last episode:Like the wind 第11話「終わりの軌跡」
last episode:Like the wind 第11話「終わりの軌跡」
凛が七歳を迎えた頃から、兎風 彗の次代を担う王を育てる教育は本格的な指導を開始していた。
これまででも簡単な教養、地上世界の本、全世界の成り立ちを軽い知識として指導されてきたが、七歳を迎えた今の指導はそれを遥かに超える厳しさを凛に与えていた。
ぬるま湯の世界が熱湯の世界に。
王になるために必要な礼儀作法はもちろんのこと、各種対応のテンプレーション、または予測不可能な事態における状況予測の方法とその場合における被害を最小限に食い止める方法など王にとって必要なことを叩き込まれる毎日。
毎日繰り返される復習で一度、間違えれば強力な呪詛をかけられるにも等しい言葉が浴びせられる。
お前は王になる存在だ。
全てを受け入れろ。
こんなこともできないのか。
お前は人ではない、地下帝国の人々を救うためにただ漫然とそこにいる人形だ。人事を尽くし、天命を待つ必要はない。天命など、王になるに不要なものだ。
――どれも取るに足らない、陳腐な言葉であるのに少女の心を執拗にナイフで刺すがごとく亀裂を入れる。
繊細な少女の心は次第に正常な物事を判断できなくする。
心を壊された人間は人間であるのか。
狂った者は人間であることが出来うるのか……。
たった七歳、されど七歳にかけられる言葉という重圧は一人の少女の心を殺すほどに大きなもの。
しかし、こんな罰など、まだまだ甘いものである。
歴代の王になった者が受けた罰は様々なものがある。
凛が受けた指導は歴代の王になった者から見ても、とても緩やかな死に向かう指導である。
言葉による緩やかな精神の死か、体罰による急速な精神の死か。どちらが自らの殻に閉じこもり全てを諦めるのか。
精神的な死をどちらが早く迎えるのか。
結局のところの答えは、性格、育つ環境の違い……差異あれど、人間よる。それだけである。
しかし、この二つには、ある一面がある。
死は王になるために必要な事象である。どちらも、それを徹底的に満たしている。
心が壊れた人間は生きていない。それはただの死者、抜け殻である。
王とは人間を死者として祭る祭壇上であり一人の生を埋葬した墓地であり、民をすべて受け入れる器でなければならない。
――そうしなければ王として全てを受け入れることなど、不可能。
人ならざる者でなければなれない。それが古くからの王というものだった。
では、なぜ兎風 凛は狂わなかったのか。
なぜ、墓地に入ることができなかったのか。
答えはたった一つで単純明快。
いつも親友が傍に居てくれた。
そんな些細な事象で、凛は高校生になる直前の核を彗からの指示で殺すようになるまで、心を崩壊させることはなかったのだ。
凛は誰もが望むであろう幸福で愉快で、共にいると心が安らぐ仲間を手に入れていた。
……
凛が本格的な指導を受け始めたある日、凛と核が地下帝国にある公園のブランコを漕いで、七歳の子供らしからぬ暗い顔をしていた。
「……どうしておとなはわたしをみていやなかお、するのかなぁ……なにもわるいことしてないのに」
漕ぐたびに鉄の鎖が軋む音を生むブランコは地下帝国の静かで陰鬱気な雰囲気に陰りを落としていた。
「なにもわるいこと、してないならりんはそのままでいればいいと、おもう」
凛はブランコを足で止めて、隣にて、ブランコを漕ぎ続ける核を不安な面持ちでじっと見つめる。
「そのまま……? いやなかお、されるのいやだよ……こわい」
「だって、なにもわるいこと、してないでしょ?」
堂々とした問いかけに、対して凛は肯定する。
「うん……」
「それならなにもきにしないでいいとおもうよ?」
再三に渡り告げられる、気にしなくていいという言葉に、凛は「でも……」と渋る。
事の次第は単純明解とはお世辞でも言えるものでもないし、誰に解決ができるものでもない。
大人たちが凛に侮蔑を混めた視線を送るのは、それが面白くない、からだ。
地下帝国のピラミッド型の政治体制から脱却したいと考えている人間は少なからず存在している。
地上世界――日本のように、あくまで民主性を重んじて、政治を覆そうとしている者たちは数十年前から比べれば、増加した。
しかし、頭数が増えたところで現在の王政を終わらすことは確実に不可能だ。
なにせ、地下帝国の民というものは誰もが命令されることに慣れてしまっている。幼い頃より王に従うことを教育されているからこそ、反感があってもそれを口にだすことはない。
過去に意見をし、反逆罪で投獄された者も多いことから、誰もが変化を望みながらも変化を許されない状況にいる。
それは核たちも例外ではない。
たとえブラックボックスに選ばれた存在だとしても、王を退けることはできないのだ。
だから、核にできるのは、向けられる憎悪の視線から凛の負担を少しでも減らすことだった。負担があるのなら、それ以上に面白いことをすればいい。
それが核の結論だった。
「ぼくたちはしんゆう。でもりんのいたみをいっしょにせおうことはできないから……。だから、もっとたのしいことしよう!」
核は漕いでいたブランコから飛びだすように尻をあげて、体を宙に躍らせる。
凛が呆然と見守るなか、核は地面にしっかりと着地して、凛に振り返る。
「……」
感嘆の息を漏らしながら、凛は拍手する。
凛に微笑みかけて、核は手を差しだした。
「いっしょにあそぼう? りんがおとなにいやなかおされてつらいなら、それをえがおにかえるくらいにたのしいことをしよう! みんなとあそんだらきっとえがおになれるよ!」
愚直で何かの疑いを持つこともない言葉。
相手に何も与えない、相手の事情を考えない無地の言葉はそれゆえに、清廉潔白で心に響く。
その者が正しいことを言っていると錯覚させる。
ある程度年齢が立って精神が熟成されてしまえばこんなことで沈んだ心が浮上するなど、あり得ないことだが子供心には、これで十分だった。
凛はこぼれるような笑みで頷いて、差し出された手を握る。
繋いだ手は暖かくて、どちらもこの世界に確かに存在しているものだと、本能に理解させる。
やっぱりお父さんが言ってたことは違うんだ。核くんが人間じゃないなんて、絶対にあり得ない、と心の中で思考する。
凛は確かに繋いだ手を離さないように、さらに力強く心と心を通わせられるようにぐっと手に力を込める。
「いこう」
「うん」
問いかけに頷いて、少年たちは進みだした。
……
また、ある日の朝。
天井はあいも変わらず薄暗く、変わらない毎日を演出していた。毎日、朝であることを理解させるのは、各家庭に存在する電子時計である。
地下帝国の人々が家から出て本格的に活動しだすのは、およそ朝の八時頃で、その頃になると車の喧騒や仕事場へ向かう人々で小さな街は賑わい始める。
あるものは文庫本を片手にきわどく通行人を避けていたり、寝起きの髪のまま通行していたり、はたまた、学校へ向かう子供たちの笑顔であったり……。
地上世界となんら変わりない光景が毎日が繰り広げられている。
しかし、どの人間にも、活力と呼ぶべきものは存在しなかった。この人間たちはただ生きているだけなのだ。
毎日を幸せに送るすべは誰もが知っている。小さな幸せがあれば人はいつまでも生きていける。
ただし、それだけ、だ。
漠然とした目標もなく、ただ毎日の幸せを感じながら生きながらえる。そんなものは果たして生きていると言えるのだろうか。
