第9話 初めての生放送!
何やかんやで深夜、私と変態、間違えた七未はそろって部屋を出ると、そこにはリリィが立っていた。
そう、この部屋に寮長が来なかった理由がこのリリィのせいである。
リリィはこれまでにも何度か寮長の仕事を手伝っていたりしたので、今回もいつもの調子で「私、点呼手伝いますよ」とか優等生ぶってこの部屋と私たちの部屋をスルーしたのだろう。
悪魔だ。変態の悪魔だ、この子は。
しかし、リリィが七未を手伝った理由は分からなかった。一見するとなんの利益もない気がするが。
「ほら、言われた通り点呼をスルーしてあげたのだから、渡しなさい」
なにその犬のお手みたいな手の出し方、きもいんだけど。
「はい、例のものです」
リリィにお手をされた七未は、持っていた手提げ袋からなにやら封筒を取り出すと、その手にやさしく置いた。なに、あれなに入ってるの? 麻薬?
「これよ! これが欲しくてたまらなかったのよ! ああ、ついに! 夢にまで見た黄金の三角が! 秘め事の記録が! ついに私の手に!」
え? ちょっとほんとになにそれ? 黄金の三角? 秘め事の記録? めっちゃ興味ある単語が飛び出してきたのですが、詳しく。
「あれ、なに?」
「なにって、友梨佳さんの未洗濯パンツと自慰の写真集とDVDですが」
「ふぁ!?」
思わず変な声が出てしまった。
「なんで七未がそんなもん持っとるの!?」
「なんでって、みんなが学校行ってる間に友梨佳さんの部屋に忍び込んでちょっと拝借したものと、友梨佳さんならこの場所で自慰するだろうなって箇所に隠しカメラ付けていただけですが」
恐怖。圧倒的恐怖。
七未の前ではリリィや深桜ちゃんの変態性が霞んでしまうくらいの恐怖と変態性だった。というか隠しカメラとか普通に犯罪だろ。どうやってあんな場所にカメラ付けたんだよ。もうこれからあそこ使えないじゃん。あそこっていうか、自室のトイレと学校のあまり使われてない端のほうにあるトイレなんだけれどね。
「それじゃ、今夜は友梨佳さんは帰さないので、自室でゆっくりと自慰タイムを満喫してください」
「はい! ありがとうございます師匠!」
師匠!? どういう関係だよあんたら!?
私のそんな心の叫びなどつゆ知らず、リリィは満足げに部屋へと戻っていく。
「ふぅ、ただの変態はちょろいですね」
なんだよただの変態って。まぁ確かに七未の前ではどんな変態も一様にただの変態なのかもしれないけどさ。というか特殊な変態とは。あ、目の前にいましたねごめんなさい。
しかし。
まさかあのリリィが私と他の女の子との接触を許すなんて、もしこれが深桜ちゃんとかだったら絶対に修羅場と化していたのに。やはりそれほど七未は素晴らしいお方ということなのだろうか。
変態界の神、いやアイドルかな。
絶対になりたくないアイドルナンバーワンだな、これ。
「さぁ、気を取り直して、行きましょうか、友梨佳さん」
「……はーい」
不覚にも、その時の笑顔を素晴らしくかわいいと思ってしまった。
けど変態なんだよなぁ。残念。
夜の街、といえばちょっと怖いイメージがある。
ガラの悪い人たちがいっぱいいて、普段はそんなことないのに、どこか犯罪めいた香りが漂う。
しかし、この学校周辺はそれとはまた違った様相を見せる。
私たちが通う学校、白百合の丘女子高等学校は名前の通り、小高い丘の上にあり、街からは少し離れた位置に存在する。
そしてこの辺りには一切住宅や建物が存在しないのだ。この丘全体が学校の持ち物らしく、そのセキュリティは要塞と言っても差し支えないものだ。まぁ女の子たちが通う学校なのだから、そういった対策は万全であればあるほど、親たちは安心するというものだ。
けれど問題が一つ。
万全なセキュリティゆえ、どれだけ大胆な野外露出をしたとしても、目撃されることがないということだ。今目の前で七未がしているように。
外側の変態は寄せ付けないのに、内側にいる変態は許容しちゃうなんて、この学校、大丈夫か?
「よし、今日はこの辺りにしましょうか」
七未が立ち止まったところはちょうど寮の裏側あたり、木々が生い茂っており、うまい具合に寮側からは見えない位置だった。
「ここで自慰をすると、誰かに窓から見られてるんじゃないか、もしかしたら隠し撮りされちゃってるかも、とか想像しちゃって、ものすごく濡れちゃうんですよ」
ああ、そうですか。
「でも今回は”見られてるんじゃないか”ではなく”見られてる”って分かっているので、余計興奮します。具体的にはもうお股ぐちょぐちょです」
いや、聞いてないし。
というかこの子、股に”お”とかつけるあたり、きっとま○こにも”お”とかつけちゃうんだろうか。どうでもいいな、これ。
ちなみに私は穴と呼んでいます。なんだか直接的な言葉より卑猥な感じがするから。この情報くっそどうでもいいな。
いやはや、それでもこう、自我を強く保とうとすればするほど、変態的なことを考えちゃう私って、結構周りに影響されすぎじゃない? こんなんじゃ身が持たない。っていうか身が持ってない。
相変わらず、影響され、順応するのが早い私であった。
「ああ、あと、今回はもう一つ趣向を凝らしまして」
私が強く己を保つために、変態的かつ冷静な思考を巡らせていると、七未はこれまでにないほど晴れやかな笑顔を浮かべ、私に向き直る。
その笑顔はかわいい。点数つけるならきっと百点満点以上だろう。しかし、変態の満点笑顔はこの先急カーブ速度落とせより危険。猛犬注意よりかは劣るけれど。
「なんと、この学校にいる同士、つまりは同じ露出趣味が集まるクローズドネット内のサイトメンバーたちが、私の自慰を見ていてくれるのです!」
じゃあ私必要なくない? ねぇ必要なくない?
