第22話
19時。辺りがやや暗くなってきた頃。博多は集合場所かで待っていた
一応のため、5分前からきているが待ち人来ず。
「…俺、時間間違えたかなぁ」
周りを見渡す。すると1人走ってくるのが見えた。
宇美だ。
1人しかいない。
遠くから走ってくるのが見える。急いでいるようだ。
博多は嫌な想像が頭に浮かんできた。もしかしたら、変な気を使って…。
冷や汗を右手で拭い、すぐにポケットに入っていた携帯を取り出す。電話帳から八幡を選んで通話する。
「あ、もしもし、八幡?おまえさぁ…」
「博多くーん?あ、あー、マジ?もうばれちゃった?」
「ばれちゃった、ってことは昨日4人で行くと決めた段階で2人は来ないつもりだったのな」
昨日、宇美から電話がきた。
「あの…さ、明日、夏祭り、あるでしょ?4人でいかないか…うるさいって、言った。あたしいったからね」
なんだ、電話口にだれかいるのか。博多は嫌な気分になる。俺への電話は罰ゲームか?
小倉からデート?を申し込まれ、選択を突きつけられてから丸3日がたった夜。風呂から上がって休んでいると携帯電話から着信音が鳴り響いた。
なんだ、仲良しだな。もう21時になろうというのに。
「で、誰の発案なんだ?」
「ほら、美奈子がちゃんと話さないからー」
遠賀の声。それに遠くから八幡の声も聞こえる。3人でいるようだ。
博多がいなくてもグループは動き、活動している。しかし、そのグループを優先するとバスケが疎かになる。
《バスケだけに集中力できませんか》
小倉の声が頭で響く。
《すまない、勝てなかった》
試合の次の日。中道が病室に来た際、博多に開口一番に発した言葉。悔しいのは中道を含めた3年のほうだ。バスケが、夢が、終わってしまったのだから。
「ーあれ?博多くん?博多くーん、聞いてる?」
「ん?聞いてる聞いてる。で、その祭りがなんだって?」
「あー、結構大きい祭りじゃん?そこでさ、博多くんも来ないかっていう誘いなわけ」
八幡の声は明るい。
「それ、4人で?」
「…そう4人で。花火とか上がるらしいじゃんよ、見たくない?」
この地域では付近で3回花火大会がある。いわゆる夏祭りだ。県内外から多くの人がくる。帰りの電車の中では満員電車で帰ることになる。
昨年の夏、博多は参加した。
《博多くんってさ、バスケ以外ー》
嫌な記憶ばかりが蘇る。
首を振り、嫌な思い出を頭から飛ばそうとする。
「ーで、参加しない?博多くんも明日治ったって聞いたけど」
「全荷重は確かに許可でたけど…」
俺は行くべきなのだろうか。
《博多くんってさ》
あの時に考えた。どちらも、すべてうまく立ち回ってやると。
なら参加すべきだ。
《バスケだけに集中力できませんか》
《すまない、勝てなかった》
…
「わかった。ただし、病み上がりだから場所選ぶのに何時間も歩くとか無理だからな」
「やりぃ」「やったね美奈子」「あたしは別に…」
それぞれの声が電話口に響く。
「いや、美奈子には知らせてねぇ…。美奈子、博多くんのこと、心配しとってさ、それ俺らみとったから手伝いたくてさ…」
先ほどまで遠くに見えていた宇美がもうそこまできている。
「美奈子のこと、お願いしゃっす、博多くん」
先ほどまでと打って変わって、真剣な声が電話口から響く。
「…」
俺にどうしろというのだ。宇美とうまくいき、付き合い、結婚でもすればいいというのか。
「ごめんね、遅れちゃっ…。アレ?大樹1人?」
宇美も今の状況の異変に気がつく。電話の通話終了ボタンを博多は押した。
「…みたいだね。今八幡に連絡したら来ないって言っててさ」
「結衣もかなぁ。連絡してみるね」
宇美は携帯を取り出し、操作する。博多はため息をついた。
自分で築いたグループ。思い通りになると思っていた。自分が中心となって色々動くと思っていた。しかし、博多が大会中、いや部活中にグループから目を離した隙に、八幡は博多の指示なく勝手に動くようになり、宇美は博多に対して塩らしい態度を取るようになり、遠賀は自己主張するようになった。
「結衣も来ないってさ。何か弟が体調崩して看病するってさ」
最もらしい理由。
博多はこの状況から脱する一言を言うことを決意した。
このままだと、グループの核となっている宇美と博多の関係性が変わってしまい、グループ自体が
変質してしまう。それは博多にとっては避けたい。
「…2人来ないし、どうする?解散する?2人だけでいるとデートみたいだし」
これは拒否してくれ、というサインである。この言葉を肯定し、このまま夏祭り参加することは、つまりデートするということは、お互いにデートと意識する、ということであるので、関係性は変質する。拒否すれば、デートせずここで解散することになれば、関係性は変化しない。
「誰か読んでもいいよ。俺の部活仲間とか。何なら女子も呼んで…」
「大樹は…」
「…ん?」
「大樹は辛くなかった?今まで」
「…」
何が?いつ?
