FACTOR-3 枯渇(avan)
遥には理解ができなかった。
なぜ彼がここにいる。
なぜ自分を助けてくれた者を襲う。
そう考えたとき、翔のある言葉が思い浮かぶ。
――――悪い奴らだよ
「まさか……」
考えついたときにはすでに、翔はユニコーンのグレイドルの方へと走っていた。
「ま、待て!」
「ハアッ!」
ユニコーンのグレイドルの言葉にも聞く耳持たずである。
防御態勢も入れぬまま、そのまま翔の拳をまともに受けた。
また、翔が先日グレイドルの体を殴りつけたときのように赤い光が染み込んでいっている。
「ぐぁっ、ウッグッ……!」
翔の拳撃をまともに受けたユニコーンのグレイドルはそのまま思いっきり後ずさり、地に手を付いた。
殴られた部位を押さえて荒い呼吸を繰り返す。
このままでは、翔は先日のように屠殺する。
殺されるべきではないものを、殺す。
体勢も戻らぬままのユニコーンのグレイドルに近寄って首根を掴んでたたせ、
「ハッ――、ハアッ!!」
一撃、今度は顎に打ち込んだ後、体勢が反るような状態になったところで腹部に攻撃を打ち込む。
その拍子で思いっきり突き飛ばし、
「ゼァアッ!」
一回手首を振りもう一撃――
今度はさらにパワーのこもった一撃で殴りつけた。
「あッ――、ガッ!?」
翔の拳撃は昨日見せたものよりもさらに激しく、さらに獰猛となっていた。
オリジン。
確か、ユニコーンのグレイドルはそう呼ばれていた。
昨日翔が言った「下位種」というたぐいで、その一番上の位ということを指しているのだろうか。だから、翔があれほどにまで本気になっているのだろうか。
しかし――。
「ハアッ!」
翔の一撃のダメージから立ち直れないユニコーンのグレイドルは顎下を突き上げられる。
「やめて……」
相手はグレイドルだ。
しかし――――。
「ウガッ――! ガアッ……!」
一方的に、ユニコーンのグレイドルを蹂躙する翔。
「ァァアアッ!」
そんな翔に抵抗するも、翔はそんな抵抗すらも真っ正面から破って蹴撃、拳撃を繰り返す。
「やめて! やめてよ、翔!!」
「ハアッ! ダアッ!」
グレイドルが悪い奴ら。翔は確かにそういった。が、翔が今殺そうとしているグレイドルは遥の命を救った。殺されていいグレイドルではない。
だが、翔は遥の叫びにも、ユニコーンのグレイドルの呻き声もまるで意に返さない。
「何でよ……」
なぜか、自然と体が動く。
翔を止めないと、と。
後ろから羽交い締めてでも、翔を止めなければ、と。
膝に力が入り、立ち上がる。
足が前に進む。
すべて、無意識の中で行われていた。
そして今走り出そうと――
「遥!!」
「ッ!?」
そのとき、背後から不意に呼び止められ遥は無意識の世界から脱せられた。
「恭平……君……」
遥を呼んだのは恭平だ。無事だったのだ。
こちらに駆け寄ってきた恭平は翔とユニコーンのグレイドルの戦闘をみるや、驚きの表情を浮かべてその場で立ち止まった。
「なんだ――ッ!? クソッ」
その様子をみて危機感を覚えたのか遥に駆け寄って腕を掴み――
「ちょ、ちょっと!」
「早く離れるぞ、こんなところから!!」
「で、でも――ッ!!」
恭平はその遥の言葉を聞き入れず強く腕を引いてその場から連れて行く。
(天城君――ッ!)
離れていく、翔を見ながら願う。
どうか、殺さないでくれ、と。
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