「しかし、直接窓から見ることはできません。同士たちの大半は上級生だからです」
ああ、そういうこと。
今私たちの目の前にある寮は、主に一年生が暮らしている寮だ。二年三年はというと、もう少し離れた、というか、学校に近い位置にあり、あの辺りはここと違って隠れて何かをするという場所がそもそもないのだ。
「そしてこれは絶対条件として、メンバー個人の特定などはご法度ゆえ、今までは情報交換や今夜ここでしますといった場所取りくらいにしかサイトが使われていなかったのです。だから私は、今日、この場において、野外露出生放送を決行することによって、サイトに新たな風を吹かせたいのです!」
その撮影係が、私ということでいいのだろうか。というかそれしかないな。
というか、学校側が用意した生徒交流用のクローズドネットを、なんて使いたかしてるんだ上級生は。
「自分一人で撮影でももちろんよかったのですが、それだと興奮して顔が映ってしまいかねないので、友梨佳さんにはそこらへんを上手に工夫して、私の恥部のみを映していただきたいと思うのです」
まぁ恥部だけ見るなら私としても役得というか、すでに七未は恥部丸出しというか、アンダーヘアが意外と濃いですねとか言ってもいいの?
「それだけで満足ならそれでいいですけど、乗ってきたらぜひ友梨佳さんにもひと肌脱いでいただいてもいいですよ」
それは遠慮しておきます。私は一人でじっくり派ですから。
そんなことはさておき、早く初めて早く終わって早く寝たいのだが。明日ももちろん学校だし。
「立ち話はここまでにしておいて、ちゃっちゃと始めちゃいましょうか」
「うん! それがいいよ!」
こんな変態に長く付き合ってられないしね!
他人の自慰というものを直接見たことのある人はあまりいないだろう。
それはそうだ。
自慰とは決して見つかってはいけない、大人の一人遊びなのだから。
けれど、それを見て興奮する人もいるわけで。
そして、見られて快楽を得る人も、またいる。
彼女、七未がどちらかといえば、もちろんみられて快楽を得る変態だろう。現に私や、不特定多数の人間にカメラ越しに見られて忙しなく手を動かしているのだから。
本来であれば自慰行為なんてもの、とても他人に見せられるものではない。醜いし、不格好だし。
でも、彼女のそれは一種の演目であるかのように美しかった。
乱れ、飛び散る体液は月夜に輝いて、彼女を一層艶めかしくしている。動き一つひとつに無駄がなく、表情はとても蠱惑的だった。
美少女補正なのか、それとも彼女自身が持つ特別な雰囲気ゆえかは、私には判断できなかったけれど、これだけは分かる。
今の七未は、この世の誰よりも綺麗だった。
こういう芸術的なものが見れるのなら、彼女の変態性など、もしかしたら問題ではないのかもしれない。
ひとまずとして、第一回野外露出生放送が無事終了し、現在七未の部屋である。
「いやー、楽しかった! 楽しすぎていつもの倍くらいはやってたかもしれない!」
おかげでもう空が白けてきましたけどね。
「それはそうと、これ、録画もしていたんだよね? どうするの?」
「どうするって、生で見られなかった同士に配布という形になると思いますけど、どうしてですか?」
「いや、なんでもない……」
正直、ちょっとだけほしいと思ってしまった。
「それとなんですけど、私、来週からちゃんと学校に行こうと思うんです」
お? それはどういった心境の変化なのかな? やっぱり変態的行為は控えたほうがいいと思ったのかな?
「今度は昼間の、人が多い場所でひっそりと自慰をするというのに興味がわきまして」
やっぱり変態は変態である。そうそう変わることはない。
でも、やはり学校へ通うというのはとてもいいことなのではないだろうか。一人部屋でもんもんとした時間を過ごすことも悪いことじゃない。それでも、誰かと一緒に何かをするのは、自身の見解を広げるという意味でも、良いことだ。まぁ、七未の場合理由が最低だけれど。
「良い所が見つかったら、友梨佳さんにも教えますから。また私に付き合ってくださいね」
いい笑顔。これぞ美少女だ。悩んだり憂いのある表情も良かったけれど、やはり美少女は笑顔でなくては。
そんなこんなで、私の学校生活に新しく一人、いや新種の変態が加わったのである。
ほんと、私の周り変態しかいないな。
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