第23話 かんら家へようこそ!・前編



 私がかんらちゃんの妹の写真を見せてもらってから数日。

 私とみなみちゃんは休日を利用してかんらちゃんの実家へと来ていた。学校から電車を乗り継いで約二時間。閑静な住宅街にかんらちゃんの実家はあった。

「ほう、なかなかですな」

 かんらちゃんの実家はそれなりに大きく、周りの家と比べても一回りほど大きいくらいだった。外観的には築数年、四階建ての白い一軒家。ここからいくつかの窓が見えるが、かんらちゃんのお部屋はどこらへんだろうか。

「ようこそお二人とも」

 玄関前でその外観に驚いていると、中からかんらちゃんが現れた。

「あら? まだインターホン押してなかったと思うけれど」

「部屋の窓から来るのが見えた」

「ということは、かんらちゃんのお部屋はあのどれか?」

「そう、四階まるまる私のお部屋」

 それはそれは。

「この広そうな家の四階まるまる自分の部屋とか、かんらちゃんすごいな」

「うーん。そこらへん両親よく考えてないらしいから、一人一階ずつ与えられているって感じ」

 ということは、三階はもしかして妹のお部屋とかかな?

「お父さんとお母さんの部屋が一階で、二階がリビングダイニング、トイレやお風呂とか。で、三階が妹の部屋って感じの構造」

 ざっくりしすぎでしょ。

「各階にもトイレはあるから困らないし、なんならお風呂も台所もあるくらいだから、もはや下に降りずとも暮らせるレベル」

 大丈夫なの、それ。しかも最上階だから用事がないと絶対に行かないし、部屋で何かあっても気づかれなさそう。

「まぁそれは冗談だけれど。そろそろ上がったら? 玄関でずっとお話ってわけにもいかないでしょ」

「そうだね。いろいろ訊きたいことあるし、かんらちゃんのお部屋でじっくりたっぷり訊かせてもらうよ」

 みなみちゃんは嬉しそうに言う。これあれだ、妹に会うまで家に居座るつもりだこの子。かくいう私も男装した写真しか見ていないので、普段の恰好がどんなものなのかを見てみたいとは思っていた。

 ということで、今日は私も頑張ってだらだらしよう!



 玄関からすぐに階段を四階まで上がると、四階の一番手前にあった部屋に通される。ここがかんらちゃんの応接間みたいなものなのかもしれない。機会があれば他の部屋も見てみたいな。衣裳部屋とかあったりするのかな。

「ちょっと待ってて」

「はーい」

 かんらちゃんは私たちを部屋へと通すとすぐに下へと行ってしまう。おそらく飲み物やらお菓子やらを取りに行ったのだろう。

 それを待つ間私たちは特に何をするでもなく……というわけにはいかなかった。私たちを通したのだからほとんどの確率で変なものは置いてないだろう。けれど、それでもみなみちゃんは諦めることなく、ひたすらにかんらちゃんの弱み探しをしていた。弱みっていうか、たぶんエロ本とかアダルトグッズの類だけれど。

「ないなー、おかしいなー」

 私たちを、特にみなみちゃんを招き入れているのだ、かんらちゃんが万全の体制を整えていないはずがない。なのでこの部屋にはそういった類はないと、私はもう決めつけている。

 なので、私の今日の最大目的は下の階の住人である妹さんただひとりなのだ。

「この部屋探したってなにもでないぞ」

 少しするとかんらちゃんがお盆を持って部屋に戻ってきた。やはり探索をされるのは承知の上のことだったか。なら本当にこの部屋にはそういったものの類はおかれていないことになる。みなみちゃん、ご苦労さまです。

「なんにも探してないよー」

「嘘つけ。物が移動しまくってるじゃないか」

 みなみちゃんはそういうところ気にしない性格だからか、移動させたものは移動させたままの状態で放置している。かんらちゃんは配置とかすごい覚えているらしく、それを怠るとすぐにばれてしまう仕様らしい。

 ちなみに私は手伝ってませんよという意思表示のために、テーブルの前でおとなしく正座をして待っていました。

「リリィも、そんなに姿勢正しくして「私なにもしてませんよ」って顔しなくとも分かってるから。私が通した部屋で愚かにも探索を試みたバカはここには一人だけってことはよくよく分かってるから」

 私の行動も思考もお見通しでしたか。さすがですかんらちゃん。

「それで、妹は?」

 ここにはお目当てのものがないと分かったみなみちゃんの切り替えは早く、妹さんのことをかんらちゃんに詰め寄っている。

 どうでもいいが、本当にみなみちゃんはかんらちゃんの妹のことをどうでもいいと思っているのか。ここまで会いたがっているのには何か理由があるのではないのかと、私は勘ぐってしまうのですが。ただ単にのけ者にされているのが嫌なだけなのかもしれないけれど。それでもちょっと異常に執着している気がしてならない。

「今は友達と遊びに行ってていない」

「そっか。いつ帰ってくるの?」

「分からないわよ、そんなの」

「ま、いっか。帰ってくるまでいれば」

「そんなに遅い時間にはならないと思うけれど、あの子たまに友達の家に行ってそのまま泊まってくることがあるから。そのときは帰ってね」

「その時は私も泊まるよ。朝とかに会えそうだし」

「外泊許可は出されていないのだけれど……」

 やはりみなみちゃんはどうしても妹に会いたくてたまらないらしい。これはきっと恋していますね。私の経験がそう言っています。

 鑑みれば私も友梨佳ちゃんのことになるとこんな感じかなって思うから。ちょっとだけ自重でもしようかな。たぶん無理だと思うけれど。

 私はかんらちゃんが持ってきてくれた紅茶を一口飲み、まだ言い争っていた二人に向き直る。

「妹さんのことは待つしかないとして、なにする?」

「まぁそうだね。ここで何を言っても妹が帰ってくるわけじゃないし、みなみもいい加減面倒だし」

「面倒とか言うなよぉ。構ってくれないとさらに構ってちゃんになっちゃうぞ」

「それは気持ち悪いのでやめてください」

 相変わらず仲のよろしいことで。みなみちゃんは他の人に対しては案外スキンシップ控えめなのに、かんらちゃんにだけはべったりとくっつくのよね。ちょっと羨ましい。私も友梨佳ちゃんとべったりになりたい。むしろ身体中べちょべちょにしたい。

「そういえばさ。この階って全部かんらの部屋なんでしょ?」

「そうだけれど、なにがなにか」

「いやね、他の部屋ってどんな感じなのかなって思ってさ」

 お、みなみちゃん賢い。妹は私たちにはどうしようもないことだし、この部屋には特に(私たちにとって)面白いものが置いてあるわけではない。ならばこの他の部屋に面白アイテムを見つける作業に移行しようというのだ。

 まぁ私としてもそのほうが絶対に面白いことになるし、ここはみなみちゃんに賛成しておこう。

「そうだね。私もちょっと興味あるかも」

「…………まぁいいけれど」

 渋々といった感じだ。それもそうだろう。せっかく綺麗にした部屋に通したのに、他の部屋を見たいなんて言われているのだから。

 しかし、かんらちゃんからしたらこの事態も想定内なのかも。だって渋々であっても了承してるし。

「じゃあ、どの部屋見たい?」

「まずは寝室じゃないかな」

 鉄板ではあるが、たしかに抑えておくべき基本だろう。寝室と言ったら自慰。かんらちゃんの自慰といえばそういったアイテムも多数揃えられているに違いない。

 これは探索がはかどりますね。

「案内するから、ちゃんと付いてきなさいよ」

 はーい。


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