体育祭

第31話 変態達の体育祭



 ついに来てしまったか、この時が……!

 午前五時、空がしらけてきたこの時間帯に起こされることはあっても、自分から起きるのは恐らく初めてでは無いだろうか。

 しかし、それもそのはず。

 今日という日は、私の歴史に深く刻まれるかもしれない日なのだから。

 そう、みなさんお楽しみにしていた(であろう)体育祭当日である。

 体育祭前夜とか、準備で既に色々やらかしていた私や変態達ではあったが、それも今日という日のためであり、むしろ今日という日があったからこそ、変態達の容赦ないプレイの数々に耐えられた。

 そう、今日は特別で、格別な日なのです。

 私のような気持ち悪い女の子大好き女としては、女の子の体育着、女の子の汗をかく姿、女の子のきらきらとした笑顔、女の子の蒸れた匂い等々、いかんなく、そして公然と堪能が出来る素敵行事なのだ。

 この日のためにおっぱい大きい女の子のチェックは済ませているし、なんならおっぱい小さい子のチェックも欠かさなかった。つまり可愛い子なら誰でも私の変態眼へんたいがん(ってなんだ)の対象になるのだ。

 カメラの準備もばっちり。録音機器もしっかりと用意している。女の子の汗を拭ってあげるタオルも予備がたくさん。

 けれど、そう焦ってはいけない。

 まずは自分の準備からしっかりとしておかなければいけないのだ。

 可愛い女の子優先とは言っても、体力がもたなければ意味が無い。朝食はもちろんの事、私も一応競技には参加するので昼食の準備も怠ってはならない。

 そしてそして、運動といったら飲み物が欲しくなる!

 ありとあらゆる女の子と間接キッスが出来るようにと、飲み物の用意も怠ってはならないのだ。

 頭も徐々に正常運転に移行してきたところで、私はベッドから飛び起きて朝食作りへと向かった。

「あら、今日は早いんですね。友梨佳ちゃん」

 お前もな。

 もう一度言おう。

 午前五時。空がようやく白けてきた時間帯である。

 そんな時間に起きた私よりも、さらに早く起きているルームメイト。

 私よりも楽しみにしてたんじゃないかってくらい気合入ってません? しかも既に朝食の準備は出来ており、昼食の準備もほとんどが終わっていた。

 まぁ、ここで全力を出して朝からお疲れ顔で体育祭に参加することになるよりはいいか。

「おはようリリィ」

 挨拶忘れない。これ大事。

 あれだ、いかにリリィが変態であろうとも、美少女カテゴリに分類されるのは間違いないのだし、こんな美少女に朝食用意されてるなんて、結構幸福じゃないかしらん。

「精力剤も入れておいたので、今日はずっとムラムラ出来ますよ」

「一気に食べる気失せたな」

「冗談ですよ」

 冗談なのか本当に。この変態ならやりそうだし、実際何回か盛られたことあるから信用ならないのよね。

「本当ですよ。今日に限ってムラムラされたら困りますからね」

 はは、確かにな。私が他の女の子で興奮しちゃったら、お前ら変態どもは嫉妬心がバーストして私にリンクして来るもんな。それだけは避けたいし、リリィもわざわざ嫉妬心なんぞを薪にしてバーニングするような奴じゃない。

 一応は信じておこう。

「じゃあ、いただきます」

「はーい。召し上がれ」

 しかしなんだ。たった一か月一緒にいるだけでも、それなりに食べ物の好き嫌いや、好みの味付けなんかは把握できたりするんだな。今日の朝食なんかばっちり私の好きなもので構成されている。メニュー選びが雑だけれど。

 なんでオムライスと焼き魚が一緒に並んでるんだよ。しかもオムライスと卵焼きとスクランブルエッグって、どんだけ卵推しなの?

