第49話 N.C.E. 最深層
「後少しです、ケンイチ。いよいよ最深層に来ました」
辺りのフィールドが変わった。そこはまるでどこかの道場のようだった。広さは小さな体育館程だろうか。誰もいないその空間のど真ん中正面、何者かが立ち尽くす影が見えた。
Jが両手のひらを見せながら円を描いたり、何かを素早く叩くような動作をしたりしながら話しかける。
「最深層。ケンイチも知っているかもしれませんがその相手は……」
それは背丈こそ壱より僅かに大きい位の人影だった。その者がすっと立ち上がると、こちらに歩いてきた。それは歩いているはずなのに、普通の人が走るより早い。その違和感がより一層不気味に思えた。歩くたびに、がちゃん、がちゃん、という鈍い音が響く。
「J! 言わなくていいから、早く対策をしろ! やられるぞ」
「はい、僕は話しながらもパフォーマンスは落ちないので大丈夫です。最深層のセキュリティプログラムはご存知『Benkei:
そんな話の最中、すでにバトルは始まっていた。
ずんずんと近寄るその影は、頭全部と首元を白い袈裟でくるみ、全身を甲冑で纏う。右手には大きな
目にも留まらぬ速さで壱の頭上目がけて、縦に振りかざされる
体を90度回転し、かろうじてそれをよける。
今までのセキュリティプログラムと、速度が桁違いだった。壱はその動き一つ一つを避けるのが精一杯、まさに防戦一方だった。
「J、まずい。勝てる気がしない、やられるのも時間の問題だ。何とかしてくれ」
「ケンイチ。こちらにも手はあります。これでどうでしょう」
Jがスクリーンの中でおにぎりを握るような仕草をした。
するとフィールドに変化が訪れた。
壱が2人、4人、8人、気付けば60人程に分身した。そしてBenkei:
「今、壱のダミーアカウントをばら撒きました。これで時間を稼げるはずです」
「助かる、J」
Benkei:
数人の壱が、Benkei:
再び、壱の分身達はぴょんと跳ねて、Benkei:
その時だった。
Benkei:
するとその手からまばゆい光が放たれ、一瞬目が眩んだ。
その白い世界が消え、元に戻ると、壱の分身は全て消えていた。
「J!? ダミーアカウントが消えた!」
「そのようですね、前のバージョンではそのようなことはなかったのですが、バージョンアップしたようです」
がちゃん、がちゃんと甲冑を鳴らしながら、壱の元へ歩み寄るBenkei:
その表情をみると、白い袈裟に囲まれた猛々しい仮面が赤く燃え上がっていた。
「解説はいいから、早くフォームを見つけろ!」
Benkei:
……よし、こうなったら……
壱は徐々に相手の行動パターンを読みつつあった。繰り返される上からの攻撃の後、Benkei:
直後、
「どうだ! これで武器は無くなったぜ」
Benkei:
腰を落とし、そのリズムをとる様な構え。そのまま次の瞬間には壱に飛びかかっていた。
その右フック、左ストレート、繰り出されるパンチの全てを
「おい、こいつさっきより動きが早くなってる……」
「はい、
先ほどの5割増しのスピードで繰り出されるパンチとキック。それを必死で耐える壱。これでは攻撃どころではない。反撃のチャンスを見出そうと距離を置こうとするが、ただちに零によりその距離は詰められる。下手にジャンプしてしまうと、着地を狙われるのがオチだ。
打つ手なし——このままではやられるのは時間の問題だ。
「ねえ、ちょっといい!?」
そんな時、思いも寄らぬ声が道場に響き渡った。
02:15:05
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