第15話 眠れる獅子
昼休み。
ここ星城学園も、通常の高校と同じく様々な時間の過ごし方を各々がしていた。特に友達もなく、趣味もなかった研一は、教室の隅で誰にも邪魔されずに本を読むのが日常だった。
教室の真ん中に集まる3人の男。1人はひょろっと細長い色白の肌、もう1人は太ったニキビ顔。そして中心に居座る1人は、小柄だがシャツのボタンはだらしなく外し、机の上に足を乗せていた。そして、教室全体に聞こえる派手な口調でこう喋っていた。
「この前よ、オルタナやっててさ、強制ログアウトまで待ってみたらよ、ウケたぜ。なんか、『ただちにログアウトしてください、してください』とか言っちゃってよ、あれおもしれーな」
ひょろ長の男は顔を白くさせながら答えた。
「お前、強制ログアウトしたのか? 危ねーぞ、もしクラッシュだったら死んでるぞ」
「お前ビビりだな、大丈夫だって。少しびりびり、ってきただけだからよ。お前もやってみろよ」
強制ログアウト。ログイン時間が24時間に迫ると「脳に障害が残る可能性があります」と一応警告は出るが、実際にそんなことは起きないことはみんな知っている。とある状況を除いては。
太ったにきび顔が窓の外に何かを見つけた。
「あれ雪ちゃんじゃね? 4組の加藤 雪。めっちゃ可愛い」
3人が窓に駆け寄り、3階の教室から見下ろすと、中庭では雪が数人の女子達と制服姿でバレーボールをやっていた。そしてその一つボレーをする度に、チェックのスカートがちらちらと揺れた。それを3人の男はまじまじと見つめる。
研一も別の窓からぼーっとその様子を見ていた。
何度かラリーが続いた後、雪の手に当たったボールが勢い良く、雪の顔面を直撃、それから尻餅をついて、しばらくしかめていた顔を、にこっと笑顔に変える。そして一つ、舌をぺろっとだした。
それを見て3人の男は鼻の下を伸ばした。
そしてひょろ長の男は思わず呟く。
「うわー、めっちゃ可愛い。やっぱ加藤雪って、芸能人のエリカちゃんに似てるよな」
そのときだった。雪が右手を額に当て、遠くを覗くポーズをした。そして口をすぼめこっちをみる。
それから満面の笑みを浮かべると、大きく両手で手を振ってきたのだった。
研一はそれを見た瞬間、急いで、窓から逃げ出し、机の上に顔を埋めた。
「あ、雪ちゃん、こっちに手振ってる。おーい」
3人の男達は皆、手を振り返していた。
太ったにきび顔がひそひそ話しを始めた。
「そういえばこの前、加藤雪ちゃんと松屋が一緒に歩いてるところ目撃されたんだって」
小柄男は嫌悪感たっぷりの表情で机に顔を埋める研一を睨みつけた。
「は? 何であんなしょぼいやつと? 意味わかんねーし」
そう研一に聞こえても良いようなボリュームで呟いた。
そして、そのまま持っていた消しゴムをちぎると、顔面を伏せた研一の頭に当て始めた。
太ったにきび顔が不安そうな表情でささやく。
「おい、やめろって、さすがにかわいそうだろ」
「いいんだよ。寝てんだろ、どうせ。起こしてやってんだよ、いつも寝坊してんだからよ」
そういって、何回もちぎった消しゴムを研一の頭に当てた。数個の消しゴムのかけらが研一の刈り上げ頭に挟まった。
研一は分かっていたが、あたかもそれを知らないふりをしていた。
その時だった。
どこからともなく、気取ったような、明るい声色がその空間に鳴り響く。
「おーい、お前ら。ちょっとそこ通してくんねーかな?」
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