「……で、どうしてリリィは見てるだけなの?」

「ご飯食べてる友梨佳ちゃんでお腹いっぱいにしようと思って」

「馬鹿なこと言ってないで、ほら、ちゃんと食べなさいな」

 というか、この量を一人で食べろなんて言われてもこまいっちんぐなんですけれど。

「友梨佳ちゃんがそう言うなら……、いただきます」

 渋々と言った表情でリリィはご飯を食べる。

 そういえば、朝食一緒に食べることは多いが、ゆっくりと食べられる日はあまりなかったような、やっぱりあったような。

 だから、こういう風にゆっくりと二人で朝食を食べる日があっても、別に悪くはないだろう。




 朝食を済ませても、まだ午前六時。

 他の生徒は今頃起きてやっと朝食作りが多いだろうが、私たちはもう制服まで着て、しっかり荷物の最終確認も済ませてしまったので、ぶっちゃけ暇。

 暇だとなんだがエロいこと考えちゃうから、何かで間を繋いでおかないとやばいのよね。特に今なんか変態と二人きりなんだし。

「こういう時に深桜ちゃんがいれば、抑止効果が期待できるのに……」

「呼びました?」

「ぅおっと!? さすがの私もこれにはびっくり仰天ですよ!」

「うふふ、驚いた顔も可愛いです」

 呼ばれて飛び出た変態、我らが変態界のホープ、結書深桜ちゃん。

「今どこから出てきたの?」

「企業秘密です」

 どこかに秘密の通路とか繋げられたりしてないだろうな、おい……。

「害虫の声が聞こえると思ったら、結書深桜、一体どこから入ってきたんですか? おはよう」

「這い寄るしか能のない変態さんは、朝からお元気ですね。はい、おはようございます」

 前に何か付けないと挨拶も出来んのか、この変態達は。

 でも、最低限の礼儀は忘れないって、変態は変態でも腐ってはいないってことですかね。

「友梨佳ちゃんの朝は私と二人きりで過ごすために存在するのです。邪魔者はすぐに部屋へと帰ってもらいたいものです」

「あらあら、私は友梨佳さんが呼んだから来たまでですよ? ということは、友梨佳さんは今、この瞬間私を必要だと判断してくれたんです。なら帰ることは出来ませんね」

「ぼそっと名前を呟いただけで側に来るような、視姦趣味のお嬢様は友梨佳ちゃんもいらないって思ってますよ」

「どうして私の名前を友梨佳さんが呟いたって知っているの? あなたの方こそ隠しカメラとか盗聴器を外してあげたら?」

「ちょっと待った。なに? 私の知らないうちにそんなの取り付けてたの二人とも」

 私のプライバシーどこ行ったの? 休暇取ってベガスにでも行っちゃったの?

「あら? 友梨佳さんは知ってるとばかり」

「うん。だってあれ、素人でも分かるような場所にしか設置してないし」

 そうなん? その素人にも分かるような場所に設置されても気付かなかった愚か者が私なん? でもだからって付けていい理由にはならないでしょうに。私だって一人で色々したいお年頃なんだよ!

「大丈夫ですよ。ちゃんと自慰の瞬間は録画して取っておいてますし、体育祭が終わった後にでも、鑑賞会を開きましょう。もちろん私の部屋で、二人きりで」

「自慰の録画なら私もしてるし。鑑賞会ならここでも出来るでしょう。二人きりになんてさせないよ」

 深桜ちゃんには排泄を管理されているし、リリィは毎夜のごとく処女検査と言って弄ってくるから、今更恥ずかしいとは言わないけれど、それでも限度ってものがあると思うの。

 そんなことを思っている間にも、二人の会話は続いていた。けれど先ほどのような言い争いではなく、自分たちの自慰のおかずについて話していた。

「録画を見つつ、友梨佳さんの使用済み下着を嗅いでするのが楽しいのよね」

「そうそう、寝ている友梨佳ちゃんの目の前で友梨佳ちゃんをおかずにしつつするのがいいのよね」

「ずるいです。それは私もまだしたことありません」

「これはルームメイトの特権ですからね。仕方ありませんよ」

 ほんと、あんたら仲良いね。




 何はともあれ、体育祭である。

 何度も言うが、誰もが楽しみにしていたであろうこの日を、私は存分に堪能したい所存です。

 今、この瞬間にしか撮れない初々しい少女たちの肢体。眩く光る汗と笑顔。語らう声は澄んだ空のよう。

 ああ、だめ。登校中でこんなに興奮したら身体の水分がどんどん下から排出されてしまう。脱水症状とかにならないように気を付けねば。

「あー。おはよーゆーりん」

 この甘ったるくて濃厚なレズが漂う声は。

「おはよう桔梗ちゃん」

 私が顔を見ずに挨拶すると、桔梗ちゃんは少し驚いたようだ。

「おー、確認もせずに私って言い当てるゆーりんかわいいー。キスしていい?」

「ダメです!!」

 あ、私が言ったんじゃないですよ。私の後ろを背後霊のごとくついて来ている深桜ちゃんですよ。

「えー、ご褒美のちゅーくらいいいじゃない」

「ダメったらダメです。いい加減にしてください」

「なら、腕を組んでも」

「ダメです」

 深桜ちゃんはまだいいとしても、後ろで無言のまま怨念放ってるリリィがいつ爆発するか、私心配です。

「じゃあー、勝負しませんか?」

「ん? 勝負、ですか?」

「そうです、ゆーりんの処女を賭けた勝負です」

 は? 何故私の処女を? というか勝手に賭けないでもらいたい。というか私が処女なのか確定なんですか? まぁそうなんですけれど。

 いや、厳密に言ってしまえば初めては私の指、かな?

「……いいでしょう! その勝負、乗りました!」

 鼻血、どうにかしてから喋ってください。

「あ、それなら私も参加します」

 今の今まで黙ってたのに普通に会話に入ってくるなよ。

「……私も参加していいんですかね?」

「あんたはいつの間にそこにいたんだね、七未」

「いやー、なんとなく声かけづらくて、ね」

 という事は、この会話が始まったあたりから既に後ろにいたってことか。変態のステルス機能ってすごいなー。

「なにで勝負するの?」

 とりあえず私に許可を取るってことはしないんですね、誰も。

「この学校で開催される体育祭には、極秘に企画が進められている競技が存在するらしいの。それで勝負はどう?」

 なにその不穏な響きしかない競技。絶対何か変態的な競技じゃん。

「いいでしょう。その種目の総合的な順位で決めるとしますか」

「私もそれでいいですよ」

「私もー」

 これ絶対後から参加者増える奴ですね。私には分かります。

「ふふ、これは負けられない戦いですね」

「どの競技よりも全力でかからないとね」

「んふふー、楽しみー」

「……カメラの準備しておかないと」

 楽しそうですね、みなさん……。


 かくして、体育祭当日の朝。

 私の今年一番とも言うべき健全なる体育祭と。

 私の処女を(勝手に)賭けた変態達の戦いが、始まるのだった。


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