第5話「くっ!!俺の帝王が!!」

そう、それはいわゆるラブコメものとかでよくあるあれだよ。

榑亜の上に跨る《またが》俺。

さっきは故意の行為だから良かったけど、これは色々とまずい。

女盛りのような艶かしい眼差し。口紅で赤に染められた溶けそうな唇。

神様!俺に対する褒美ですか?これは!もしそうならばあざーっす!

そうじゃなくてもこの状況は神ですよ!

てか榑亜色っぽすぎるだろ。

竜宮絢介落ち着け。

榑亜の息が徐々に荒くなる。

「ごめん!!これは違うんだ!!」

「大丈夫だよ?こんなに絢介が積極的なんて!」

榑亜は唇を人差し指で抑えながら色っぽい目でまじまじと俺を見つめてくる。

「そんなんじゃない!俺はただエ…!なんでもない」

いろいろな意味で危ないな。

エロ本と押し倒し事件。

なかなかこんなきつい状況もないな。

「何?え??」

「何でもないからまじ!てかとりあえず俺の部屋の物触るの禁止な!」

「はーい!」

危ねえ!てかこれラブコメ?俺にそんな生活は似合わねえ!

あっ!犁兎がまだ帰ってきてないし…榑亜をなんとかさせないと暇そうだし。

ガチャ!

下の玄関の扉が開く音がする。

あー!

俺は、すぐに犁兎だとわかった。

「榑亜!俺の妹きたから隠れろ!仕方ない…ベッドの中にいろ!」

「別に妹さんぐらい!大…じょもぶもぶです!」

俺は嫌がる榑亜を無理矢理ベッドに隠し、下に向かった。

「たっだいま!」

いい事があったのか普段よりも高い声であり、にこにことしていた。

「おかえり!どーだった?」

絶対にここは落ち着いて悟られないようにしよう。

「どーだった?じゃないよー!お兄ちゃん!」

「ん?どした?」

にっこりとした顔から突然目元が薄まり怒ったような表情で俺に問いかける。

「この靴誰の?女の子のヒールってことは?しかもブランドのCOAGEだし!」

まずい…靴のこと忘れてた。

バカだろ俺。

どーする!

「それは・・・。」

俺は犁兎のほうを見ないようにしながらほほをポリポリと掻いた。

「あ!絢介!転校生来たんでしょ?凄く可愛いらしいけどまさか惚れたんじゃ?」

あれ?話変えてきたぞ?もしかしてあんま気にしてないとか?ならこのままいこう。

「ははっ!そんな事ねえよ…」

その転校生が今この家にいるんだよ。

動揺しないわけがないだろ。

「なによ!その態度!」

「いやいやいつも通りだ」

頬を少し膨らませながらも怒る犁兎。

可愛すぎるんですけど!!

「テンション高い!!きもい!!童貞!!」

なんなんだよ。こいつよくわかんねえ。

ツンデレってやつなのかそれとも本当に俺の事を嫌ってんのかよ。

てか最後の言葉いらなくない?

お兄ちゃんそれは傷つくよ。

「テンション高いのとキモいのとDTは関係ないだろ?」

「話戻して、この靴は何?」

そんな怖い顔して言うなよ…本当困る。俺こんな展開始めてでわかんねえよ。

もし昔から俺がモテモテなら余裕でこの状況を回避でき

「その靴は…」

俺が適当に言葉を返そうとすると、後ろから榑亜の声が聞こえた。

「私のです!」

ヤバイやつや…マジでヤバイやつや…

っていうか隠れてろって言ったのに…

「だっ誰ですか?もしかして噂の転校生!?」

口をポカーン。と開きながら唖然とする犁兎。

「私絢介さんとお付き合いさせて頂いてます。神乃葉榑亜です?」

っておい!てめえは何言ってくれてんだ!

「お兄ちゃんは妹大好き星人なので私以外とは付き合いません!」

「え!?そうなのですか??」

「そんな驚いた顔で俺を見ないでくれ。俺はそんな星の人じゃないから安心しろ」

「妹さん!!嘘はいけませんよ!!」

「お兄ちゃん。私と榑亜さんどっちが好きなの!!早く選んで!」

なんなのこの修羅場!!

