3つ目の方法

第42話 3つ目の方法

「それでは3つ目の方法を説明します」


 タイムリミットのデジタル時計は6時間と50分、34秒を表示していた。泣いても笑ってもそれまでに脱出しなければ、研一と雪の命は終わる。 

 唯一の希望である脱出方法は残り一つ。これが絶たれれば望みはない。

 そのことを十分認識していた研一と雪はじっとそのJの言葉を待った。

 しかしこの後、Jから発せられたその3つ目の方法は2人の想像を絶する、驚愕の方法だった。


「3つ目の方法、簡単に言いいます。このオルタナを破壊します」


 まず飛び上がりそうな声をあげたのは雪だった。


「破壊? どういうこと? J君」

「わかりやすく言えば、再起動、でしょうか。一旦オルタナの全ての機能を停止させます。そうすればこのオルタナクラッシュともおさらばです。何も無かったことに出来るんです」

 この死神も、この灰色の空間も、この悪夢も全て。そう付け加えた。


 そのあまりにも現実離れした答えに、2人の頭にはクエスションマークで一杯になった。


「やりたいことは分かる。だがな、そもそもそんなことしたら、趣味で遊んでいる連中はまだしも、世界中のオルタナに依存した、例えば医療現場なんかはどうするんだ? 遠隔手術や、生命維持装置をオルタナに頼っている人は世界中に沢山いるんだぜ?」

「それも承知の上です」

 でも大丈夫、そう付け加えると、Jは続けた。


「通常オルタナのデータは最長5秒以内に一度バックアップされます。また、オルタナに依存した医療現場などは非常時に備え補助プログラムを兼ね備えていますから、少なくとも数時間は乗り切れます。その間にオルタナは復旧するでしょう」


 確かに。そんな事を言っている場合ではない、そのことは研一も承知していた。しかしここからが大事な事だった。当たり前な質問を研一はJにぶつけた。


「で、そもそも可能なのか? オルタナをぶっ壊すだなんて。そんなことが簡単に出来てしまったら、世界5億人のオルタナユーザーがひっくり返るぜ?」

「はい、当然ですが僕もまだ一度も試したことはありません。ですが、この方法しかありません」


 研一はJの心の奥を見ようとした。その鋭い瞳で、Jという宇宙のような頭脳の中身を覗き込んだ。


「出来るんだな」

「はい、とあるプログラムを使えば。そのプログラムの名は『カオス』」


 カオス。その響きはまるで世界を変える合言葉のように、研一の頭の中をかき混ぜた。一瞬にして、研一の心臓がばくばくと音を発し始めた。それに合わせるようにサイコメーターは茹で上がったタコのように赤く燃え上がり、鼓動が速くなった。

 聞き間違いではないかと思った研一は、念のために確認をすることにした。


「J、今何て言った?」

「プロラムの名は『カオス』です」

「え? 研一、知ってるの? その『かおす』って」


 研一は、呆れたような笑顔を浮かべ、はぁ、と息を漏らした。


「あぁ、知ってるも何も。オルタナやり込んでいる連中に知らない奴はいない。伝説のプログラムだ。まさかお前、本当に『カオス』を完成させたって言うのか?」


 雪の頭がこんがらがってきた。うさぎ耳がぴん、とたちうずうず言いだすと、両手に作られた拳が震え始めた。


「もう、2人だけで話進めないでよ! 何? その伝説のプログラムって」


 研一はJを見つめたまま、ゆっくりと口を開き始めた。


「そうだな、俺に説明させてくれ。『カオス』の話をするにはまずとあるハッカーの話から始めないといけない」


 そう前置きをしてから、研一の口から幻のプログラム「カオス」、その封じられし伝説が語られ始めた。


06:34:09

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