地下帝国の人々に刻まれた負という側面は、とてつもなく大きくいまも、地下帝国は衰退に向かっている。
活気溢れながらも陰鬱さ漂う街から少し離れた、複雑に入り乱れる森林のなかで隔絶されたように開け放たれた大きな広場に咲き誇る色とりどりの花たちがあった。
年中花を咲かせるそこはブラックボックスがもたらした奇跡の場所だ。
――三十年前、ここはブラックボックスに初めて選ばれた観測者たちの安住の地だった。
何か辛いことがあれば、ここに逃げ込んで親友と遊んだ初代観測者思い出がいまも根強く残っている。
秘密基地。
ここはそう呼ばれていた。
初代観測者たちが散り散りになって三十年の歳月が流れても、ここはそれほど変わることがなかった。
楽園の中央に存在する、老朽化した家だけは時の流れを告げるように次第に古びていっているけれど、まだ完全に倒壊するまでは至っていない。
変わったところと言えばそれくらいで、老朽化した家を取り囲む色とりどりの花たちは不気味なほど健気に咲き誇る。
そんな大地に、核、凛、優衣、愛瑠が現れた。
「よーし、きょうもあそぶぞー!」
「「「おー!」」」
優衣の掛け声と共に、少年少女たちは楽園を走りまわる。
いつもの、代わり映えのない光景だ。
朝から縦横無尽に走り回って、お腹が減り始めるお昼頃に家へ舞い戻り、おなかがいっぱいになったら腹ごなしにまた楽園に集合して森林を流れる川で話し合い、夕方になるまでまた体を動かして遊ぶ。
ただ遊ぶだけの毎日で、宝石のように煌き瞬いている夢のような日々。
ある時、凛は自分の家から地上のことが書いてある本を持ってやってきた。
「そのほん、もってきたよかったの? トリちゃん。おうちのものなんじゃ……?」
心配で、声をかける愛瑠。
全員が、凛の現状が大変なことを知っているから誰もが心配に心を痛める。
しかし心配されている当人は老朽化した家のなかで、笑顔を振りまきながら本を開き始める。
「たぶん、だいじょうぶ。いつもいってるけどとりちゃんだけはちょっとこそばいからやめてほしいかな」
「うーん、だめ? わたしはこのニックネームがきにいってるんだけど」
愛瑠が人をニックネームで呼ぶことは少ない。
兎風 凛だから、兎風からトを、凛から、リを。名字と名前の頭から一文字だけ取ってトリちゃんと呼ぶ。
核のことも、神風 核からとって、カサくんと呼ぶのだが、優衣だけはどうも本当にそのニックネームで呼ばれるのが嫌だったらしく、名前で呼んでもらっている。
「……まぁいいけど」
上目遣いをされて、凛はしぶしぶ頷く。いつもこの愛瑠には弱いのだ。
何かにつけて、トリちゃんと呼ばれることに対して反抗してみるものの、この呼び方が愛瑠が心から認めた人にしかされないものであると思うと悪い気はしない凛であった。
核もカサくんと呼ばれることに一度反抗したことがあるが、その際にナニカサレタらしく、それ以降反抗しなくなった。
「このほん、なにがかいてあるんだー?」
優衣が興味津々と本に覆いかぶさるように乗りだす。
「みかぜちゃん、みえない、みえないから!」
「あ、ごめん、りん。このまっくろいのにうかんでるひかり……なんだろ」
その言葉に、核と愛瑠も興味を引かれて本を四人で囲いあう。
本に載っているのは地上の空を映した写真で、夜の写真のようだった。
「きれい」
「……」
愛瑠は素直に、感想を述べて、核は無言で感嘆したように口を開ける。
写真は、吸い込まれそうになる暗闇のなかに、光が無数に瞬いていた。
「ね、すごいでしょ!」
凛は自信気に胸を反らして手を腰にあてる。
「すごいすごい、こんなものみたのはじめて! さすがトリちゃんね」
「きれいだなー」
「ほかには、どんなのがあるの?」
核がせっつくように、次のページへ手をかけて、捲る。
「……」
しばらくの間、全員が唖然とした顔で無言になった。
目の前に広がるのは、無数に落ちる流星。
闇夜を切り裂くように落ちゆくのは流星群だ。
まるで、自分がその場にいるような感覚にさせる写真の構図――センス。
ただただ、光が尾を引いて落ちているだけなのに、煽情的なまでに優雅で美しく見るものの心を夜空に誘わせる。
そんな写真だった。
誰もが口を開かない。
いや、開くことはこの写真に失礼とすら感じるのだ。
いつしか、写真を見て、綺麗という思いは、実際に見てみたい、そんな願望を漂わせる。
そこまでの魅力が、この写真には存在した。
「……いってみたい」
誰が発したかもわからない言葉は、全員の頭を現実に舞い戻す。
自然と、目線が空に向けられる。
老朽化した家からは天井が丸見えだ。
「……はぁ」
漏れ出るため息。
少し期待して覗いた天井は、真っ黒いのは地上の夜空と同じなのに、光がない。根本的に違う場所なのだと、理解を促される。
「……うん。みんな!」
核は何かに納得したように頷くと立ち上がる。
「ど、どうしたの、カサくん」
「とつぜんたちあがって、なにかあったか?」
「……どうしたの?」
三者三様で返される返答に、核は自らの考えを提案する。
「いつか、ちじょうにでよう! このよぞらをみるんだ。みんなで」
「ほんきで、いってるの?」
「もちろん。だってこんなきれいなばしょなんでしょ、だったらいかなきゃ!」
少し陰りを見せていた凛たちの顔に、笑顔が浮かび始める。
「いこういこう! ちじょうかぁ、いいところなんだろうなー」
「ここのくるまとかだって、ちじょうからゆにゅうされたものだって、はなし」
「あいるさん、ゆにゅうってなんだ?」
「ゆにゅうっていうのは……えーと、なんだっけ」
「ゆにゅうっていうのはね、ちじょうからちかていこくになにかをもってくることだよ!」
大方、間違ってはいない。
「さすがりん」
「えへへ、さねくんあんまりほめられたらてれるよー」
「むっ……わたしだってすごいことをしってるんだからね、カサくん」
「? なにをしってるの?」
「え、えーとね。そ、そう! しってる? そとのしょくぶつはこうごうせいっていうをしないといきていけないの」
「こうごうせい?」
愛瑠以外が顔を見合わせる。
「みんなしりたそうだから、おしえてあげる。 こうごうせいっていうのはね、たいようっていうのがえいようをあたえてくれることなの」
「たいよう?」
「た、たいようっていうのは――」
「たいようっていうのは、とってもあついやつで、みんなにげんきをあたえてくれるんだって」
間違っては……いない。
「へー」
「たいようってすげー」
「むぐう……」
「あいるちゃんどうしたの?」
「な、なんでもないー」
愛瑠は年が一つ上のお姉さんとして、知識があることを披露してお姉さんであることを誇示しようとしている、のだが、いつもこのように凛に説明されてしまう。
「あいるさん、どーしたの?」
「なんでもなーい!」
写真を見るのも少し落ち着いたころ、楽園の花たちに囲まれながら地面に寝転がっていた核の元に凛がやってきた。
「ねーさねくん」
「なに? りん」
「あのねー」
凛は少し照れたようにはにかみながら、核の左隣に寝転がって少し間を置いてから言った。
「ちかていこくからそとにでるっていったでしょ?」
「うん、いった」
「あのほしぞら、いつか、いっしょにみようね」
「ぜったいに、みる」
笑顔を浮かべながら頷き返す。
「じゃあ、やくそくのしるしに、ゆびきりげんまん」
空中に右手を指を差し出す凛に、核は躊躇うことなく左手を差し出して絡めあう。
