第4話 トイレは我慢するもの
「…………はっ!」
悪夢を見ていた気がする。
なんだろうか、酷く恐ろしい夢だったようだけれど、いろいろ刺激が強すぎて記憶がところどころ曖昧だ。
「ここは……保健室?」
周りを見渡してみるが、薄いカーテンで囲われていて何も見えなかった。が、ベッドがある部屋なんて学校では保健室以外にないはず。
はぁ、そうか。私はきっと朝方貧血やら何やらで気を失ってここまで運ばれてきたに違いない。
つまりはあの忌々しい記憶は全部夢なんだ! そうだよね、深桜ちゃんがあんなに病んでいるわけないし、現に私の身体には何も…………なにも……。
「な、なにこれぇぇ!」
残念ながら私の身体にはしっかりと、しかし程よい強さで縄が締められていた。そしてこの縄があるということは、私の下半身は……。
私は、恐る恐るそこに手を伸ばす。
触れると、カチャリと、普通の下着ではまず鳴らないであろう音が、してしまった。
「…………」
私は今、絶望に満ちた表情をしているに違いない。
いやしかし待てよ。
私のお気に入りである深桜ちゃんにこの仕打ち。なんだか内に眠るM気質が目覚めてしまいそうだ。というか多分もう目覚めている。おかしいな、私って比較的Sだと思ってたはずなのに。
というか、トイレ行きたい。
しかし今の私は一人では満足にトイレに行けない状況に陥っていることにも同時に気付いた。
これって、外さなくてもトイレってできるのかな?
私は慣れない手つきで下半身に装着されてたそれを調べる。
穴、穴、どこか小さくても液体が通過できるくらいの穴は、っと。
そんなこんなでベッドの上でもぞもぞとしている私だったが、見る人が見ればこのベッドで下半身をいじっている光景は非常にまずいのかもしれない。
そう、このいつの間にか私と一緒に眠っている深桜ちゃんとか。
「あらあら、友梨佳さんったら。私が隣にいるからってさっそく自慰行為にふけるなんて、お盛んですね」
「ち、違う! っていうかどうして深桜ちゃんまでこのベッドで眠ってるのさ!」
「え? だってそこに友梨佳さんが寝ていたから」
なにそのそこに山があったからみたいな言い方。しかもそれをごく当たり前で当然のことのように言うんだから始末が悪い。
「それで、自慰ではないのならどうして下半身なんかいじっているのですか?」
「そ、それは……」
今ここで深桜ちゃんにトイレ行きたいなんて言ったらどうなることやら。
きっと一緒にトイレ行って、一緒の個室に入って、深桜ちゃん監視、もしかしたら記録や写真も撮られるかもしれないという悪魔的なコースを食らうはめになるのではないだろうか。
それはたとえ私がMに目覚めつつあるといってもまだまだ難易度が高い上に、それを元に脅迫、一生普通の女の子には戻れないかもしれない。いや戻れない。
ここは我慢をしよう。
「あ、もしかしてトイレですか? 分かりました行きましょう」
一瞬で見破られてしまった。
これはいよいよをもってまずい方向に向かってますな。どうにかせねば。
でも! 内なるMな私が抵抗を阻止してくる! どうして! 私こんなにも嫌なはずなのに、それを拒めないなんて!
「いや、でももうちょっとだけ我慢させてからのほうがいいかもしれませんね」
何言ってんだこの子。
「そうですよね。もっと切羽詰まった表情からの解放の快楽を味わうのがいいと思います」
ほんとなに言ってんのこの子。
「ごめんなさい友梨佳さん。今あなたをトイレに行かせることはできそうにないわ。だから、もうちょっと、いやもっともっと我慢してもらいますね」
え、いやちょっと待って。私って本当に行きたいときにトイレにも行けないようになっちゃったってこと?
こ、これが深桜ちゃんの言っていた『排泄の管理』ってことなの?
その言葉を聞いてか、私の中のM気質は一気に霧散して、代わりに危険アラート信号警告が鳴りやまないんですが。
そのうち発言や行動まで制限される未来がやってくるに違いない。これは確定した未来と断言してもいいくらいだ。
でも、深桜ちゃんの笑顔がこんなにも近くで見れるなんて、それはそれで嬉しかったり。いやいやいや、リスクとリターンの関係が完全に崩壊している。ついでに私の倫理観も崩壊しつつある。
「うふふ、あぁ可愛らしい。すごく可愛らしいですよ友梨佳さん。あ、そうだ。今度首輪買ってきてあげますからね。何色がいいですか?」
……だれか助けてくれないかな。くれないよな。
こうして私は今日一番楽しみにしていた体育の授業を休むことになった。
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