いきなりどっちが好きとか言われても困るでしょ。

ここは逃げるが勝ちなはず。

「ぐおおおお!!俺の右手が!!混沌の帝王が目覚めてしまう!!」

俺は右手を強く掴んで体を揺さぶる。

「絢介さん大丈夫ですか?」

榑亜は心配そうな顔で駆け寄った。

「大丈夫だ。とりあえず風呂場に行かないと・・・。うおおおお!!」

痛い少年を演じ無理矢理でもこの修羅場から逃げ出そうとするのが俺の作戦。

純粋な榑亜はまんまと騙されている。

あとは犂兎のみ。

「俺の帝王が・・・。帝王が!!お前たちを食らってしまう。ぐああああ!!」

「そんな安っぽい演技で逃げられると思ったわけ?」

「苦しそうなのになんでそんなこと言うんですか!?苦しそうじゃないですか!!」

榑亜ナイスだ。

ここで俺から犂兎へ追い打ちをかける。

「ぐあああああ!!早く俺を風呂場へ!!ぬおおおおお!」

「こんなに苦しそうな姿を見ても何とも思わないんですか!?」

やれやれとした顔でこの部屋から犂兔は出た。

「榑亜、すまないが風呂へ行ってくる」

「早く帝王を落ち着かせてきてください!!」

そうしてこの場をさり風呂へと向かった。

俺はまずいつも通りボディーソープで体を洗い、浴槽に浸かった。

やっぱ風呂は落ち着く。

この無駄な安心感。ずっとここに居たい。

恋愛テクニックが欲しい。

はあ…。

とりあえず頭でも洗うか。

俺は、浴槽を立ちシャンプーをしに向かった。

何かにつまずききながらも扉の開く音がした。

そこにはすらーっとした足を露出させYシャツを羽織っている榑亜が立っていた。

「絢介さん私もいれてください?」

ん?なんだよこれ…マジなんなんだよこれ…

やばいやばい。裸は見たことないから免疫が…。

妹のだって幼いころから見てないんだっつーの。

ってよく見るとワイシャツ着てんじゃん。ならまだ大丈夫!

って大丈夫じゃねえよ!俺裸ワイシャツだったら死ぬぜ?

「絢介さんのために裸ワイシャツです。絢介さんが隠していたダンボールの中に本があって裸ワイシャツの女性が多かったのでまねしてみました!」

まじか…ばれたとか…でも気にしてない?よかったよかった。

って裸ワイシャツ?

まだ濡れてないからよく見えない!

偶然を装って水をかけてみるか?ダメだぁ!

人間は理性があるんだ!

理性を保てなくなったら俺は人間じゃなく野生児になってしまう!

落ち着こう…落ち着くんだ、俺…

俺は、小さく深呼吸した。

でも…だめだ!1日目から淫らなことをしたら俺の人生OWARIだ。

「ほら?濡らしてください?」

「バカか?俺は健全なんだ。」

なんて強がるなよ俺!

本当は心の中で、はい!濡らします!このまま野生児になりまーーすって!言ってるくせに!

「お背中流しましょうか?」

「もう洗ったから!大丈夫だ。」

ふう…自分のロマンがこんなにも早く見れるとはな…

「なら私の身体でお身体を…」

俺の背中にマシュマロのような柔らかいものが離れてはくっついてを繰り返している。

「やめろ!それ以上言うな!」

あぶねえからマジ。健全な高校生に言うもんじゃねえよ!そんなこと!

「お前さ?俺は一応男だぞ?もし普通の高校生にそんなことしたら平気で…」

「平気でなんですか?」

「とりあえず髪洗うから待ってろ。」

ふう…とりあえず髪洗って風呂からでよう。

こんなとこにいたら理性もクソもない!

あれ?シャンプーがないぞ?

頭が洗われてる?

気持ちいい。そんなに強くもなくふんわりした感じで後に残る。

鏡に映る榑亜。そのものはまるで、メイドがご主人様の髪を丁寧に洗っているようだ。

いつもの榑亜とは違う雰囲気。

このまま時が止まれば…なんて考えてしまう。

「榑亜…ありがとな」

「はい!こう言う事でしたらいつでもやりますので!」

髪を洗い終えると榑亜は風呂から出た。

その後俺は湯船で身体を温めた後すぐに風呂から出た。

こんな榑亜でいてほしい。

って何を言っている。

髪を乾かして鏡に映る自分を確認した。

この金髪で何回散々な目にあったか。

なんでいきなりこんな美少女がきた?

意味がわからんのだが。

そんなことを考えながら俺は自分の部屋に向かった。

ドアを開けると榑亜は裸エプロンで立っていた。

「お風呂にする?ご飯にする?そ・れ・と・も…わ・た・し?」

また俺に風呂入らせる気か?

これ理想のパターン…あいつ本当にやることが卑怯だな。

仕事とか終わって帰ってきてこれを言われたら爆死するさ。

「じゃあ俺は寝るを選択で!」

「そんな選択肢ないですよお!!」

「そんなこと知らねえ!寝ろ!」

明日の朝になったら犁兎に説明しよう。

わかってくれるはず。

新学期1日目だというのにここまで疲れるとは思いもしなかったよ。

そう、この日から俺の人生が変わるとは知る良しもなかった。

「おやすみのチューしてください」

「嫌です」

そうしてこの奇妙で不可解な一日は終わりを告げるのであった。

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