「「ゆーびきりげんまん! うそついたらはりせんぼんのーます! ゆびきった!」
「えへへ」
「? どうしたの?」
「やくそくうれしいなーって、ぜったいにみようね、さねくんとほしぞらみるの、たのしみにしてる!」
何気ない日々はいつまでも続くと思われていた。
少なくとも、核たちはそれを疑わなかった。
しかし、変化というものはいつも良くも悪くも唐突に訪れて環境を変化させる。
……
核たちが楽園で遊ぶようになって、凛が本格的に王になる指導を受け初めてから半年後。
ブラックボックスから彗に新たな指令が下された。
「神風 核から記憶を消して地上世界に放り出せだと? ブラックボックス……!」
空中に表示された透明なウィンドウにかかれているのは、神風 核の記憶を消して地上世界へ送り出せ、というものだった。
人の願いを叶えてきた黒き箱を彗は憎しみを混めて睨む。
無理もない、ブラックボックスからの命令は、それほど愚を犯していた。
「年端もいかないお前の子供を外にたったひとりでいかせるなど、正気か……! やはりお前は人に希望を与える、なんてものじゃない、もっと醜悪ななにかだ!」
吐き出される言葉に、反応してくれるものはいない。
彗は激昂しているが、別段、核を擁護したわけではない。神風 核のことはいくら身体が人間のものだとしても、ブラックボックスから生まれたものに変わりはないから好きにもなれないし、見ようとも思わない。
ただ、子供に強いるものとして、それは醜悪極まりないと思っているから、怒鳴っている。それだけだ。
「わかっている、お前は人の希望を叶えるものなんかじゃない、お前は絶望を振りまく負の遺産……だが、それに従わないといけないのが自ら絶望するほど悔しい。
お前の望みは、叶える。もし叶えない場合、何をされるかわかったものじゃないからな……ただ、人間を侮らないことだ。ブラックボックス……」
彗は言葉を吐き捨てて、ブラックボックスの祭壇を早足で去る。
物言わぬ、人の願望を形にしてきた箱は彗の姿を見つめてなにを思うのか、それはきっと人の身の上では、誰も理解できないことだ。
……
王位の間。
そこは、歴代の王たちが普段、根城としている部屋である。
彗は、王座を象徴する椅子に腰掛けながら、つまらなさそうに黒服の話を耳に入れる。
「午前、八時ごろ、神風 核が車との交通事故で死亡いたしました。遺体は病院に搬送されて――」
「そうか」
「よいのですか? ブラックボックスの命令に背くことになりますが……」
「地上世界に出せという奴か? あんなもの、捨て置け。わたしがブラックボックスから依頼されたのは神風 核を育てることだ。そこに守ることは含まれていなかった。
今回はこちらの落ち度でもあるまい。
遺体はすぐに火葬――……む?」
言の葉を紡ごうとして、唐突に眩暈を起こし、右手を顔にあてる。
久しい感覚が彗を襲う。
「どうか致しましたか?」
「……」
黒服の事務的な言葉には目もくれず、思考を巡らせる。
視線が定まらなく、体の感覚が曖昧になっていく。自分が溶けて無数の空気になってしまうような、そんな感覚。
そうか、これは……と思った瞬間に、彗の思考は冥府へ誘われるように途切れた。
時は数時間前へ物理的に遡る。
彗が目を覚ますと、そこは王位の間から離れた書斎であった。
目覚めたばかりで、根元の定まらない朦朧な意識を無理やり覚醒へ促す。
次第に世界が輪郭を帯びてきて、自分がどこにいるかを把握する。
いたって冷静に、アナログな針が時を刻むものを見る。
「午前六時、か。とすると……」
ぽつりと呟いて、背もたれに身を預けて、目を瞑る。
思考が、瞬く間に繋がり広がっていく。
自らの考えをか細い声で口にだして、確実性を持たしたものにしていく。
時間遡行が起きた原因について、探る。
「今朝はブラックボックスを使う予定はなく、時間遡行が起きる可能性はなかった。特に変わったことはない、ただの朝だったはずだ。
……変わったこと……そうか、神風 核が死亡したことか」
真実にいたるまで、さほど時間はかからなかった。
ブラックボックスが時間遡行を勝手に起こしたことはこれまでなかったことだが、点と点を結ぶのは楽なことだった。なにせ、ある程度の条件は絞られているのだ。
ブラックボックスは誰でも動かせる代物だが、厳重に警備されているし、不審者が進入したという報告もなかったので、誰かが起動したということはないはずだ。
今朝の重大な事件といえば、神風 核が死亡したことだ。
神風 核は、ブラックボックスの子供とも言うべきものであり、ブラックボックスがなんらかの細工をしていても不思議ではない。
「見にいってみるか……」
彗は億劫な腰をあげて、ブラックボックスの祭壇へ向かった。
……
平和そのものだった。
なんら急いだわけではないし、心配だったわけでもないがブラックボックスの祭壇はいたって平常運転であり、なんら心配がなさそうだった。
「……アクセス」
彗の一言で、空中に透明なウィンドウが表示される。
ブラックボックスの状態確認だ。なにも起こってはいないと思うが。
「現在のエネルギー状況」
単語だけで、検索の条件を絞り込む。
「残り八十四パーセント……」
エネルギーを表しているのは、円筒状の絵で、そのなかに十パーセントごとに一メモリが刻まれている。
昨日確認した際には八十五パーセントだったので、一パーセント使ったことになる。
「使用報告」
また透明なウィンドウが変化して、文字が流れ始める。
「午前九時、これか。神風 核が死亡して病院に搬送されたタイムラグがあるが誰かの死亡にブラックボックス自身が関与し、生き返らせた――いや、時間を戻したということか……一度、試してみる必要があるな」
彗はさっと身を翻して、ブラックボックスの祭壇からでて、黒服にレシーバーで無線連絡をとった。
「神風 核を午前八時に撃ち殺せ。ああ、そうだ」
淡々と言うことだけを言ってレシーバーを切る。
口では素っ気無かったものの、顔は苦痛に歪んでいた。
「僕は何も悪いことはしていない……神風 核は、人間ではない、人間ではない……僕は王、王ゆえに、しっかりしなければ。いけない」
自らに言い聞かせて、精神を保つ。
人間ではない、その言葉が向けられたのは、子供を殺すことに対しての良心の呵責である。いくらブラックボックスが作った子供とはいえ、人間の姿をした者を殺せといったことに、感じるところはある。
だから、言い聞かせるのだ。あいつは人間ではない、と。
数十年の間に、彗が見につけた唯一の処世術がこれだ。
自らに言い聞かせることで、壊れそうな精神の安定と安住を得る。
「……」
決意をして、王の威厳に満ちた目を浮かべ、彗は歩幅大きく、歩く。
その背中は寂しげで誰かを待っているようであった。
……
実験を開始してから、二回。
神風 核の死亡が舞いこんできた。
「午前八時、神風 核の射殺を滞りなく、終了いたしました。最初に発見した通行人が、病院へ連絡し神風 核は搬送された先で死亡が確認されました」
「……そうか」
淡々とした抑揚の感じさせない声で、黒服が報告を済ませ、王位の間から頭を下げて、姿を消す。
それと同時に、彗に再び言い知れない世界の輪郭が霞かかる眩暈が襲いかかってくる。
彗は、内心で「やはり、きたか……時間遡行、確実だな」と思いつつ、意識を再び失った。
再び、時間は物理的に戻って午前五時に遡る。
彗はまたも背もたれに身を委ねて、二回に渡って繰り広げた実験によってわかったことを小声で一言一句確認しながらまとめる。
