第4話 チュートリアル

 制限時間が終わった。体育館に設置されているスピーカーから声が聞こえてクエストクリア者は壇上の近くに集められる。


『チュートリアル突破、おめでとう。中々楽しませてもらったよ。少なくともこの星、この国の中では高順位が狙えそうだ。この後もう一度チュートリアルが行われるが、そのチュートリアルはげぇむの種子を理解できなかった今回のクエスト失敗者たちを救済するのが主な目的だ。そのため、適応してくれた君たちは理解力の足りない可哀想な彼らを虐めないであげてくれ。勿論、向こうから手を出してきたときにはその限りではないが……』


 そんな話の中でレンはイリスを伴ってテッペイとそのパートナーのいる場所で会話をしていた。


「はぁ……恋愛系なのに空気読んでくださいよ……見てください周りを」

「甘ったるいな。いや、でも戦闘してる奴は結構いたぞ?」

「好きな子の前で戦って好感度を上げたいとかそういうことを目的として戦ってるわけであってですね、先輩みたいに彼女放り出して戦闘してた奴はいないッスよ?」

「いや、ポイントで相手の心を買って恋愛事をするのはどうかと思うんだけどねぇ……」


(……下げておいてよく言うわね。)


 イリスは冷たい視線でレンを見ながら心内で呟く。


「確かに、俺らの世界は身長やら金やら数字で恋愛事を買う奴多いけど……ダイレクトにポイントってねぇ……」

「俺は絆にポイント振ってないッスけど。そこは実力勝負でしょ」


 真顔で言われてレンは楽しげに笑った。


「へぇ! いいじゃん。面白い。応援するよ」

「先輩は逆にどうなんスか? まさかポイント振ってるから安心とか……?」

「ん? いや、こんな美人が俺のこと好きなんてありえないから減らした。多分気付いたら誰かに持って行かれてるだろうな……悲しいけど、これが現実だ」


(……何を勝手に自己解決してるのかしら?)


 イリスは思わず顔を顰めた。ポイントで好感度を操作されるのはそういう物だと納得しているが、相手の気持ちを自分と同じと決めつけているレンは不合理で、イリスは更に嫌いになる。


「……凄く顔顰めてますよ」

「……まぁ仕事付き合ってあげてる屑相手に尻軽宣言されたらそうなるだろ。可哀想にねぇ……」

「……別に、私は一回も、あなたのこと嫌いと言ったことないのだけど。勝手に可哀想とか何様のつもりなのかしらね?」

「……めっちゃ不機嫌じゃないッスか……絆値どれだけ下げたんスか……」

「5」


 テッペイは呆れ顔になった。


「あんた、5も下げるとか……異能と身体に振ったら負けた時に相手に2割も奪われるんすよ? 絆に貯金するべきでしょ」

「いや5になるまで下げた。負けなきゃいい」

「……うーわ。マジあの人可哀想……屈辱でしょうね、そりゃ……」


 テッペイにはもう引き攣った笑みしか浮かべられなかった。レンに尋ねる。


「先輩あの人、嫌いなんスか?」

「いや、最高だと思うけど」

「じゃあ何やってるんスか?」

「俺には無理だろ。どう考えても」


(と、言うより……敵に回りそうなんだよなぁ……個人的な見解からすると。多分敵と認識したら躊躇わずに斬り殺せると思うが……ある程度仲がいいともしかしたら剣先が鈍るかもしれないし……)


 レンはそんなことを考えて少しおそらく、彼女が敵に回る原因となる異星の民たちのことを考えて注意をこの場から逸らした。テッペイは苛立たしげにレンを見据えているイリスを横目で見た後、レンに注意しようとしてイリスに遮られる。


「……パートナー制度は、相性がいいこと、理想のタイプであることを前提として相手を自動で選ぶ物なんだけど。言ってる意味、分かる?」

「へ~……よかったなふ、テッペイ」


 レンが僅かな思考時間の後にスピーカーの言葉を聞きながら軽く流して他人事のようにテッペイの肩を叩くと、目の前にイリスの美しい顔が軽い怒りの表情を浮かべて迫っていた。


「ぶん殴るわよ?」

「おう、それでチャラな」


 レンは怒らせるようなことをした自覚があるのでそう言って殴らせようとする。イリスは怒りを感じていながらも拍子抜けして思わず首を傾げた。


「何とチャラなの?」

「俺如きが呼んだこと」


(そして、そんな俺の所為でプライドをズタズタにしたこと。)


 口には出さずにレンはその言葉を飲み込んで消化する。その態度に腹を立てたのかイリスはまずます怒りを覚えた。


「……あぁ、神経を、どこまで逆なですれば気が済むのかしらこの男。……はぁ、その件に関して許して欲しければ絆を7にしなさい」

「りょーかいでーす」


 殴る気力も失せたイリスはそう言ってまた少し離れた場所に行く。その剣幕に気圧されていたテッペイは恐る恐るレンに声をかけた。


「大丈夫なんスか……?」

「おう。さっき虐殺したお蔭でポイントが少し増えてるからそれ位の余裕はある。いや~……次もしておきたいなぁ……」

「……もしかして先輩……絆の詳細知らないとかないッスよね……?」


 能天気に犯罪声明のようなものを呟くレン。テッペイはその言葉に怖気を走らせつつもそう尋ねた。そしてレンの首を傾げる動作で全てを察する。


「好感度はポイントだけじゃなくて実際の行動で上がりやすいんですよ? しかも裏好感度もあってそっちは見れないけど最初に設定を高くすれば上がりやすいって説明が……」

「そうなんだ。へぇ。ポイント一覧くらいしか見てなかった」

「……先輩……逆に考えると最初低くしてしまったら上がり辛いってことは分かってますよね……?」

「わかってるけど? 下げたものは仕方ないし、死にたくないから保険をかけたことに後悔はない」


 レンがそう言うとテッペイは自分が熟したクエスト、自分のパートナーの魅力を相手に存分に見せつけるを彼に見せて告げる。


「こういうクエストの時、先輩どうするんスか……?」

「え? パートナーを褒めちぎればいいんだろ? それ位簡単簡単。というより俺が何かするまでもない。そこにいるだけで魅力満点だし」

「……凄まじいこと言ってますけど」


 イリスの方は褒められて満更でもなかった。少なくとも自分に落ち度はないことを意識して、彼の方も寧ろ好感触を抱いていたことで僅かに、0.1にも満たないが好感度が変わる。


「そういうやり方もあるんスかね……まぁいいッス。人の恋路に口出して馬に蹴られて死ぬのは嫌ッスからね」

「おぉ、俺もお前のことシスコンの上にロリコンとか思っても引かないから安心して子作りでも何でもするといい」

「……思ってはいたんですね?」

「いや、別にいいと思うよ?」


 レンが空模様を見て天気の話をするかのような普通の口調で会話をしているとスピーカーの演説は終わったようだ。気付けばレンはまた個人空間に戻っていた。


「おぉ、さっきはごめんな。絆は7に戻すよ」

「早くして。7で協力者レベルの関係は維持できるわ。さっきのクエストで恋愛系の物が出なかったことを感謝するべきよ」

「はいよ」


 不機嫌なイリスの言葉に従ってレンはステータスの振り直しを行った。



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