第6話 チュートリアル終了
「……それで、どうだね?」
「地球・日本地区では3番目の地区が1位、次いで8番目の地区が人気となりました」
12の知的生命体が集まる会場。しかし、そこに生身の者は一切いない。アバターに精神を送り込んで操作しているのだ。
その中で中央に位置する地球における一般的なヒト型で美青年のアバターは満足気に頷いた。
「結構。順位はあれど、どのゲームも最近の世界ではなかなかの好スタートではないですか?」
「ですな。ただ、この民族たちの性格ですと最初は物珍しくてもすぐに焦れそうですが……」
「そのために一定数のその国での異端を紛れ込ませているのではないですか」
「8番地区ではその異端が数字を稼いでるようですがね」
「アレは主人公候補に近しい人物ですからね。割と目が行くのですよ」
「いっそ奴をその地区の主人公に据えるのはどうだろうか?」
会議が行われる。人気が出た場所では予算を多く使うことが出来るため、次回案を無数に出し、人気のない場所では限られた予算内で実行できそうな案やこれからの改善策を出していく。
「不要なキャラクターは処分しますか」
「目移りしますからね……10番地区はキャラが立ち過ぎかと」
「数打てば当たるとは言いますがね……減らしましょう?」
「そうですね」
チュートリアルが済まされ、トレードが行われる。戦闘や恋愛、料理などの本能を掻き立てる王道的な場所やニッチを埋めていくジャンルなどを再編して一同は語り合い、時には念話を用いてイメージを伝えたりする。
「……さて、大枠は決定したな」
「これで行きますか……」
「では、今回は閉会だ。皆、有意義な会合だった。これにて」
話が終わったと全体的な判断が下されるとこの場では解散される。まだ何か話足りない者たちは別口で会話をするのだ。
「……さぁ、これから奴らはどう動いてくれるかな……? 精々、楽しませてくれよ……」
「アッハッハ。ここまで清々しい程にイチャつかれたら拍手で見送りたくなるね」
「……どんな思考回路をしてたらそうなるのか私にもわかりやすく教えてくれないかしら?」
「ん? いや、見てて楽しくないか? どうせ自然に別れるか冷めるだろうに。周囲の目も気にせずに全力投球。若いっていいねぇ……」
「……あなたこの中ではかなり若い方よ……?」
イリスの言葉にレンは口の端を吊り上げて笑う。
「肉体的には若いが精神的には幼いな。でも、老成もしてる。まぁ個人的には冷めるか別れた時に過去の悶絶したくなるエピソードの意図を尋ねるのが好きなんだ。ある夫婦の交換日記とか音読したのは楽しかった。夫に冷たい反応する妻が貴男とか書いてたのはマジで今でも笑う」
「……碌でもないわね……」
甘い雰囲気に包まれている周囲に対してイリスとレンは少し距離を置いて会話をしていた。
「どうしたらあなたのような性格になるのかしら……」
「普通の家庭で普通に生活しながら悪意を浴びて生きればこうなる。やったぜ」
「普通の定義が行方不明ね……」
軽く蟀谷を抑えて顔を俯かせるイリス。そんなことは気にせずにレンはこれから何があるのかについてイリスに尋ねる。彼女は微妙に困った顔をして答えた。
「今日はこれで終わりよ。私と一緒にホテルに飛ばされて宿泊することになるわ。そして明日、次のゲームについての説明があって自由行動。その日も同じホテルに泊まってから次のゲームが始まると思うわ……」
「で、何でそんな微妙な顔を?」
「……あなたと私が同室だからよ」
「あぁ、そりゃブチ切れてもおかしくない案件だな」
何でそこまで自分のことを卑下するのか憮然となるイリスだが、レンは続けた。
「でも、俺はホテルに泊まる。野宿は嫌だ」
「……私だって嫌よ。どっちかがソファで、どっちかがベッドになる……」
「あぁ、どっちでもいいよ。別に。そう言う扱いには慣れてるから」
「……じゃあ、ベッドを選ぶけどいいのね? あなた、その翌日から今日以上に大変になるかもしれないのに」
「いいよ。別に」
興味なさそうに答えられてイリスは先程より更に機嫌を悪くする。レンは別にイリスを慮ってベッドを譲ってくれたわけではないのだろう。本当にどうでもいいという態度だ。
ただ、イリスの方は納得いかない。その超然とした態度が何かムカつくのだ。
「……あなた、私に興味ないの?」
「あるよ。いっぱい」
レンの言葉に嘘はない。どういう育ちをしてきたのか。地球人と同じ構造をしているのか。どういう進化の経路をたどったのか。どんな文明が発達しているのか。そもそも、目の前のあなたはどんな生物なのか。それとも創り出された存在なのかなど、大量に訊きたいことはある。
ただ、まだ初対面に近いのでマナーとして訊かないし、割と自分のことだけで手いっぱいでそこまで手が回らないという事情もある。
「いずれ、話して貰うけど……まぁ、どっちでもいいよ」
「ムカつくわね……」
レンはイリスのことを無意識中に観察しながら言葉を紡ぐ。意識として挙がってくる情報としては彼女は思いの外激情型のようだ。それと、微妙にだがこちらを見下している印象を受ける。
(まぁ、文明にかなりの差がある上にこいつの外見はその辺の同種の方々よりも上位だしな。プライドはそこそこ高いだろ。頭もいいみたいだし……)
こちらの観察している視線は気付かれているのだろう。相手は不機嫌そうにしている。だが、止めるなんてことはしない。
そんなレンを見てイリスも考えさせられていた。
(この人の相性が私にいいとされているなら……私はその裏をかくべきね。こんなのがパートナー……苛つくわ。絶対認めない。)
『皆さま、大変お待たせいたしました。ご歓談の方はお済でしょうか? これより場所を移します。皆さまどうぞステータスから移動を選択してください』
レンとイリス。互いに探り合いをしているペアは周囲の甘ったるい雰囲気の中で当たり障りのない話をしながらこの場からすぐに消えて行った。
「……ベッド広いな。これなら問題ない気がするんだけど」
「
「まぁソファも柔らかいし大きいからいいけどな。食事は?」
「ルームサービスがあるわ」
移動先のホテルはビジネスホテルのような場所ではなく、鮮やかな絨毯が敷かれており、シャンデリアが設置された高級な物だった。
「明るいな……もっと暗い方が好きなんだが……」
「陰気ね……あったわ。そっちに照明操作盤があるから好きにしなさい」
「いいの?」
「……常識の範囲内で操作するのよ?」
レンは映画館の上映開始より少しだけ明るい程度に照明を落としてから息をつく。
「ふぅ。落ち着く……」
イリスは若干イラッと来た。しかし暗くされたことに対してではなく、自分にとってもちょうどいいと一瞬でも感じてしまったことが何となくムカついたのだ。
「……それで、食事はすぐにするのかしら?」
「どうやって頼むの?」
「声に出せば近くにテーブルと椅子が出て来てその上に現れるわ」
「ほぇ~ハイテク……ん? じゃあベッドも生み出せる……?」
「……そう言えばそうね」
忘れていたことを指摘されて何となく八つ当たり気味なことを思いつつその日は新しいベッドを呼び出して眠りに就いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます