第5話 チュートリアル リベンジ

 異能 刀:16→18 鈍化:8→13

 

  刀:18 視界に存在するあらゆる物質から刀を生成可能

  鈍化:13 前後左右の一方に1Mに渡って鈍化の空間を創る


 身体:25

  人外に片足を突っ込むレベル


 絆:7

  パートナーと協力者程度の関係を維持



 ステータスを振り直したレンはご満悦で新しい刀を眺めていた。刀:17の時点で彼の為に存在する無銘の美しい刀が生み出され、剣術の腕前も達人レベルになる補整が付いたのだ。


「やべ、涎出そう……」


 うっとりとした目で刀を眺めているレンを見てイリスはドン引きした。先程の初回クエストよりも余裕が出来ているレンはそんな彼女に尋ねかける。


「何か?」

「……何かって、言われると……」

「気色悪い? ごめん、生まれつき」

「何も言ってないのだけど……」


 被害妄想の激しい男だとイリスは思った。対処法も分からない。そう思って視線を外すとレンもイリスからステータス画面へと目を移す。


「……でも刀:16のあらゆる場所へ刀製造と18は被ってる気もする……」

「違うわよ。えぇと、16では刀を生み出すまで、生み出した後は消滅するけど……18ではその物質そのものから刀を創り出すの」


 レンの呟きに会話の糸口を見つけたイリスが声をかけるとレンは少し過去の会話を思い出して一瞬だけ目を鋭くして尋ねる。


「異能については分からないんじゃなかったの?」

「既に設定した値までの能力なら分かるわ」


 さらりと答えられてやはり、信用し過ぎるのは問題だろうとレンは確認しチュートリアル・リベンジと明転している文字をタップし、個人空間から出た。


 今度のクエストは、【浮遊】の玉を奪うことだった。





「さぁて、浮いてる奴を潰せばいいのか……」

「あなたがこの場で一番浮いてると思うけどね」

「……まぁ、そうだな」


 周囲の視線が痛い。おそらく、前回レンによってゲームオーバーさせられた面々だろうが、戦闘力を考えるに太刀打ちできないとして睨んでも睨み返されると逃げて行った。


「……この際間違えたと言って浮いてる奴を全部潰したらどうなるんだろ……恨み買うけどポイントは手に入るし、クエストもクリアできるよな……もしチュートリアル終了後にバラバラになるならこの手は行けると思うんだが……」

「あなた……割と最低なこと考えるわね……」

「冗談だ」


 冗談とは思えなかったとは言わずにイリスは溜息をついた。





 【浮遊】の能力を持つ相手は宇城うき 大晴たいせいという男性だった。彼は体育館の屋根の梁の上でレンを見下ろして溜息をつく。


(ついてないなぁ……気違い染みたの糞ガキが相手とは……)


 タイセイは前回のクエストを失敗した組だ。レンがあまりにも軽いノリで鈍化の男を切り裂いているのを見て驚いたところを別の対戦相手にやられた。


 パートナーに嫉妬を抱かせつつパートナーの好感度を先に上げた方の勝ちと言う訳のわからない対戦式のクエストで、相手の頭の悪そうな女性の冤罪と泣き真似に成すがままにされたのだ。


 そんな彼と一緒に居るのは黒くタイトなレザースーツに抜群のスタイルを押し込んでいる妖艶な美女。彼女は心配そうに宇城に尋ねる。


「タイセイ、大丈夫なの?」

「……やらなきゃ、ダメだろ……」


 宇城としては単なるチュートリアルなので逃げてしまいたいと言う気分だった。しかしながら、パートナーの美貌にやられた彼はポイントを彼女との絆に突っ込むことで負けられない情報を得る。


(絆値40以上でこの『げぇむ』とやらをクリアすればこの美女アオイを連れて地球へ帰れるんだ……やるっきゃないよな……)


 目の前の女性はタイセイを引きこむような笑みを湛えてこちらを見ている。現在の絆値はタイセイのボーナスポイント全振りの結果、理由なく盲目に惚れるレベルの25ポイントだ。


(急襲すれば流石にあいつだって人間だ。よく見りゃ普通の、どこにでもいるようなガキだ。ビビらずに隙を……)


 タイセイがそんな思考をしながら地上を見下ろすとレンは周囲をきょろきょろしていた。彼の隣にいる氷の女王という表現が似合いそうな美少女はそれをただ黙って見ているようだ。


 油断を待つタイセイが壁の方向に移動していく二人を見ていると、次の瞬間レンは壁に刀の階段を作り上げてそれを駆け上り始めた!


「なっ!」


 彼は天井付近まで来るとその場所で体重で刀を曲げつつ周囲を見渡して悪魔のようににたりと笑って呟き、そして大声を張り上げた。


「見っけ。間違ってたらごめんなさい! |刀絢爛舞(とうけんらんぶ)!」


 ごめんで済むか! そう思いつつタイセイはアオイを連れて空へと逃げて行く。それを見てレンは梁から水平に刀を生み出してそれを足場にし、踏み折りながら追跡した。


(速過ぎんだろ! こいつ人間か!?)


 空中で捕まり壁際に押し付けられるタイセイ。そのまま【刀】で壁に括りつけられると首下に刀を当てられて呻いた。


「くっ……」

「不作法で申し訳ないですが質問をさせていただきます。お兄さん、【浮遊】の能力者じゃないですか? 玉を見せてください。もし、違っていましたら解放させていただきます。抵抗したり、見せなかった場合は斬りますのでご了承ください」


 瞳孔が開いているかのような黒く死んだ瞳に見据えられてタイセイは頭おかしいんじゃないかと思いつつ観念して力無く項垂れ、目の前に刀があることを改めて視認すると慌てて顔を上げて答える。


「……そうだ。降参する……」

「あぁ、ならよかったです。ごめんなさいね。これもルールですので」


 安堵する声と共に微笑まれながら謝罪されてタイセイは先程までとのギャップに逆に身震いする思いだった。右手だけを解放され、常に刀が添えられた状態で右手を動かして玉を出すとレンに見せる。

 彼はそれを受け取って刀をそのままに剣道の礼をするように目を相手に向けたまま軽く頭だけを下げる。


「はい。これで私のクエストは完了しましたのでご協力ありがとうございました。手荒な真似してすみませんね」

「……あ、あぁ……」


 タイセイの持つ【浮遊】の能力値は12。8割になると9.6となり能力がロストする形になるが、身体の能力値までロストする訳にはいかないと諦めたように項垂れ、レンに地上に降ろして貰う。

 アオイが役に立てなかったことを悔しみつつも慰めてくれるので割とそこまで傷心することはなく次、頑張ろうと思って勝者のレンを見ていると、彼は地上に降りていつの間にか3名ほど血祭りに上げて人々に逃げ惑われていた。


「……何だこいつら。ポイント振り直して復讐に来たとか抜かしてた割には雑魚いな」


 片手に血塗れの女性の頭を持ちつつ彼は憮然としてそう呟き白髪の美少女にドン引かれながらそう呟いているのが聞こえた。


「……あなたにポイントの一部を奪われてたからでしょ……」

「ふーん。どうでもいい。でも【浮遊】の力を使えるぶんくらいはポイント稼がせてもらってラッキー」


 死体を放り投げると光の粒子になって消えて行く。その後、レンは誰からも絡まれることなくチュートリアルが終わるまでイリスと喋っていた。



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