「神風 死亡により、世界は時間遡行し神風 核が死亡した未来を回避しようとする。ただし、その際にはブラックボックスのエネルギーを消費してしまう……か」
なんてことはない、たった数十秒で説明できる真実に脱力する。
「自ら生み出した子、故に贔屓するか……。ブラックボックスに人の心があるとは思えんがな……徒労だったな、この調査も」
役立つことのない、ただの時間の浪費だった。
わかったことは、ブラックボックスが神風 核の死亡を許さないということだけ。
「命令に変わりはなかった。神風 核の記憶をすぐにでも消して地上にあげるか」
彗は重い腰をあげて、書斎から出ようとして、ふと飾ってある写真を見て、自嘲気味に呟く。
「夜風……僕はまた、凛に苦渋を強いてしまう……」
夜風を見て、無意識のうちにでた言葉に、首を振る。
死人を頼ってはいけない。
自分は――王はこんなところで止まっている暇はない、たとえ、娘であろうとも……冷徹に事を行わなければならない。
でも、と思う。
夜風が生きていてくれれば、こんなことにはならなかっただろう。王としての責務があろうとも最愛の人がいれば自分はもっとまともで居られただろう。
重要なのは夜風だけじゃない、百合風、そして地下帝国の運命に耐え切れず、逃げだした男。
四人揃えば不可能なんてなかった。
ないはずだった。
しかし、時は残酷に四人を切り裂いて地下世界の民を地上世界へ連れて行く、なんて途方もない目的は終わりを告げた。
もしかしたら、四人が生きていて、龍馬 拓也も生きていれば、彗は王にならず、地下帝国は地上世界との交流を獲得できたのかも、知れない。
なにせ、当時は地上との交流を本格的に取り始めた頃だったのだから、いまみたいに引くに引けない状態へ陥ることはなかっただろう……。
「……ないな。たら、れば……か。考えても詮無きことだな」
彗一人だけが、地下帝国に置きされれて十数年。
地獄だった。
ひたすらに地獄で、何度死のうとしたことか。
しかし、それはできなかった。自分が死ぬ覚悟を持っていなかったからだ。包丁を握れば手が震え、縄を準備すれば体が震え、死に至る薬を飲もうとすれば思考が進まなくなった。
何をしても、死ねることはなく、いつの間にか王になって、凛を引き取ることになっていた。
代々、王家の人間は結婚をし、次代の子供を生むものだが、彗はそれができなく、両親のいない子供を引き取った。それが凛だった。
子を為せなかったのは、夜風のことが、未だに頭に残っているのだ。一人の人間として、未だに愛している。会えないから、どんどんと愛は膨らんで、いつしか夜風を殺す原因にもなったブラックボックスを憎む気持ちに反転した。
いくら憎んでも、憎みたりない。
「……」
熱を帯びたように煮えきる頭を落ち着かせる。熱くなっては王としての責務を果たせない。思考を冷徹に冷酷にしなければ勤まらないのが王の役目だ。
感情的に動くだけの王は民に支持されるが、最後のところですべてを間違える。
自分はそうなってはいけない、王であるのだから強くあらねばならない。
孤独な人形。
王とは、そういうものだ。
自分に何度も、何度も飽きるほど言い聞かせた言葉だが、それでも未だに言い続けなければならない。
そうでなければ、兎風 彗が固めた地下帝国の王としての心は雪解けるように、脆く、崩れてしまうのだから。
……
凛は静寂のなかで、縮こまり、怯えていた。
薄暗いながらも、全体を見渡すのに数秒も掛かることのない正方形の小さな部屋。
周囲を注意深く見渡しても凛を取り囲む数十人の大人たち。
しかし、彼らは喋ることはない。
まるで、職人が端整に掘った人形のように、微動だにしないのだ。
無圧の視線が物語るのは、この用事が早急に済むことだけを懇願している。
「……あの」
「なんでしょうか、凛様」
手近で、ふんわりとした雰囲気を纏う女性に問う。
「わたしは、なにをしたら、いいの?」
四方の人間たちは紡がれた言葉に、含みを持たせたいやらしく醜悪さを漂わせる笑いを披露する。
苦い表情で凛は自らが問いかけた女性にだけ視線を合わせて、言葉を失った。
にんまりと微笑を浮かべる光景は、凛が期待していたものではなかった。
凛は、この年にして大人との交流が多彩だ。だから、どんな人間がどのような人種かを理解している。
このふんわりとした女性は、危険な部類であると判断できた。
表面上は微笑を浮かべているが、腹の中では何を考えているか把握できない、まるで食虫植物のような女性は、身を屈めながら嘘で塗り固められた笑顔で告げる。
「あそこに倒れている神風 核の記憶を消してください。そうすれば、すべて終わりです。あなたの能力であるリライトであれば簡単なことでしょう?」
悪魔の囁き。
そうとしか思えない不気味さは凛の背中を寒気で震わせる。
「……」
事は、数十分前。
凛たちが楽園へ足を向けようとしたところ、黒服に急遽呼び寄せられてきたのが、この正方形の小さな部屋だ。
最初は、しばらくの間優衣と愛瑠の声が、扉の置くから聞こえていたのだが現在は静寂に包まれている。
大方、つまみ出されたのかも、しれない。
大人たちが用あるのは凛の観測者能力であるリライトだけなのだから。
強制する動きで、凛の背中が壊れ物を扱うかのように押される。
息をのんで、意識を失って倒れこむ神風 核の正面に足を運ぶ。
「けさないと、だめ、なの……?」
「その通りだ」
突然と割り込まれる威厳ある言霊に凛は振り返る。
「おとうさん……」
ずかずかと部屋に進入して振り返った凛に近寄って述べた。
「なぜ記憶を消さない。命令には必ず従うように含めていたはずだが?」
父の威圧的な肉声に涙を目の端に溜めつつ、絶対的な壁として立ち塞がる彗に怖気づきながらも引くことなく意見する。
「だ、だって……きおくけしちゃったら、わたしのことも、みかぜちゃんのことも、ふーかちゃんのこともぜんぶわすれちゃう……そんなこと、できない!」
「これは地下帝国にとって必要なことだ。お前の能力ならすべての記憶を奪うことなど赤子の手を捻るようなものだろう。やれ」
無慈悲に紡がれる言語は、凛を一歩ずつ戻れない崖に追い込む。
凛の観測者能力はリライト。
この地下世界と地上世界ににおいて、神にすら為れるような能力である。
全てを自らの思うままに書き換えて、行き着く結果を改竄する。何もかもが自分の思った通りにいくのだ。
しかし、そのような能力はあれど、凛は他者に対してそれを使うことはない。自分を取り囲む環境が冥府のようであろうとそれは絶対に行ってはいけないことであるからだ。
それを凛は、本能的に理解している。なんでもできるが勝手に使ってはいけない、そんな能力であるが故に、幼い頃からの洗脳的な教育によって、無闇に使うことを彗から許可されないうちは絶対に使うことはない。
凛にとって彗は父親であり、絶対に逆らえない主従のようなものだった。
だからこそ、彗の命令は絶対的な権限を発揮する。
「……なにをしている、早くしろ」
「……は……い」
搾りだした声は掠れていた。
自分勝手に手が動く。止めたいのに、止めることが許されない。
核の頬に触れる。
ほんのりとした暖かさで、自分はこれから核の記憶を消滅させるのだと否応なく促される。
緊張からの唾を飲み込もうとしても、うまくいかない。
手が恐怖したように、固まる。
「いいぞ、そのまま、全ての記憶を奪い取れ」
