第16話 王者の自信

 そう言って現れた男は3人の間を割って入りだした。


「おい、変なのが来たぜ。みんな行こうぜ」

 そう言って3人は教室を出て行った。

 

 声の主である竜也は、研一の横に来ると、その肩をぽんと叩いた。


「もう行ったぜ。起きろよ」

 研一は頭全体を伏せたまま答えた。

「寝てねーし」


 竜也は研一の前の机の上に座り、足を組んだ。長い脚がすらりとうつくしい造形美を作り出した。そして近くに人がいないことを確認する。


「あーあ、口がむずむずする。早く言いたい、言いたいってな」

「何を?」

「お前の正体をだよ」


 研一は少し顔を上げると、鋭く竜也を睨みつけた。それからまた顔を埋める。

 竜也は遠くを見つめたまま続けた。

「オルタナでのお前だったら、あんなやつら瞬殺なのにな」

「うるせーな、黙ってろ」

 竜也は一つ吹き出すと、研一を見た。


「そういえば実はさ、俺もオルタナクレスト参加してたんだぜ。2回戦で負けちまったけど」


 研一は聞いているのかいないのか、わからない様子で額を机につけていた。


「それも笑えるぜ、相手はスライムみたいなしょぼいやつでさ、俺が2回攻撃したら倒せるくらいの力はあったのによ? よりによって相手の『めつぶし』攻撃くらっちまってさ、それから一発も攻撃できなくなっちまったんだ。制限時間60分間かけてそのスライム、ちくちく俺に攻撃してくるんだぜ、その間俺なんもできなくて結局最後どうなったと思う? 時間切れで二人とも失格、笑えるだろ?」


 研一は微動だにしなかった。それを見て竜也は少し時間をあけた。それからゆっくりと諭すように研一に語りかける。


「今月号の『電脳』見たか? オルタナクレスト特集だったんだけどよ、面白い事が書いてあったぜ。優勝者の『壱』ってゆうやつ、決勝戦でコマンダー使ってその反動でギースを倒したのは知ってるよな? でもな、あの反動の動きは専門家が見ると、どうもおかしいんだって。ただ岩にぶつかっただけじゃ、あーも勢い良くギースの急所に向かえるはずが無いって。どうもあのぶつかった岩には何者かが、事前にスプリングプログラムを仕込んでいた可能性があるって、もちろん違法だけどな。

 するとだ、その何者かは事前に決勝戦がどのフィールドを使用されるかハッキングか何かで掴んでいて、しかもその一部の岩のプログラムをばれないようにスプリングプログラムを埋め込んでいたんじゃないかって。大会が始まる前にだぜ、すごくねーか?

 だがな、クレストじゃそんな裏技、日常茶飯事だって。ギースが負けた本当の理由は、審査員が審議している最中に、その事実を見抜けなかった点にある、だとよ。クレストの戦いは、開会前からもう始まっていたのだ、だって。どう思う? 松屋 研一さん?」


 まるで全く耳を貸さないようにじっとしている研一の後頭部に、一頻り語り終えると、竜也はいつもの伺う表情で研一の顔を覗き込もうとした。そして優しく語りかける。


「お前は本当にすげーよ。お前は真の実力で、クレストの世界一になったんだ。この世で世界一になれる人って後にも先にもそんなにいないんだぜ、もっと自信を持て。この前誰かが言ってた、勇気と自信がないと大事な人を守れないって」


 研一はすかさず顔を埋めたまま反論した。

「お前はまず誰か一人、大事な人を決めろ」

 はははは、と竜也は空を仰いで笑った。

「俺にとって、この世の全ての女性が大事な人だからな、守る人がたくさんで大変なんだよ」

 廊下を歩いていた数人の女子達が、竜也をみて、きゃーと声をあげた。

 竜也はそれをみて、敬礼の合図に口笛を、ひゅーとふいてウインクをした。それを見た女子達はさらに黄色い声をあげていた。


「そういえばお前、雪ちゃんと結構良い感じらしいな、ちゃっかりしてるな。もう付き合ってるのか?」

 反射的に顔を上げると、研一は竜也に不満と怒りの表情をぶつけた。

「は? そんなんじゃねーよ」


 ふーん、竜也はそう言って細かく何度かうなずきながら納得のいかない表情を浮かべた。


「そうですか。結構お似合いだと思うけどな、お前ら。もし雪ちゃんと付き合えたら、あいつら見返してやれるぜ」

 そう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「だからそんなんじゃねーって」

「ま、うまくいくことを願ってるよ、じゃあな!」


 そう言って、竜也は廊下で待っていた女子達の元へ行くと楽しそうに会話をし始めた。

 研一は机にうずくまりながら、先程こちらに手を振っていた雪の姿を思い浮かべていた。


 ——結構お似合いだと思うけどな、お前ら——


 そしてその竜也の言葉を頭の中で反芻していた。


99:99:99

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