第4話 しばざくら
「みんなは芝桜の美しさを知っていますか」
堀内先生は終業式の終った後の教室でこうおっしゃった。成績表を渡されたあとでみんな喜んだりがっかりしたりしている。先生の「もっとがんばればできるはずです」という通信欄の一言をどうやって親に説明しようかと僕は気が気ではなかった。
「芝桜はほとんど土がないところや斜面などでもちゃんと根を張って、きれいな花をつけるんですよ」
前の席のコージが時々振り返って舌をだしてからかう。僕はこぶしを握って「このやろう」を声をださずに叫ぶ。
「芝桜は先生が一番好きな花です。派手じゃないけれど、主役じゃないけれど、しっかり根をはっているところが素敵です」
廊下側の一番前の席に座っているヒカルはやっぱりかわいい。クラスで一番人気はハルカだけれど、あのなんというかお高くとまっている雰囲気が気に食わない。その点、ヒカルは控えめだけれど思いやりがある。
「先生はみんなにも芝桜の花をもっと知ってほしいと思います。あの花は一輪だけじゃなくて、たくさんの花が並んでいるところがいいんです」
斜め後ろの席のシンヤはどうしてあんなに強情なんだろう。もう少しみんなのいうことに耳を傾けてあわせれば、友だちだってできると思う。僕はタクヤたちみたいにいじめはしたくないけれど、助けもしてないからシンヤにとっては同じあなのむじなってやつなんだろうな。
「一つの花が他の花を守っているのです。おたがいに身を寄せ合って生きているのです。それが美しいんです」
どうして僕はいつもこうなんだろう。自分はこういうキャラですって感じでお調子者を演じていて。僕は本当はこんなんじゃないのに。
「このクラスは今日でおしまい。4月からはクラス替えで新しい仲間と一緒です。みんなで力を合わせて芝桜のようにお互いがお互いを引き立てあうような仲間になってくださいね」
そうか来年はコージもシンヤも、ヒカルちゃんも別のクラスになってしまうかもな。
「それから、先生は来年から別の学校に移ることになりました。これまでみんなと一緒にお勉強ができたことは、とっても楽しい思い出です」
ええっ、それはないよ先生まで、どこかに行っちゃうのか。
「先生のことは忘れても芝桜の話は覚えておいてね」
小学校の頃の思い出はかなり消えてしまったが、自分が小学校の教員になるきっかけはおそらくこの時の話が幾分か影響していると思う。
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