孤高の侍「壱」

第2話 仮想現実世界:オルタナ

 風が吹く、空は重たい。


 風のやいばは勢い良く吹き抜ける。すると、細長く茶色い岩山はその隙間から、ピュー、と笛のような音をだす。昔の人々はこれを、目に見えない怪物の叫び声だと言った。


 一しきり叫び声をあげたその刃は、辺り一面を埋め尽くしている砂埃を巻きあげ、やがて小さな竜巻を作り上げた。後ろから聞こえる、ピュー、という金切声と合わせれば、もうすでにそれは一つの怪物だった。


 やがてその小さな竜巻が、崩れ出し、舞い上がった塵達がいなくなると、その奥から一つの大きな影がうっすらと姿を表した。


 大きさは、大型バスほどだろうか。その影が一つ呼吸する度に、辺りの砂塵を吹き飛ばしたため、その周りからほとんど砂は消えていた。


 一つの足踏みの度、地面が揺れる。

 体勢を変えるために少し向きを変えただけ。それなのに大きな尻尾が横の岩山をなぎ払った。

 すると、瞬く間にその岩山は粉々に砕け散り、もともと何であったか分からなくなった。

 ブルルルル、と吐く鼻息はお前を一瞬で食べることができるぞ、という意思表示にも見えた。

 徐々に姿を現し出したその影は、二本の大きな牙と頭の真ん中から突き出た鋭いツノ。ぱっくり開けたその口は、何十人かを一度に飲み込めるくらい大きい。

 4本足で地面に這う紫色のその影は、太古の恐竜を思わせる重量感だった。


 そして一つ、グオオオオオオオ、と雄叫びをあげる。


 地面、空気、全てが揺れた、大きく。

 茶色い岩山がいくつも崩れて割れた。

 思いっきり雄叫びを上げてから、再びブルルルと鼻息を吐き出す紫の怪物。

 その鋭く、不気味に光るその目で、怪物は一点を見つめた。


 その先には、一人の人間。


 砂埃に巻かれているせいか、表情、その姿はよく見えない。

 ただうつむくその人影は、先ほどからの怪物の迫力にびくともしていなかった。まるで違う次元で息をしているかのように。 


 怪物はまさにその小さな塊を「食おう」としていた。


 すると突如、世界に場違いなほどの明るい声が響き渡る。

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