第58話 オルタナ後の世界

『しばらくお待ちください』


 男はゆっくりと斜め後ろを振り返った。そこには、大型テレビサイズの一つのスクリーンがある。そこには一人の金髪の、あどけなさの残る少年が映し出されていた。


「なあ、J。知ってたか」


 モニターの少年は答えた。


「何がですか?」

「これだよ。こんな世界があるってこと」


 Jと呼ばれた少年は少し考えてから、音声を発した。


「昔、テレビといったデバイスが緊急停止したときに、一時凌ぎのこういった画面が表示されるという事は聞いた事があります。ですが、実際に体験するのはもちろん初めてです」


 その言葉を聞いているのかどうかも分からない表情で、男は遠くを見つめていた。


 ——天国、ね。面白い——


 男は先ほど聞いた女の表現に、少し笑みをこぼした。

「アプリコット社も今頃大慌てだろう。何しろ今まで経験したことのない大事故が起こったんだから。でもいざという時にこんな世界を用意しているところはさすがだ」


 男はまるでその世界を堪能するように、流れ来る風に前髪を揺らした。

 

「さて、ケンイチ。そろそろ話してもらいましょうか」

 研一と呼ばれた男は遠くの沈み行くのか上り来るのかも分からない太陽をみつめたまま、その言葉を聞いていた。

「何を?」

「とぼけないでください。あの絶体絶命の状況、クラッシュ・リミット削減のトリックをどうやって見破って、カオスを実行し、この『オルタナ破壊』をやってのけたのか」


 研一はただただじっと視線を遠くに釘づけたまま、少しだけほんの数分前の事実を思い出そうとしてみていた。

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