「怪我して、バスケができなくなって」
「つ…」
言葉を止めた。辛かった。しかし、辛かったのはバスケができない期間があったからではない。決勝で勝てなかったことが苦しくて、悔しいのだ。
「あ、あたしは…輝いてるー」
「行こうか」
言葉を遮った。まるで告白シーンだ。ヒロインが宇美。今流れを断たないと告白まで言わせてしまう。そんな想像が博多にこの言葉を言わせた。
「ここ、あまり来たことないから、案内して。宇美」
「う、うん」
戸惑いながらも笑顔を見せる宇美。やめてくれ、そんな表情を見せないでくれ。
こうして、宇美と博多のデートは始まった。
「ねぇちゃん、あれって、博多…さんじゃない?」
「え?あ、ほんとだ。何やって…、女の子と一緒?」
1時間ほど色々見て回った。
宇美は終始笑顔で博多に話しかけてくる。しかしどれもつくり笑いだ。
木陰にベンチがある。そこに2人は休憩する意味合いで座った。2人の距離は体半分の空間が空いている。
「あ、大樹、ゴミ捨ててくる。病み上がりだし、あたしがいくよ」
「そう?ごめんね、お願いしてもいい?今度何かで返すから」
ぼそっと、宇美がつぶやく。しかし、一瞬で笑顔に戻り、「行ってくるね」と出て行った。
花火が打ち上がるまであと30分。
「あれ?博多…くん?」
声をかけてきたのは、浴衣を纏った飯塚会長。その隣には箱崎副会長。
「あ、え、どうも」
今の今まで忘れていた。会長が目の前に出てきて、生徒会に入ったこと、意味を思い出す。
「1人ですか?1人なら一緒に…」
と副会長が言うと、会長は軽く咳払いをし、副会長の方をみる。
「いや、いいでしょう。1人増えても」
箱崎副会長は苦笑する。これはどういう状況なのか、博多は理解できなかった。生徒会でまた行事、夏祭りに参加しているのだろうか。博多抜きで。
また咳払いをする会長。副会長はやれやれという顔をして、すぐにため息を吐いた。
「あ、お構いなく。俺、人待ってるので」
声が思ったよりもスルスルと出た。会長のことが好きだったと思っていた博多は自分の感覚に
驚く。その発言を聞き、副会長の顔色が曇る。
「そ、そうですか。では、私たちは」
と会長は言い、早足で去って行った。
「すみませんね、博多くん」
副会長は頭をさげる。
「いえ、体調でも悪いんですか?」
「…そうですね、おそらくそうだと思います」
歯切れが悪い。デートしているわけではないのか?
「では」
短い言葉を残し、箱崎副会長は去って行った。
2人できていることに驚いたが、それ以上に好きな人だと思っている人が他の男とデートに行っているかもしれない状況をみて、あまり何も感じない自分に対して博多は驚いた。
「お待たせ…、どうしたの大樹」
タイミング良く宇美が帰ってくる。
「いや、自分に驚いただけだよ」
と、意味深な答えを返す博多。特に何も考えず言葉を吐いた。
「んー。で、そろそろ花火スポット確保しないといけないから、移動してもいい?」
「あ、いいけど」
宇美の視線は博多の脚に向いている。
「大丈夫だって。で、どこに行くんだ?」
「えっとね…」
目線を逸らす宇美。
「えっと、少し離れたところにあるんだけど、いいかな」
ここで博多は察した。先ほど脱した告白シーンの続きをするのだと。
少し離れるとなると、今度は回避不可能となる。
「…あまり、脚に負担かけたくないんだよね」
「そ…そうよね。病み上がりだし、無理しちゃいけないよね」
博多は思う。本当に宇美はしおらしくなった。原因は何だろうか。わからない。
「じゃあ、ちかいところdー」
博多の携帯が鳴る。
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