第3話 世界頂上決戦

「おーまーたーせーしました、ついにやってきましたこの日が! 司会を務める、ミスター・ハンです、どうぞよろしく〜!」


「こちらは、解説のミスター・マイク。みんな知ってるよね!?」


 とびきり明るい声の出所は、そのフィールドのはるか上。その世界を見下ろせる場所にある「観覧席」からだった。ミスター・ハンと浮かび上がった文字の前には丸い緑の球体に短い手足と正面には3つの目がついた生き物。隣にいた全身銀メッキの人型ロボットの前にはミスター・マイクという文字が揺れていた。

 ハン、という名のついた緑の球体はそのひょうきんな見た目とは裏腹に、ハスキーな低い声で続けた。


「さあいよいよ開始2分前となりました。4年に一度の祭典、全世界のオルタナユーザーの頂点を決める戦い『オルタナクレスト』の決勝戦。オルタナという仮想現実世界でのオリンピックと称されるこの戦い、今夜5億人が見守る中、オルタナ上の格闘技の王者が決まります。さあ、ミスターマイク、見どころはいかがですか?」


 銀メッキの人型ロボット。それはそのカクカクとした動きを少しさせてから、マイクをぎこちなく掴んだ。そして甲高い声を上げる。


「はい、まずは優勝候補の一人、伝説の猛獣『ベヒモス』をイメージしたドイツ代表ギース。なんとここまで1セットも取られていません! このまま優勝を勝ち取るか?」

 

 そう瞬間的に興奮度をMAXまで上げたミスター・マイクは頭から、シュー、という蒸気を発した。しばらく話ができる状態ではなくなったマイクを置いて、緑の球体、ハンは渋い声を響かせた。


「一方対するは、日本代表『いち』。突如彗星のごとく現れたサムライ! まさにダークホース、準決勝では第一優勝候補であるデンマークのスキッドを延長戦の末、破りました。勢いに乗って巨大な敵、ギースを打ち負かすことができるのか? ミスターマイク、決勝戦はどんな戦いになるでしょうか?」


 突如頭の蒸気を止め、ミスターマイクはメタリックな雰囲気を漂わせた2つの目をフィールドに向けた。


「はい、ギースは何と言ってもまずそのずば抜けた力と耐久性でしょう。準決勝までは、対戦相手はギースに触れることすら許されませんでした。それもそのはず、チートプログラムをメタメタに貼り付けてますから。これ一体いくらかかってるんでしょうね? ちなみに全容量は、えーっと……なんと6480Ted! 小国で使われるオルタナ全容量と同等量のプログラムを使ってます。こんなのに勝てる者がいるのでしょうか。

 一方対するは軽装さむらいに分類される『壱』。日本では『袴姿』という名で呼ばれ、モスグリーンの上着に、下は足元まで隠れるまるでスカートのような黒の着物。伝統的な服装だそうです。彼の使用している容量は軽装な見た目からある程度想像はつくかもしれませんが、な、なんと、たったの210Ted! 今回のクレストプレイヤー、6万人の平均容量が1250Tedといわれており、ベスト8に入るのは2000Ted超えが常識と言われる中、よくぞここまで節約した容量で決勝戦までこぎつけました。

 『壱』の能力は全くの未知数です。ですが、そこが最大の強みと言えます。どんな攻撃を仕掛けてくるのか、全く予想できません」


 ミスター・マイクがぴょん、ぴょん、と短い四肢をばたばたさせながら飛び上がった。


「さあ、泣いても笑ってもこれが最後。両者全力を尽くして戦ってください!」


 フィールドに佇む紫の怪物、ギースはブルルル、と鼻息を吐いてから、嘲笑った。

「この日本人の猿め。ドイツ代表の名にかけて、お前なんか一瞬で食い尽くしてくれるわ」

「……」


 『壱』は視線を落としたまま。目までかかった揺れる前髪は、サラサラと音を立てる。そして風が吹くたびに、モスグリーンの「袴姿」はパタパタと揺れた。

 ゆっくりと両手で持っていた刀を立て、自分の耳元のあたりに添える。その無駄のない、洗練された「静」の構えは、「動」である猛獣と大嵐の中、異彩を放っていた。

 

 こうしてオルタナ上の世界一を決める大会、オルタナクレストの決勝戦が始まった。

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