感情の起伏なく突きつけられる言葉という包丁に凛は突き動かされ、頬を伝う涙を核に零しながら、魔法の言葉を放った。
「……かみかぜ、さね。きおく、しょうきょっ……!」
短い。
口にすればたった数秒の魔法を言い終わると核が物静かに光って、記憶消去が始まる。
物の数秒で光は収まった。
それを見届けた彗は手早く黒服に指示を飛ばす。
「神風 核を手筈通りに処理しろ、あまり時間をかけるな」
先ほどまで凛と会話していた食虫植物のような女性が、神風 核を腕で担いで部屋から退室する。
それに続いて、凛の四方を取り囲んでいた大人たちは口々に時間がかかりすぎだ、無駄な時間を過ごしたな、などと言い切って、次々と部屋から退く。
「あ、あれ……さねくんをどこにつれていくの、おとうさん……」
彗と二人になった空間であるのに、気の抜けた声は沈黙を破るように轟く。
娘に背中を向けて、彗は吐き捨てるように、言った。
「神風 核は地上世界へ追放だ。きっと、神風 核に会うことももう、ないだろう。
あいつは元から世界に存在してはいけない人間だ。
忘れろ」
彗が出ていったあと、開け放たれた扉から凛に通路の照明が差し込む。
「……」
凛が、全てを認識しを得たのは、数十分後――凛が呼びつけられた事情と何が起こったかの顛末を言い渡らされた優衣と愛瑠が駆けつけてからになる。
……
神風 核が地上世界に送りだされてから、数ヶ月がたった。
彗はもし、核が死んだ場合に備えて、ブラックボックスのエネルギーを無駄に消費させることは避けたいがために、核を守るように監視させる方向で動くが、監視している黒服から飛び込んでくる報告は奇抜なものばかり。
ブラックボックスは自身の力によって、偽の身分証明書や暮らすのに必要なお金や住居としての家など、様々なものを操作し、両親のいない核を小学校に入学させて、さらに両親がいないという核自体の記憶すら操作し、周囲の認識まで操作しだす始末。
その突飛なまでの能力で繰り広げられる手腕は過保護といったものを超越していて、彗は報告を聞くたびに乾いた笑いがでかけた。
なにせ聞いている限り、ブラックボックスのしていることは自らの能力を最大限に生かした子供の育成と他ならなかった。
核の敵でなるであろう外的要因を消すのではなく、認識操作し、味方に変える。お金に困ることのないように、どこからかネットに接続して株をやり取りする姿などは傍から見ていて面白いものだった。
しかし、そのブラックボックスが描く親という姿に彗は苛立ちを覚える。
いくら親として振舞おうとただの意思ない箱が人の親であろうとしていることは、面白いことではなかった。
彗にとってブラックボックスは忌むべき物であり、憎むべきものなのだから……全てを奪っていった元凶故に、敵で居てくれなくては、困る。
黒服からの提示報告を聞いたあと、彗は目を閉じて独り言。
「お前は敵でいてくれ……どこまでも非道であり、人間から全てを奪う物、絶望を人に与える悪臭漂う願望機であり続けてくれなければ、俺は――僕は……!」
軟弱な心の悲しき慟哭。
それは誰にも知られない、知られてはならない兎風 彗だけの苦悩であった。
……
「りん、なぁ、りんってばよー」
「……」
「きょうもだめ、かも」
「えーまたかよーこうまいにちよびかけてるのにはんのうしてくれないとこまる」
優衣は頬を含まらせて不満を剥きだしにする。
「もうすこし、じかんがひつようなのかもしれない……だってりんはさねくんのきおくを、けしちゃったんだから……」
愛瑠の寂しさを漂わせる言葉のなかにある「さね」という名称に、凛は震えている身ををさらに竦ませる。
「……ごめんなさい、ごめんなさい……さねくん、きおくけしちゃって、ごめん、なさい――」
うわ言のように、凛が繰り返すのは謝罪だけ。
核の記憶を消してからずっとこうだ。食事はとる、睡眠もしっかりと行うが、それ以外の時間はずっと自分の部屋に閉じこもっているのだ。
優衣と愛瑠はここ数ヶ月間ずっと凛に付きっきりだ。
寝食を凛と共にしているが、生気のないものを見るのは子供ながらに、想像以上に辛いものだった。
いまの愛瑠と優衣は凛に認識されていない。凛が見ているのは神風 核という自らが不幸にしてしまった少年の偶像を観測しているだけだ。
最初のうちは、愛瑠も優衣も反応のない凛に諦めず言葉を投げかけていた。
しかし、一ヶ月をたった頃にはなかなか口を開けずにいた。
いくら親友といえど、何をしても動きのない心を前には立ち止まってしまう。誰かの介在する余地がないほど閉じきった鉄の城という心には、誰一人として進入を許されない。
聖域とすら、言えるだろう。
凛はそんな場所にいま、居る。
「いいかげん、なんとかしてーんだけどなー」
「ためせることはぜんぶやったわ……あとはとりちゃんがじぶんでなんとかしてくれるのをまつしかない」
「そうはいってもよ、しんゆうがくるしんでるのになにもできないなんて、やっぱくやしい」
「ゆい……そう、そうね。まだ、なにかできることがのこってるかも、しれないわね」
「おっ? なにかいいいけんがあるのか!?」
両手を床について、四つんばいで愛瑠の眼前に迫るが、愛瑠は目を優衣から逸らしてそっけなく告げる。
「ない」
「なーんだ、ないのかー」
ため息をつきながら、上体を起こしあぐらをかいて、純白のカーペットを見る優衣。
「…………」
「ゆかになにかある?」
「なんかいいものでもころがってないかなーっておもったけどない」
「……だよね」
「はぁー……」
優衣はその辺に散らばった本を手にとって開く。
凛の部屋は勉強をしていた影響か、本が縦横無尽に置いてあるために手をどこかに向ければ本に突き当たる惨状である。
「お、このほんは……なぁなぁあいるさん、これみてくれよ」
純白のカーペットに本を広げて置く。
「どうしたのよ、ってこれはあれね」
「おう。ちじょうせかいのほんだ」
「まったくこんなところにおいてるなんて……」
「いや、つっこむばしょはそこじゃないから。ほら、みてくれよ」
愛瑠が前に進みでて、本を眺める。
真っ黒い空に、明るい点々は地上世界の星空のものだ。確かに珍しいものだが、自分を呼ぶまでのものだろうか? と愛瑠は優衣に視線を投げかける。
「これ、さねとやくそくしたときのほんだろ。このほんはたいせつなもんだ」
言われてみればそうだ。地上世界の星が流麗に撮られたこの本を見て、凛たちは核と約束した。
いつか、星空を一緒に見よう、と。
愛瑠は涙を流す。
「な、なんでないてるんだ?」
「かなしくて、くやしくて、ないてる。なんで、わたし、わすれてたんだろう。ゆいは、おぼえてたの?」
「やくそくのことか? おぼえてたぞ! だってさねとのやくそくだからな!」
「でも、そのやくそくはもう、はたせないかもしれないのよ?」
かすれ声になりながら、愛瑠は言う。
神風 核は自分たちの手の届かない地下世界の遥か天井を越えてしまった。だから、もう手を伸ばしても無駄だ。
もう会えない――だけど、凛のことだけはどうにかして元気にしようと愛瑠は数ヶ月頑張ってきたが、優衣は違ったようだった。
優衣は、愛瑠の真実を告げたものに、きょとんとした顔を浮かべたあとに、豪快に言った。
「あえない、なんてそんなことないだろ? あたしたちががんばればきっとあうことだってできる! それに、さねはやくそくはまもるやつだ。あいるさんもしってるはず」
立ち上がり、猛るほどに宣言する!
