第27話 無情……
研一は改めて今の状況を確認した。
自分と雪の喉元には鎌、そして背後には死神が張り付いている。
どうやら手や足はわずかに動かせるが、移動はとても出来ない。
そして、唯一の頼みの綱であるコマンダーは機能しなくなっており、ほとんどのオルタナの機能が封じられてしまった。
このまま行くと、タイムリミットの時間が来れば自動的に強制ログアウトとなり、その際大量の電流が脳に流れ、ゲームオーバー。それまでに何とか脱出する手段を見つけ出さなければならない。
この状況を打破しようと色々思考を巡らせたが、あまりにも出来る事が少なすぎる。メッセージの発信はおろか、外界との連絡すらとれない。
あらためて研一は壁にかけてある赤い「3つ」のハートを見つめた。
これらサイコメーターは研一達の感情を反映していた。
恐怖や、怒りが強くなるとその色は真紅の色彩を放ち、一方で落胆、絶望の感情が現れると深い青色を呈する。最初はこれを利用して、感情をコントロールするゲームとして開発された「おもちゃ」だった。
——ここで俺たちが恐怖に怯えていく姿を、このサイコメーターの反応を見て楽しんでいるのか……
そう思うとより一層、このクラッシュから抜け出してその誰ともわからないクラッシュの犯人をがっかりさせてやりたい、そう強く思うようになった。
辺りをもう一度見回してみる。
ワンルーム程の広さの灰色で囲まれた空間。鉄格子は傷一つなく、見上げるとそこに天井はなく、遥か上まで無限とも思えるくらいに続いていた。
ふと雪が口を開いた。
「ねえ、研一君。ちょっと気になってたんだけど」
「ん? 何?」
「どうしてこのハート、3つなのかしら。私たち2人でしょ」
確かに。何でこんな簡単なことに気づかなかったのだろうか?
「それってやっぱりあれの分?」
「あれって?」
「ほら、研一の後ろにいるあれ……」
研一は雪の指差す方に目をやった。
そこは研一からは死角となる背後であり、今まで見落としていた場所だった。
部屋の隅、そこにはもう一つ死神がいた。
研一達と同様、黒いヴェールにドクロの笑み、そして漆黒の鎌。
しかしその鎌がかける首は、一匹の「オオカミ」だった。
正確にはオオカミの顔をした獣人とでも言えるだろうか、四肢が茶色で激しく毛深い、まるでオオカミ人間のようだった。
研一はぼそっと呟いた。
「あれが、3人目?」
「うん。でも生き物って感じがしないよ。さっきから全く動かないもん」
たしかに、研一もそう思った
「おい、そこのオオカミ、生きてるか?」
様々な問いかけにもその死神とオオカミは微動だにしなかった。
「何かしら?」
「どうせ、俺らの恐怖心を煽るための飾りかなんかだろう」
どうも変化が起きる兆しがないことを確認すると、二人はその「オオカミ」への興味は次第に薄くなっていった。
出来る事をいくつも探し続けた二人だが、ようやく手詰まりとなってきた。
リミットが17時間を切ろうとしていた頃、徐々に二人の間に諦めの雰囲気が漂い始める。
その時だった。
雪がおもむろに口を開き始めた。
「ねえ、研一君?」
「ん?」
「一つ聞いて良い?」
17:03:44
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