第三話 天使は“ごきげん斜め”なご様子です。
紗枝さんはその日、それはもう山のように溜まった洗濯物を「ふんじゃらこった、ふんじゃらこった」と息を切らしながら地道に洗っておりました。――失礼致しました。とても可愛らしげに「よいしょ、こらしょ」と器用に美しい手捌きで効率的になされておりました。――これで宜しいですか?
赦しのジェスチャーが地上にいる紗枝さんから出されました。両手で可愛いまん丸を形作って、にっこりとした笑顔を作ってはにかみながら。ついつい彼女を見ていますと見とれてしまいます。……紗枝さんは癒しの天使様ですね(今のは物の喩えです。本当の天使は非常に恐ろしいですよ。それはもう毎日毎日わたくしやら、地獄の小間使いやらをびしばしと手荒く、平然と、同情もせず、顔色一つ変えずに、二十四時間くまなく働きなさいと(ブラックなご企業の社長さんも「流石にそれは」と同情しそうなくらい)命令を次から次へと出しまくりやがりますので)。天の声は小さく咳払いをし続けます。それはさながら、夾雑物の欠片もない澄んだ小川に滔々と流れる桃のごとく。
と、ここからは彼の愚痴が長々と続くので大幅に中略(天の声の他愛もない戯言が遠くで聞こえている。たとえば「ちょっと待ってくださいな」「いや本当に」「贅沢は言いません、後ほんのもう少しだけでもオンに出させてください」など。これはあくまでほんの一例です)。
天使のミコトは天の声を彼の事務所がある地区へと押しやった。
「煩いので強制転送をしちゃいましょう」本当、天使の権限が強くてよかったわ。
さて、彼には少しの間黙っておいて頂くとして、ここからは美し麗しの紗枝さんに視点を変えて行きましょう。彼の話は逐一冗長が過ぎますし、これを見ている読者さん方もそちらの方がきっと嬉しいでしょう? それにしても本当にあの天の声No.764には困ってしまいますわ。何事も「過ぎたるはなお、及ばざるが如し」だって何遍も言ってますのに、ちっとも改心する様子も見せようとしないんですもの。あれ、「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」でしたっけ? 句読点の位置はどちらでしたかね。まあ、良いでしょう。漫ろ言を失礼致しました(嫌ですわ、彼の悪癖が移ってしまいましたかね?)。それでは紗枝さん視点へ、ほいっとな。
《天使はカメラのフォーカスを紗枝の視点へと動かした》
(天空に浮かぶ彼彼女らの戯れ言は一旦側に。ここからは紗枝さんの話が続きます)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます