第33話 招かれざる客
「助かる方法は3つあります」
その意外な言葉に2人はあっけにとられた。
「本当に? じゃあ私たち助かるの?」
やったー、わーい、と喜ぶ雪。一方、研一だけはそう簡単には騙されないぞ、といった形相で、ただじっとその先の言葉を待っていた。
「脱出方法をお話する前に……もう1人の人物を起こさないといけないようですね」
「もう1人?」
「そうです。……ほら、ウルフ。そろそろ寝たふりは止めてください。もう全部お見通しですよ」
研一と雪は目を合わせた。
そしてゆっくりと、研一は背後にいた「オオカミ」に目をやった。
「おいJ、ウルフってこいつのことか?」
「そうです。彼はずっとあなたたちの事をつけていて、あわよくば何か盗ろうとしていた、どうしようもない『ぬすっと』です」
それでもオオカミは動かなかった。
しかししばらくすると、その目がパッチリと開いた。
それと同時に雪の目もパッチリと開いた。
「あ、オオカミの目が開いた!」
それから低いガラガラ声で、その「ウルフ」と呼ばれたオオカミは口を開いた。
「見つかっちまったんならしょうがねぇ」
研一は思わず驚きと怒りに声を震わせた。
「お前、俺らのプログラムに侵入してたのか? いつからだ?」
「そんなに、あんたらがログインして、いちゃいちゃしてた時からずっとだよ。あぁ、もうちょっとでお前さんのレアアクセサリーをいただいて、高く売れるところだったのによ」
変な違和感はスティールバグだけでなく、こんなやつも自分のプログラムを狙っていたことにも原因があったことに、今更ながら研一は気づいた。
「おいJ、もしかしてこいつが原因で俺らはこんなクラッシュに捕まったのか?」
Jは首を振った。
「いえ、このウルフはチンピラです。こいつにこんな大それたことをする能力はありません。クラッシュを抜け出した後にでもオルタナポリスにでも連れて行って、永久追放してやりましょう。それより……」
Jは一つニヤリと笑みを浮かべた。
「こいつのお陰で、僕たちはアドバンテージがあるんです。今回はうまく利用することができます」
「利用?」
Jは光り輝く、その平らなそのスクリーンの中で大きく頷いた。
「はい、ではそろそろ1つめの脱出方法の説明をいたしましょう」
その淡々と論理的に事実のみを話す話し方はJ独特のものだった。小顔でまだあどけなさの残るJの表情。しかしその言葉一つ一つは的確で無駄がない。そしてその論理的な話し振りは、聞く人を思わず惹きつける魔法のような威力を持っていた。
こうして招かれざる客「ウルフ」を含めた3人は1つ目の脱出方法の説明に耳を傾けたのだった。
13:09:04
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