらどうなるか、分かっていますね?」

 これが無ければ完璧なのに。どうして神様はこの子にこんなにも大きな欠点を与えてしまったのん?

「じゃあ私は委員の仕事あるから」

「ほーい、また後でねー」

 説明だけして去っていたリリィを、私はちょっと申し訳なさそうに見送った。ごめんね絡みが少なくて、後でいっぱい絡んであげるから。って言ったら面倒なので、思っておくだけにしときます。

「友梨佳さん、やっと二人きりですね」

「あれ? れいは?」

 教室出る時も、運動靴に履き替える時もいたはずなのに。

「れいさんだったら外に出た時に、上級生に声をかけられてどこかに行ってしまいましたよ」

「一声かけてくれても良かったのに」

「一瞬でしたからね。声もかけられなかったのでしょう」

 ならば仕方ない。それに今日は学年別である。後でまた会えるだろう。

「しかし、二人っきりになった途端腕に絡みつくのはどうでしょう」

 これだと本当に付き合ってる二人って勘違いされちゃうくらいには近いですよ。確かに深桜ちゃんのことはそれなりに好きだし、告白もしたけれど、付き合ってるかと言われれば怪しい。多分深桜ちゃんの中では付き合ってる設定なんだろうけれど、私的にはあの告白は無効というか。忘れ去りたい記憶というか。

 まぁ、色んな変態に囲まれてへんやわんやしているから、そこらへんも今うやむやなんだけれどねぇ。

「いいじゃないですか。これから地獄の体育祭が幕を開けてしまうのですから」

「地獄って、私にはむしろ天国なんですけどね」

「だから私には地獄なんですよ」

 まぁ、体育祭を楽しみに思うか、苦だと思うかの違いという事だろう。深桜ちゃんには悪いけれど、私は楽しみにしていた派ですので、存分に楽しませてもらいますね。

 とりあえずは、ベストスポットにカメラ設置から始めるとしよう。


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