第24話 かんら家へようこそ!・中編



 かんらちゃんの寝室はシンプルイズベストの言葉通り、必要最低限の家具が置かれているだけで、特に変わったものは置かれていなかった。ちょっとした驚きとしては、各部屋に大きさは違えどテレビが設置されているところだろうか。本人曰く使用目的や性能が違うらしく、部屋ごとに専用のテレビを設けているのだとか。

 寝室のテレビは小さく、寝る前に軽く観るときなどに使用するようで、アニメの鑑賞はまた別の部屋にあるテレビとレコーダーを使用するらしい。細かく分けるのもどうかと思うが、それは個人の自由だし私が口をだすことではないか。

「ほほう、これがかんらがいつも寝ているベッドですか」

「高校に入ってからは寮だったし、今はそんなに使ってないけれどね」

 結構な値段のしそうなベッドなのに、あまり使われていないのはちょっともったいない気もする。

「そしてここにかんらの下着などが入っていたと」

「今となってはほとんどが寮にあるけれどね」

 少し大きめのチェストにはもうほとんど洋服類は入っておらず、残されているのは秋冬物ばかりだった。

「うーん、私としては洋服の間とか下着の間とかにいかがわしいものを保存している確率が高いと思っていたのだが」

「あんた寮でも私のチェスト漁ってるわね……まぁ薄々感づいていたけれど」

 あー、寮での経験をいかしてかんらちゃんの実家でもそういうものを発見しようと思っていたのだろう。みなみちゃんはどれだけかんらちゃんのこと好きなのさ。

「おかしい! 私の調べでは絶対にここらへんに隠していると思ったのに!」

「…………そうね。昔の私だったらそうしていたかも」

 チェストにはないと判断したみなみちゃんは次にその裏や下を調べ始める。まぁ定番といえば定番な隠し場所かな。

 二人がベッド近くでわぁわぁと楽しそうにしていたので、私はそれを邪魔しないようにそっと離れ、壁にかけてあった大きな絵に触れる。

 西洋の絵画には心得がないが、なんだかお高そうな雰囲気を持つ絵だなぁとは思う。あと大きい。

 …………ちょっとまった。

 この部屋確か角部屋だったような。で、外から見たら四階の角部屋には出窓が二つほどあった気がする。でも、この部屋を見渡した限りでは窓は一つ。ということは……。

 私は触れていた絵に違和感を覚える。この大きさ、出窓をひとつ隠せるだけの大きさではないだろうか。

 それに、この手の絵は家のいたるところに飾ってあったのでかんらちゃんの寝室に飾られていても不思議ではなく、また裏側から光が漏れたりすることもないために、ものを隠すことにも長けている。

 私はそっと後ろを振り返り、かんらちゃんとみなみちゃんが私のほうを見ていないことを確認すると、恐る恐るその絵の裏側を覗く。

 ビンゴだった。

 そこには遮光カーテンで完全に光を遮った小さな空間があり、そんなわずかなスペースに所狭しと薄い本やら各種変態御用達の道具たち、果てはアルバムらしきものまであった。

 量自体は少ないと思ったものの、半分以上は寮に持っていたとしたら多いほうかもしれないと思いなおした。

「さっすがリリィ、かんらの隠したお宝をこうも容易く見つけるなんて」

 突然後ろから声を掛けられてびっくりしてしまう。なんとそこには悪い笑みを浮かべたみなみちゃんがいた。

「くそっ、リリィは全然警戒してなかった」

「なんかごめんね」

 そしてみなみちゃんの後方には悔しそうな表情を浮かべるかんらちゃんが、みなみちゃんを羽交い絞めにしている。

「いいんだ。リリィが謝ることじゃない。こうなったのも全部みなみが悪い」

「え~、私悪くないよ。悪いのは見つかりやすい場所に隠してたかんらでしょ」

 いや意外と気づかないものですよ、こんな場所。

 私だって見つけたのはたまたまだし、窓が二つあることを知らないとおそらく見つけるのは困難だっただろう。

「しっかし、寮にあったのも結構な量だったのに、まだこんなにあるなんて」

「ここにあるのはもうほとんど使ってないやつだし」

 ということはすべて使用済みなのか……。素晴らしい。私も是非友梨佳ちゃんの使用済みが欲しいこの頃です。

 なんとかそれを手に取ろうと必死にもがくみなみちゃんと、何が何でもみなみちゃんを止めようとしているかんらちゃんという構図は、事情をしらない人から見たらきっと二人がちょっといやらしいことをしていると思ってしまうんじゃないかと心配するくらいには、なんだか淫らな光景だった。