錆付いていた心を貫くような言葉に、愛瑠は関心した。
この少女はなんて強いのだろう、自分より一歳年下なのに、何の根拠もないような言霊であるのに、どこか希望があるように感じてしまう芯の強さ。
これこそが、美風 優衣という少女なのだと認識を改める。
「かさくんを、しんじてるってこと……か。うん、わたしたちがしんじなきゃ、だれがかさくんをしんじるってかんじよね」
「そうだぜ、あたしたちがしんじないとさねもあたしたちをしんじられないからな!」
「そのとおりよね……さねくんとあったときのためにも、しんゆうとしても、りんをなんとかしましょうか」
頬を叩いて、愛瑠は錆付いていた心の気合を入れ直す。
そして、凛を意思の灯った目で見つめる。
「でも……どうしよう。わたしたちがやってないことなんて……それこそひとつだけよ」
「ひとつ? なにかまだてがあるのか!?」
羨望の眼差しで、見つめてくる優衣に対して愛瑠は誇らしげに胸を張って答える。
「あそこにつれていくの……わたしたちのおもいでがたっぷりつまった、らくえんに……」
「あっ! そうか! らくえんにはつれていってなかったよなー、でもついてくるかな?」
「むりにでもつれていくわ。よっこいせっとゆいはそっちもって」
愛瑠は決めたらすぐに行動に移す。
力の入っていない凛の体を無理やりに立たせて、凛の右腕を首にかける。
優衣もそれに習って、左腕を首にかけて二人で凛を囲む形になる。
こんなことをされているにも関わらず、凛は一言も喋らない。
人形のように、なすがままにされているだけだが、色褪せた、閉ざした心に一筋の光が走っていくのを、感じた。
核の記憶を消した罪を背負った凛でも、まだ誰かが支えてくれている。
体が、動かされる感覚に、凛はやっと外の世界に目を向けた。
「よっこいせ!」
「かりにもおんなのこなんだから、よっこいせ、なんてやめときなさい」
「えーだってこっちのほうがきあいはいるんだ。あいるさんもっとちゃんともって!」
「わ、わかってる! よいしょ、よいしょ……」
汗をかきながら、一生懸命に愛瑠と優衣は凛を運ぶ。
どこか俯瞰で眺めていた灰色の風景が、色鮮やかに浮かびだして、心を柔らかな光が駆け巡る。
(こんな私でも、美風ちゃんとふーかちゃんは支えてくれるんだ……)
嬉しい気持ちと不安な気持ちがせめぎ合って、いても立ってもいられなくなって、話しかける。
「……どう……して?」
久しぶりに喋ろうとしても、喉からは掠れた声しかでないけど、優衣と愛瑠はそれを待ちかねていたように、察知する。
「おっ! やっと喋ったな!」
「トリちゃん? なにが、どうしてなの?」
「……だって……わたし、さねくん、きおく……けした……。なのに、どうしてなにかしてくれるの……?
こんなわたしに、どうして――」
「どうしても何もあるかよ!」
優衣が渾身の叫びをあげる。
畳み掛けるように、言の葉が紡がれる。
「あたしたちはりんのしんゆうだ! だから、たすける! りゆうなんて、ない! さねのきおくけして、りんがくるしんでるのわかるけど!
だけど、そんなりんみたって、さねはうれしくないだろ! だから、えがおにさせる!」
「トリちゃんが、カサくんのきおくをけして、つらいこと、わたしもしってるけど……ゆいのいったとおり、いまのトリちゃんをみたって、カサくんはよろこばないわ
だから……わたしたちで、しんゆうである、あなたをえがおにする。
いつもの、りんにもどってくれることをきっと、カサくんもねがってるとおもうから」
心に暖かく染み渡る、言葉。
「……うっ……うぅ……」
優衣と愛瑠の気持ちに、凛の心を覆いつくす闇が砕けて、光が現れる。
闇が目から涙として、流れ落ちていく……。
嗚咽して、泣く凛に愛瑠は言った。
「トリちゃん、ついたわ。 ここにつれてきたかったの。 わたしたちの、やくそくをかわしたばしょに」
凛は、支えてくれていた二人に感謝しながらも、一人で立って、その場所を見渡す。
縦横無尽に生い茂る色とりどりの花たちが、視界を埋め尽くす。
見渡せば、一つだけぽつんと点在する老朽化した家屋があって、ここがどこであるかを、証明していた。
胸の中を、怒涛のように、記憶が駆け巡る。
「あっ……あぁぁ……っ……」
力なく、凛はその場に崩れて、涙の顔を両手で覆う。
楽園。
核、凛、優衣、愛瑠……四人が数ヶ月だけとはいえ、必死に遊んで過ごした、大切な、場所。
四人で遊んでいたことが思いだされて、奥から底から、涙が溢れる。
駆けっこもした。
鬼ごっこもした。
森林を探索したりもした。
話あって、核と星空を見る約束もした。
浮上する記憶は、なんであれ、自分のしでかしたことの重大さは取り返しのつかないことだと物語っていた。
だから、殻に篭った。屈強で、頑強で、自ら破らない限り壊せない、そんな殻。
でも、誰かがそれを破ろうと必死になってくれていた人がいることは、把握していた、
崩れた凛に、優衣と愛瑠が寄って、包容する。
人肌の温かさに、涙がさらに零れる。
(ここまでしてもらうこと、ないのに……どうして?)
