第3話 ホッチキス

 クラスメートの松元君は、クラスで一番背が低かったが、とにかく元気がよかった。3学期は学級委員に立候補して、見事にその役に就くことになった。


 松元君はちょっと変わったホッチキスを持っていた。外国製とかで得意気によく自慢していた。なんでもこの町では絶対に売ってないし、県一番の文房具店でもない。東京でも手に入るかどうか分からないというのが自慢の種だったのだ。僕もそう言われるとなんとなく欲しくなった。でも、松元君は決してそれに触らせてくれなかった。


 ある日、松元君はとても落ち着きがなかった。そして不機嫌だった。例のホッチキスがなくなったというのだ。僕らは一人ずつ疑われて、全員のアリバイを要求された。僕らは、少なくとも僕は松元君のことが嫌いになった。


 松元君は次の日、間が悪そうに少し遅刻してきた。あとで聞いたところ、お父さんにひどく怒られたそうだ。なくしたホッチキスはお父さんがイギリスに留学した時、現地の友人からプレゼントされた思い出の品物だったそうだ。松元君はお父さんに内緒で使っていたらしい。お父さんが怒ったのはホッチキスをなくしたことだけではなく、むしろ松元君が友達を疑ったことだったらしい。


 お父さんは、


「ホッチキスは繋ぎ止めるための道具なんだ。別のホッチキスを買えば紙をとめることはできるだろう。でも、友達との間を繋ぎとめる道具なんてないんだ。お前は今日お前が疑った全員に謝ってこい」


 そうおっしゃったんだそうだ。


 僕は転校するまで松元君といい友達だった。

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