第27話 ブルマと体育祭
「やっぱりあれよね、運動とかって面倒よね」
朝、かんらちゃんに教室で挨拶を交わすなりいきなり言われた言葉である。
私は何でもやろうと思えば出来てしまう方なので、面倒と思うこと自体が少ないのだが、まぁ気持ちは分からなくはない。
しかし、友人が準備を進めている行事を面倒とはっきり言ってしまうのはどうかと。
「私ってほら、か弱い女の子じゃない? 五メートルくらい走ったら息が上がるくらいか弱い女の子じゃない? だから面倒なのよ」
それってもう病気の類を疑った方がいいような。でもかんらちゃんは確かに運動が得意そうな体格では決してない。でもこの言葉には少しばかりの嘘が混じっている。
「かんらちゃん、運動得意じゃん」
「それとこれとは話が別よ。大体、運動が出来たとしても好きだとは限らないじゃない。どうしてみんな運動出来ることはイコール運動好きって思うのか、ちょっと意味が分からない」
言葉を尽すほどに面倒だと思っているのは分かった。しかし、今言った意味が分からない。私がこの前体育祭の準備が意外と忙しいって言って、放課後の遊びに行くのを断ったのを根に持っているのだろうか。
「それを学校の、しかも一つの行事として大々的にやる体育祭なんてもう悪意しか存在していないよねって感じ。滅べばいいのに」
滅べばいいまで言うか。でもそういうものなのかもしれない。この学校は特に体育会系の部活に力が入っていたり、運動が得意な子が多いとかではないので、少し運動が苦手な子が多い気がする。私の周りを見ても運動が得意な子は二、三人程度だろう。
「でも、全学年の女の子の体操服を見られる貴重な機会でもあるから、一概に悪とは言えないのよね。ずるいわ」
「かんらちゃんがさっきからもう何が言いたいのか分からないよ、私。もっとストレートに言って欲しいです」
黙って聞いていたがもう我慢が出来なかった。本当にいきなりすぎてもう何が何だか分からないし、朝からここまで不満をぶつけられる事が珍しくてついつい強めの口調になってしまった。
しかしその事にかんらちゃんは何も言わずにただ続けた。
「つまり、体育祭に出たくない」
「いきなりどうしたのさ。この前は「体育祭なんてどうでもいい」とか言ってなかったっけ」
「どうでもいいとは思ってるよ、今も。ただちょっと事情がありまして、今年の体育祭からは出たくはないなと」
「今年の体育祭からって、私たちまだ一年生だし、高校の体育祭全部出ないことになっちゃうよ」
「それでも構わない。というかむしろそうしたい」
一体どうしたのだろうか、本当に。ここまで学校の行事を拒否することはみなみちゃんの役割であって、かんらちゃんがするのは結構珍しいというか、役割を取ってあげないでって思っちゃったりするんだよね。
「何々、何話しているの? ナニの話?」
「朝から下半身の話題を持ち出すな。欲求不満だと思われるよ」
「実際そうだから思われても仕方ないよ」
仕方なくはないだろ。
「下半身で言えば」
「それ続けるの?」
かんらちゃんももしかしたら欲求不満なの?
「まぁ聞きたまえ。下半身で言えば、体育祭にはみんなブルマで出場すればいいと思わない?」
「どこからブルマが出てきたのか、ちょっと私知りたい」
今日はどうしたの本当に。みんな一本ずつ頭のネジがぶっ飛んでしまった感じというか、頭打ってちょっと感覚おかしくなったというか。一体何があったのか。
「学校にも慣れてきてさ、ちょっとだけ刺激が欲しいというか、慣れてきたからこそここでもうひと押しクラスメイトや同年代の子、先輩とかと仲良くなれるような事があればいいなって思ったり思わなかったり」
ほほう。つまりかんらちゃんは交友関係が完全に固定されてしまう前にもっとみんなと仲良くなれる、新しく交友関係を広げられる機会として、体育祭を選んだということか。
じゃあ最初の運動イヤとか、滅べとかいらなかったんじゃ。しかも下半身の話とか言って下ネタの雰囲気で言うことでもなかったし。
「私としてはノーパンノーブラ薄手Tシャツブルマ装備での体育祭開催が望ましいです」
「そんなの企画立案したら怒られるどころか、最悪退学処分下るよね、それ」
「試してみなければ分からないじゃない。今度言ってみれば? 案外通ってしまうかもよ?」
通ったらこの学校はおかしい子しかいないって思われちゃう。
「それに、ここの体育祭って保護者とかの参観は無いわけだし、どういう趣向を凝らしたところで外に漏れることはないし」
いや、学校側が運営するサイトには写真掲載されるから。そこで我が子や進学希望の女子中学生が見たらどう思うか。
「だったらもういっそのこと全裸リレーとかやれば?」
頭のおかしいことこの上ない。
「さすがにそれはねぇ……、不特定多数にアンダーヘアー見られるのってちょっと」
そこも重要だけれど、もっと根本的におかしい点があるよね? そもそも全裸でやる意味が皆無だし。
「そうだねぇ。あんまり整えたりとかしてないし」
「それがいいんだけれどねぇ、かんらちゃんは」
なぜみなみちゃんがかんらちゃんの下の事情をお知りで? 詳しく訊きたいです。
「でもさ、私たちってこの学校に入学してから日が浅いし、体育祭なんて初めてじゃない? 去年とかどういう雰囲気だったのかって分からないし、案外私たちが考えたみたいなことやってたりして」
「去年のはHPで見たけれど、他の学校と変わらない様子だったよ」
私がそう言うと、みなみちゃんはそれでもと続けた。
「それでも、実際どういうプログラムで、実際どういう人たちが、実際どういう事を行っていたなんて分からないじゃない」
「そうそう。それに、こういうのは学校側も配慮して載せないだろうし」
配慮する場所が違う。絶対に違う。学校側はそれを載せない努力ではなく行わせない努力をするべきです。
しかし、二人の言いたいことは分かる。私が学校サイトで見たのは選別された写真と、少しの動画だけだった。それだけでもどういう雰囲気で行われているかは判断できるが、全体的にどういうものであったのかは測れない。
「でもさぁ、私体育祭の準備とか手伝ってるし、この間種目も決めたじゃない? その時は別に普通の体育祭って感じだったし、別段飛び入りで何かしようとかは出てないよ」
「リリィ、こういうのはね、情報が秘匿されていて、上の人しか知り得ないものなのだよ。種目が過激であればあるほど、反感も買いやすいし」
反感買うのは分かっていたのか。まぁそうだろうな。いかに女子校と言えども、全生徒が女の子好きというわけでも無いし、それに嫌悪感を覚える人がいるだろうし、いいことばかりではない。
でもこの学校特殊だしなぁ……、全校生徒が百合って言われても信じられるくらい変態多いし。
「じゃあリリィ、私たちの案、託したよ」
何言ってるのこの子? バカなの?
「リリィ、頑張って」
かんらちゃんまで。
「…………言うだけなら、いいけれど」
渋々、あくまで渋々そう言うと、二人は満足げな表情を浮かべた。まぁ公的な会議の場での発言ではなく、ただの世間話程度のものでちょっと触れるくらいなら委員長や生徒会長も真に受けることもないだろう。
嫌な予感がしないでもないが。
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