少々前に述べた疑問が、また湧きでてその時にもらった答えが、心の中で帰ってくる。
二人が言っていたのは、さねのことだけじゃない。
こんな自分を、まだ親友と言ってくれていた。
塞いでいた顔をあげて、優衣と愛瑠を交互に見て、一言だけ、必死に搾り出した。
「あり……がとうっ……!」
「ああ」
「うん」
二人とも、笑顔で頷く。
それから、しばらく凛は涙を心にある暗闇を振り払うよう、地面に落とし続けた。
……
「ぐすっ……あ、あはは……みっともないところみせちゃった」
凛は清々しい顔を優衣と愛瑠に向けた。
「きにすんなって、あたしたちしんゆうだし。それにあたしがつらいときにりんはいっしょにいてくれただろ」
「そうよ、わたしがつらいときにだって、いてくれたんだから……なにもきにするひつようないわ」
「……うん、ありがとう」
親友たちの一言に、こくりと頷いてお礼を述べた。
「おれいをいわれることじゃねーよ」
「そうそう。わたしたちはこうしたかったから、しただけなんだから、ね?」
「わかった……」
「なぁなぁ、りん」
元気になったのを確認してか、優衣がうきうきとした発声をする。
「なぁに?」
「さねは、ちじょうせかいにいったけどさ」
地上世界。
聞いただけで、凛の表情が曇りだすが優衣は心配の言葉を投げかけてから、言った。
「そんなくらいかおするなって。さねだってそんなかおのりんはみたくないはず。
でさ、いつか、さねにあたしたちからあいにいこうぜ! どうせ、ちじょうのほしをみようってさねにやくそくされたんだから、こっちからあいにいっておどろかせようぜ!」
「でも、さねくんのきおくは……わたしたちの、ことは……おぼえてないよ」
提案を否定して、未だ残る後悔の念に手を震わす凛に、愛瑠が凛の手に自分の手を添えて、安心させようと撫でて言った。
「おもいだしてもらえば、いいじゃない。もしわたしたちのことをおもいださなくても、ちゃんとした、つぎのきおくをつくるの」
「きおくを……つくる? そんなことができるの? わたしがけしてしまったものでも?」
凛は首を傾げる。
愛瑠はそんな凛に満点の微笑みで告げる。
「けしたものは、ざんねんだけど、もどってこないけれど……それいじょうに、もっとなかよくなるの。
まえいじょうに、もっともーっとなかよくなったら、またほしをみるやくそくだってできるわ」
「それは、わたしたちのしってる、さねくん……なのかな?」
不安そうに言った凛をよそに、優衣は立ち上がって大地を踏みしめながら、手を天井に掲げ、叫ぶ!
「あいつがそうかんたんにかわるわけない! ずーぅっと、あいつがおぼえてなくても! あたしたちとさねはぜったいにしんゆうだ!
あ、そだ、やくそくしようぜ!」
「「やくそく?」」
凛と愛瑠が異口同音で問い返すと、優衣はこの場に咲く花たちのように、爛漫な笑顔を二人に向ける。
「そう! さねとぜったいにまたあおうってやくそく!」
唐突に宣言されたことに、愛瑠と凛はきょとんとしてから、笑いだした。
「あ、あはは、みかぜちゃんそれって」
「ふふっ。カサくんもいれてやるものよね、ふつう」
「あ、そっか……うーん、じゃあ! あたしたちがぜったいにまたさねとあうやくそく!」
「あんまりかわってないきがするけど……」
「そうね。でも……とってもいいとおもう」
賛成するように愛瑠が立ち上がって、それを見た凛もまた二本の足で立つ。
それを見て、優衣は満足したように頷いてから、愛瑠と凛の間に手を差しだす。
「それじゃあ、やくそくしようぜ、やくそく」
「ゆびきりげんまんじゃないの?」
「それだとさんにんでできねーだろ! だから、あたしのてに、てをかさねるんだ!」
「こう?」
優衣の手に、凛の手のひらが重ねられ、そこに愛瑠の手も連なる。
「よーしそれじゃあ……どうしましょうか?」
「あいるさん。こういうときは、いきおいだぜ!」
「あ、ゆいがやるんじゃないのね……」
「きょうばっかりはとしうえのあいるさんにゆずる! あたしたちのやくそくが、さねにきこえるくらい、おおごえだしてくれよな!」
「そう? カサくんにきこえるくらい……頑張るわ。それじゃあ……」
思いっきり息を吸って、愛瑠たちは地下世界の天井を貫いて、地上世界に聞こえるくらい、大きく声を響かせる!
どこかにいるであろう、親友の神風 核に聞こえるように!
「ぜったいに! カサくんにあいにいくぞー!」
三人が勢いを合わせて、弾けるように、手を天井に掲げる。
「おー!」
「よっしゃー!」
「おー!」
「もっとおおきくー!」
「おー!」
「おー!」
「おーしかいってねーじゃねーか!」
「だってこれいがいなにいったらいいか」
「わたしもこれいじょうなにをいえばいいか、わからない」
「ほら、もっとこう、ほかにあるだろ!?」
「そうかしら……? ま、いいじゃない。きっとわたしたちのさけびはとどいたわ。 さ、トリちゃんひさしぶりにあそびましょ」
愛瑠が、凛の手を連れて歩きだす。
凛は、突然のことに躓きながらも、あとをついていく。
「あ、ちょっとまって! あたしもいく!」
咲き乱れる花を踏みしめて、優衣も駆ける。
三人は時には笑いあって、時には怒って……飽くことなく前進し続ける。
ここは、楽園。
三人の少女たちが、一人の男の子と再開を誓い合った、得がたい思い出が詰まっている場所だった。
……
地下世界で交わした核との再開は、ずっと彼女たちの心に、かけがえのない宝の記憶として、深く残ることになる。
しかし、凛にこれが、重い影を落としていたことを、優衣も愛瑠も気づかない。
凛にとって、核と出会うことは元に戻ることであることと未だ変わらない。
いまは、行き止まりにある壁がなくなっているけれど、その先に道もない、そんな状態。
愛瑠と優衣はなくなった壁の先に道を作ろうとしている。それが、核と新しく思い出を得るということだ。
反対に凛は、欠けた道の先を作るのではなく、欠けた道を元に戻し、大きな壁を再び作ろうとしている。
どう足掻こうとも、突き進むことのできない巨大な壁を作りたがっている。
凛は停滞を望む。
誰かが欠けた道を望みはしないが、誰も欠けない行き止まりを強く、望むようになっていた。
変化する日常に心が耐え切れないなら、変化しない日常のほうが何倍もマシだった。
それゆえに、凛は不安定な立ち位置に居続けることになった。
彗の命令には従わなければいけない。しかし、核を殺すことは、看過できない……そんな矛盾が、凛を縛り続けることになる。
約束から数年後に凛たちは観測者として、地上にあがって核と再開するが、それからさらに半年後には、ブラックボックスが自らの意思で時間遡行を禁止、使用できないようにした。
何が原因でそうなったかは、誰も理解できないし説明もできない。もしかしたら、ブラックボックスは核を通じて外の世界を見て、時間遡行がおかしいことなのだと判断したのかもしれない。
しかし、それでは地下帝国は衰退する一方だ。時間遡行がなければ日本からの援助も得られない。