「離せ~!」

「離したらろくでもないことになるから、嫌」

 かんらちゃん、その手の位置はちょっと危険かな。羽交い絞めが解けてきてだんだんと触ってはいけない場所に近づいてるよ。

「別にいいじゃん! かんらのエログッズなんて私見慣れてるし、今更恥ずかしいことなんてないじゃん!」

「みなみの場合は恥ずかしいとか見られたくないとかじゃないし。それをネタにして脅迫するから見せたくないの」

 いったいどんな脅迫を受けて、なにを強要されるんですかね? 相変わらず二人の関係はうらやましくてたまりません。

 ああ! ついに二人とも座り込んでなんだかバックスタイルみたいに! この本どこで売ってますか? いい値で買いたいんですが。

 私が一人興奮しながらその光景を眺めていると、何やら廊下のほうから足音が聞こえてきた。やばい! これは騒がしくしすぎて親が来てしまったのでは!?

 そしてその足音はこの部屋の前で止まり、ノックもなく入ってきた。

「ちょっとお姉ちゃん。うるさいんだけれど」

 …………え? お姉ちゃん? でも確か妹は家にいないはずじゃ。

 かんらちゃんに向かってお姉ちゃん発言をした女の子は、かんらちゃんと血がつながっているのか怪しくなってしまうほどすくすくとお育ちになっておられた。身長も胸も顔だちもかんらちゃんよりずっと大人っぽくて、いったいどっちが本当のお姉ちゃんなんだかと思わずにはいられないほどだった。

 私が見たのはバストアップ写真だったので、どれくらい身長があるのかはわからなかったから、ついついかんらちゃんくらいの身長で想像をしてしまっていた。うかつ! こんなに大人美人だったなんて!

「らんか……あなた何があっても今日だけは上がってこないでって言ったのに」

「だってすごいうるさかったんだもん。勉強に集中しようにもできないし」

 お声もかわいい限りですね。あとなんか名前がどっかの超時空なシンデレラさんに似ているのは気のせいですかそうですか。

「……ねぇお姉ちゃん」

「なに」

 呆然とする私と、ちょっと何が起こってるのか分からず行動が不能になってしまっているみなみちゃんをわき目に、この姉妹はなんだかそれがいつものことであるように話し始める。

「この人、貰ってもいい?」

「だめよ。私の大事なお友達なんだから」

「大丈夫だよ。ちょーっとお話ししたいだけだから」

「あなたのお話は物理的だからだめなのよ」

「でもさぁ、あれくらいのこと耐えられないなんて、それ女の子としてどうなのって感じじゃない?」

 なんの話をしているのでしょうか。

 それとこの人じゃなくて私はリリィという名前なのでぜひそう呼んでくださいお願いします。

「ねぇ、あなたも私とイイコトしたいですよね?」

 急接近され、不覚にもどぎまぎしてしまう。駄目よ! 私には友梨佳ちゃんという心に決めた人がいるんだから!

「これが例の妹さん?」

 やっと状況が飲み込めたみなみちゃんが、かんらちゃんに確認するように訊く。

「そうだよ。ちょっと会わせたくない事情があったんだけれど、まぁもういい」

 会わせたくない事情。こういう時の事情って嫌な事情しか考えつかないのですが、私の考えすぎでしょうか。

「ねぇねぇお姉ちゃん、いいでしょ? 二人もいるんだから、一人くらい私に分けてくれてもいいんじゃない?」

「でも……」

「なにか分からないけれど、リリィがいいならいいんじゃないかい?」

 無責任発言に定評のあるみなみちゃんさすがっす。そしてなんとなく理解した。みなみちゃんはかんらちゃんを独り占めしたいんだな。しかも無意識的にそれをしているから悪気があるわけじゃないというのが地味につらい部分である。

 まぁいいか。たまにはこういう役回りも悪くはない。

 ということで、邪魔者っぽい私と妹さんはここいらで退場をしよう。

「私は別に構わないよ」

「リリィ…………ちゃんと帰ってくるんだぞ。私のこと、忘れるなよ」

 まるで死地にでも赴く人を見るような目で見てくるかんらちゃん。ほんと嫌な予感しかしないが、これも友人のためだ。

 それに、ひどいことになろうとも寮に帰ったら友梨佳ちゃんが私を慰めてくれるに違いない。

 私は今一度決心をして、妹さんと共に寝室を後にする。

「あ、帰る時には声かけるから」

「わかった。頑張ってねみなみちゃん」

 それと報告書もあとで提出お願いしますね。




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