第29話 蜘蛛の糸は敵か味方か?

『You got mail! ケンイチさん、メールがトドキマシタ。ケンイチさん、メールがトドキマシタ』


 その音声とともに、研一の前に画用紙一枚ほどのメールのマークが現れた。

 その事実が意味する事は簡単、研一にメールが届いたのだ。

 しかし……


「研一君? どうしたの、メールだよ?」

「うん、分かってる……」


 分かってはいる。ただ、研一はどうしてもそのメールを素直にタッチ出来なかった。


 一体誰が? どうやって?


 今のこの状態では通常の人物がこの空間にメールを送る事は不可能だ。

 オルタナ上の一切の機能を奪われ、外界との連絡を絶たれたこの状態で、一体誰がメールを俺に送ろうって言うんだ?


 まず研一の頭に浮かんだのはこの言葉だった。


 罠。


 こんなことを出来るのは、きっとこのクラッシュの犯人だけだ。

 その何らかの人物が何かの罠をしかけようと、自分にメッセージを見せているのかもしれない。このメールを開いた瞬間、新たな悲劇が繰り広げられ、俺らはさらに絶望の淵に立たされるのかもしれない。

 だとしたら絶対このメールは開けてはいけない。だがしかし……


「研一君?」


 研一は思考を巡らせた。

 本当にそうだろうか?

 俺らを苦しめたいのなら、このまま何もしなくても大丈夫なはずだ。

 十分俺らはクラッシュに捕まっている。これ以上何かすることがあるだろうか?


 そもそも、自分達はこれ以上の何か良い策を持っているだろうか?

 持っていないのなら、このメールを開いて、何らかの解決策であるほうに賭けるしかないのではないか?


 リミットは16時間を切るところだった。


「雪」

 雪は研一を見つめた。

「開けるぞ、いいな?」


 雪は力強く研一を見つめ、一つうなずいた。


 研一がメールにタッチすると、そこからメッセージが目に飛び込んできた。

 ただちに何らかのプログラムが起きる気配はない、研一はゆっくりとその内容に目をやった。


 内容は3行。差出人は「J」という者だった。


 件名:

 内容:お久しぶりです、ケンイチ。

    やっぱり「ナイトメア」のラスト、

    しびれますよね。


 想像とは裏腹に、そのシンプルすぎる内容。

 その3行を研一はじっと睨みつけた。


16:00:25

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