だから、ブラックボックスと直接連結していて、尚且つ、核を殺せば意図的に時間遡行を起こせることに目をつけた、彗は凛たちに命じた。
核を殺すことを。
それが例えブラックボックスの意思に反することであろうとも継続する。
時間遡行は大切な資源であり、生きるための術である。
だから、無理やりにでも時間を遡行し続けた。
何度も、何度も。命令が繰り返されるたびに、凛たちの精神は磨り減り、そしていつしかブラックボックスが数十年前のように、エネルギー不足で暴走し、それを止めるために、観測者としての能力がもっとも高い、娘の――凛の命を犠牲にして彗は地下世界を存続させることを選んだ。
そうして、凛を殺してブラックボックスのエネルギーが戻り、暴走状態を脱却し、全てが終わった。
核はこれからも、時間遡行のために殺されるただの人形である。
それが、この世界のいまの真実だった。
……
ふと、長い夢を見ていた時のように意識が朦朧とする。
億劫になる目を見開いた途端、視界から溢れでるまでに多い花たちと対面して体中の器官が意思をもったように活性化する。
鼻腔をくすぐる花たちの甘ったるい匂いに、視界の端で抜けるような青空が続いていた。
「ああ……そうか。こういう、ことだったんだな……。俺は作られたもので、人間じゃあなくて。
その事実を知っていてもなお、凛と優衣と愛瑠さんはずっと俺を親友と言い続けていてくれてたんだな……」
なにもかも思いだした。
地下に囚われた時、凛の死によって、解放されたブラックボックスのエネルギー……そこから得た記憶があった。
でも、それはいつでも引き出せるものではなく、断片的なもので、一々棚を開けなければ判断のつかないような記憶ばかりだった。
しかし、これで小さい頃のことも、高校一年生の頃のことも……俺がいない初代観測者たちの物語も全部。全てを見て真に理解した。
凛たちが、兎風 彗に告げられた、俺が人間ではないという一言は子供ながらに、強烈なものだっただろう。
それでも、俺と変わらず遊んで、変わらず泣いて、笑ってくれて……。
なんて、良い親友たちなのだろう。
浮上した記憶に感慨していると、目の前に大きな扉が顕現した。
光を身に纏った真っ白な扉だ。
瞬間的に扉がここに現れた意味を理解することを空間に促された。
「この扉はきっと時間遡行するための扉、そうなんだよな。ブラックボックス?」
空間に問いかける。
前へ行けと示すように、疾風のような風が吹きつけ髪が乱れる。
「あんまり長居するなってことか……記憶、見せてくれて、ありがとう、ブラックボックス――いや、お父さんかお母さんかわからないけど、俺の両親、俺を生みだしてくれて、ありがとう。
そのおかげで、色々な人に出会えて、凛、優衣、愛瑠さんとも親友になれた」
光を身に纏う扉のノブに手をかけて、押し開いて、先ほどとは違ってくすんでいく空を、大地を見上げる。
エネルギーが尽きようとしているんだ、ブラックボックスの……だから、この空間すらも闇が侵食する。
この時間遡行はただの時間遡行じゃない。
ブラックボックスの時間遡行には元来、物質を遡行させないという法則があって、だから外国ではオイルショックが日本で二回起きているとか書かれたりしていた。
ただし、物質を遡行させない、というだけでは、混乱が起きるから世界中に散らばる物を取捨選択して遡行させる。
つまり、遡行させるものを遡行した先の世界で混乱が起きないように選抜して意図的にエネルギー消費を抑えるというものなのだ。
だから、その枷を外せば、すべてが元通りになる。ただし、その際に使用されるエネルギーはとてつもないことになる。
いま、この世界ではまだ凛は死人だ。
凛は観測者だから、死んでも世界に混乱が起きると察知されないイレギュラー……。
だからしっかり生き返らすために、外側の枠組みから内側の枠組みに、ブラックボックスの枷を外して舞い戻らせる。
時間遡行。
これは死人を蘇らせるようなただのエゴで行われるもの……でも、俺は記憶を取り戻してさらに親友が全員笑って暮らせるようにしたいと願う。
例えそれが身勝手でも世界を元に戻す!
光の扉をくぐれば凛は生き返り、凛が死ぬ以前の始業式直前に戻ることができる。もっと以前に戻れればよかったんだけど、ブラックボックスのエネルギー残量ではどう足掻いても、始業式の直前が限界だった。
でも、戻ったあとも、それで終わりじゃない。
そこから全てを良い方向に導かなければ、また同じ繰り返しになる。
ブラックボックスのエネルギーもこの遡行で完全に底をつくことになるだろう。
俺のエゴで、全てを終わらせてしまうかもしれないという不安はある。数多ある可能性から最悪の結末を引き寄せる事態も在りうることだ。
自己中心的だと誰に罵られようとも、俺は一人の親友のために全てを戻す。
もしかしたら、凛が死ぬまでのたった数日で死の未来から生の未来へ歩みを進めた他人もいたかもしれない。
失敗する未来から、成功する未来への階段を勝ち取った人もいるかもしれない……。
時間遡行するというのは、そういうことだ。数多ある可能性の中から、また選び直すということ……。
誰かを不幸にしてしまう可能性があったとしても、俺は親友を守るために独善的に歩むことしかできない。
だから、次に精一杯、命を賭してでも成功の未来を掴み取る。
良い未来を勝ち取るためにすべきこと。
それは、ブラックボックスから得た記憶の中に、最初の観測者に選ばれた人たちの記憶があった。彼らは事象の流れに抗って、抗っても最後には、離れ離れになってしまった。
兎風 彗と先生。
この二人をどうにかして引き合わせなければならない。
きっとあの二人が俺がいまから行おうとしていることの鍵だ。
俺がやりたいことは、親の命令に逆らえず停滞を望む凛を救う――いや、親友として、目を覚まさせることだ。
そしてもう一つ、兎風 彗と先生を会わせて、地下帝国をどうにかしてもらう。
俺には、地下帝国をどうにもすることができない、きっと兎風 彗も俺の言葉なんて聞きもしないだろう……だから、最初に戻ってやることは、先生を説得することだ。
凛に対して最初からあたりにいっても、避けられる。だから、まずは外堀を埋める。
それから……谷風を俺と関わらせないようにする。
「絶対に、今度は誰も死なせない……誰もが思い描くハッピーエンドなんてできないだろうけど……実現できるだけ、やってみせる。
ブラックボックス、ここまで導いてくれて、ありがとう! いってきます!」
両親である、ブラックボックスに頭を下げてから振り返り、扉の奥――光の瞬きが支配する世界へ一歩踏みだした。
外の空間は既に闇に侵食され終わった頃だろうに、ブラックボックス自身もエネルギーがないことは苦痛のはず。
でも風がどこまでも、心を、体を押し上げてくれる。
いこう。
あの始業式に、始まりと終わりの可能性が同居している朝に。
last episode:Like the wind 第11話「終わりの軌跡」 オワリ
第12話「風のように 前編」へ続く
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