第16話 嫉妬
それを見たのはまたしても私が日直のお仕事を終えた、お昼休みのことだった。
すでにお昼ご飯を済ませていた私は、友梨佳ちゃんをお昼に誘うことはできそうになかったが、せめて友梨佳ちゃんのご飯を食べているときの表情を眺めようと意気込んていたのに、その友梨佳ちゃんの隣にいるのはまたしても有栖乃れいだった。
嫉妬で、私は我を忘れそうになった。
そんな、今にも有栖乃れいをどうにかしてやろうという恐ろしい感情を強引に抑えながらも、足は自然と二人のほうへと向かっていた。
もうこれ以上こんな光景を見てはいられない。
友梨佳ちゃんの隣は、私だけのもの。友梨佳ちゃんのそばには、私だけで十分。
そこに有栖乃れいは、いらないの。
「なんだか楽しそうですけれど、なんのお話をしているのですか?」
うまく笑顔を作ったつもりだが、言葉の節々にちょっとした嫉妬が滲み出てしまった。
けれど当の友梨佳ちゃんは何やら口元を抑え、必死に何かを言わんとしていた。まぁ、何かとかぼかさなくとも、それが自慰の時にどこを刺激して達するかという話だということは、遠くからでも聞こえていたのですけれど。
我ながらこの地獄耳はいい仕事をしていると思います。
そして友梨佳ちゃんはお豆さんを刺激するほうが好みということを知ったのは、今月一素晴らしい収穫だった。
「深桜さん。私たちに何か用ですか?」
すこし混乱気味の友梨佳ちゃんの代わりに、隣にいたおまけ、ではなく有栖乃れいが私に話しかけてくる。
「日直の仕事が今終わって教室に戻ってきたら、なにやらお二人が盛り上がっていましたので、つい気になってしまいまして」
実際は気になったどころの話ではなく、嫉妬心で気が狂いそうになってしまっているけれど、今は我慢のお時間。
「……深桜ちゃん」
そんな私の言葉に反応したのがなんと友梨佳ちゃんだった。
きっと友梨佳ちゃんも私のことが気になってたから、私の一言からいろいろと察してくれたのかもしれない。
そうよ友梨佳ちゃん。あなたは私のことが大好きで、私のことを愛さないといけないの。そして、私はこの世界のだれよりも、そう、あなたの両親よりもずっとずっとあなた愛しているんだから、そんな私を愛さないなんて間違ってるもんね。
「は、はい」
私はとりあえずのところ戸惑った様子で答えてみた。
「大好きです。結婚してください」
「はい」
もちろん即答だった。
付き合ってくださいではなく、結婚してくださいと言われるとは思ってはいなかったけれど、いづれは結婚をするのだし、順序を一つ飛ばしたと思えばいい。
さらに言えば、私たちはもうすぐ結婚できる年齢になるし、日本では同性では結婚ができないけれど、海外に行けばそんな問題なくなってしまう。
部屋に帰ったら早速式場の準備とかウェディングドレスの用意をしておかないと。
「ぅえ!? いいの深桜さん!?」
有栖乃れいがいったい何に驚いているんだろうか。私たちは相思相愛なんだし、結婚したいと思うのは当然では? とりあえず今のところは友梨佳ちゃんの調教が最優先事項にはなるかもしれないけれど。
友梨佳ちゃんはどうやら放っておくと女の子を引き寄せる体質らしいから。私以外の女の子をそこらの石ころ程度の存在だと認識させるところから始めようかな。
「え、はい。だって、友梨佳さんって、すごい調教のしがいがあると思いません?」
あ、思ってることが漏れてしまった。
これは失態である。
でも構わない。もう私たちは結婚秒読みのお付き合いをするのだから、いづれはばれるわけだし。ちょうどいい。
「ねぇ、友梨佳さん。私たち、もう付き合ってるんですよね?」
それと、私たちは結婚するのだから、呼び方にも気を付けなければ。私は古式ゆかしい奥さんになりたいので、友梨佳ちゃんという呼び方をやめて友梨佳さんにしようと思うの。
「……はい、そうです」
未だ私に結婚の申し出を受け入れられたことに対して脳が理解しきれていない様子の友梨佳さんは、私の問いに脊髄反射のごとく無難に答えてきた。
「なら、友梨佳さん。今後私以外の女の子との接触、会話、直視を禁止します」
これくらいは朝飯前くらいにできて、初めて私の恋人にふさわしい。
というか、もう明日から私の部屋でずっと飼っていたいくらいなのだけれど、それは学校で恋人といちゃいちゃするという私の長年の夢が叶わなくなってしまうので止しておくことにする。
でも、もし友梨佳さんに変な虫が付くようであれば、その準備もしておかないといけないかな。
「……はい、わかり」
「いやちょっと待った!!」
せっかく私たちが恋人同士の初々しい会話を楽しんでいたのに、有栖乃れいという女と来たら、いいところで邪魔するんだから。
「なんですか?」
今度は意図的に冷たい声色で答える。
私と友梨佳さんの邪魔をする人は、たとえ親であっても許すことはない。
「接触、会話はまだ理解できるよ。いや理解できないですし理解したくないですけれど。でも直視って無理じゃない? ここ女子高だし、教師も女性しかいないわけだし」
理解できるのかできないのかはっきりしてほしいのだけれど。
「だったら、学校では目隠しをすればいいのではないでしょうか?」
至極冷静に私は答える。
「それじゃまともに授業受けれないのだけれど」
「友梨佳さん、だれが発言を許可したの? あなたの声はもう私のものなのだから、他人のいる前で無暗に声を出さないでください。それとも、その口を無理やり塞いでほしいのかしら」
そこで友梨佳さんは頬を染めてなにやら期待するような目をした。これはキスを求めているに違いない。
けれど、初めては誰もいないところで濃厚なのをしたいから、今回はこれで。
「はい、これ」
私はもしものためにと思い、いつも持ち歩いている猿ぐつわを友梨佳さんにはめようと、その唇へと押し当てる。
が、それを有栖乃れいが必死になって止めてきた。
「な、なんでこんなもの持ってるの!? しかも当たり前かのように友梨佳にはめないで!」
友梨佳さんを呼び捨てにするなんて。この子、絶対に許さない。
「何を言っているのれいさん。もうこの子は私のものよ。どう扱おうが私の勝手でしょ」
「か、勝手じゃないわよ! 大人しそうな顔してとんでもないわねあなた」
たとえ勝手じゃなくとも、それを有栖乃れいが判断するのは間違っているのでは? これは私と友梨佳さんだけの問題であって、そこには何人たりとも立ち入ることはできないはず。
「ふふ、でも嬉しいわ。ずっと前から狙ってた友梨佳さんが、まさか私のこと好きだなんて」
ほとんど確信ではあったけれど、それでもこうして本人の口から「好き」だと言ってもらえて、私は今とても幸せ。
「入試の日からずっと狙ってた友梨佳さんが、まさかこんなに早く私のものになるなんて、思っていなかったわ」
実際のところは入試の日どころか、その前からずっと付け狙ってはいたけれど、私が恋心を抱いたのはこの学校での入試の日だった。だから間違いではない。
というか本当に今日はちょっと口が滑りすぎている。
でもいいか。もうこうなったら全部言ってしまおう。
「いやはや、大変でしたよ。何か月もかけて友梨佳さんが受ける学校全部を把握するのは」
とにかく大変だった。
まずをもって友梨佳さんの学校の教師からこれらの情報を聞き出すのが苦労したし、なによりいろんな学校を見ていたので、絞り込むのに時間がかかった。
まぁ唯一の共通点がどれも女子高だったので、ピックアップ自体はさほど手間はかからなかったけれど。
「ゆ、友梨佳。この人、頭おかしいんじゃ」
「うん、おかしいと思う。私よりもずっと、私なんて比較にならないほど、おかしいと思う」
まただ。
また、有栖乃れいが友梨佳さんを呼び捨てに。
このとき、胸に押し隠した感情が、決壊したダムの水のように外へと漏れ出ていく。
「ねぇれいさん、私の友梨佳さんと仲良くお話ししないでもらえるかしら。今私、とても嫉妬しているわ。嫉妬心で心が焼き切れそうだわ」
限界だった。
これ以上、いやもうこれ以降有栖乃れいには私と友梨佳さんの仲を引き裂くようなことは絶対にさせない。どんな非常な手段を用いてでも、友梨佳さんから有栖乃れいを引き離してやる。
そんな決意をした直後、この一か月ほどで聞きなれてしまったチャイムの音が聞こえてきた。
「あっ、そろそろ次の授業の準備をしなくてはいけませんね」
私は気持ちを一気に切り替えて、次の授業の準備をするべく、自分の机へと戻る。
その間も二人はなにやら会話をしていた。
もう、友梨佳さんは私のものという自覚が少し、いやだいぶ足りないと思う。それならいっそのこと、無理やりでもいいから私を必要とする状況にしないと。
ということで、私は次の授業である体育につかう体育着とは別に、私の秘蔵の素敵アイテム袋を持って、再び友梨佳さんのもとへと駆け寄る。
「さぁ、友梨佳さん。さっそく体育着に着替えに行きましょう」
「あ、ちょっと待って」
有無をいう暇をも持たせずに私は友梨佳さんの体育着が入った袋と友梨佳さんの腕(あぁ、この感触、幸せ)を取り、はたから見たら引きずるような形で更衣室を目指す。
「お、おい! 二人きりにするとすごく不安しかないから私も行く!」
またこの子は懲りずに私の邪魔をするつもりなんですね。いいでしょう、このさいこの子は一切無視を決め込むという、最終手段に出るしかないですね。
こうして私と友梨佳さんは、二人きり(私の脳内では)で初めての肌合わせのために、更衣室へと向かっていた。
「おい! 深桜も深桜だが、強引に連れ去られて嬉しそうな顔するな! この、ドM友梨佳が!!」
いろいろと反論したいことはありましたが、やっぱり私と友梨佳さんは相性ばっちりなんですね。
さて、これからどんな女の子に調教してあげようかしら。
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