第15話
「私は、貴様らに賛辞を送りたい」
本隊を率いる黒龍が、凛々しい顔に紅い瞳を爛々と輝かせている。
「よくぞ耐えた。愛する友らの
「貴様らはこの私の親衛隊とも言うべき兵士たちだ。我らはここから反撃の旗を掲げよう。雄々しく、神々しく」
「大陸の王者が欲するはただ一つ。その名に相応しき勝利」
「誇りあり、気品あり、覇気ある勝利だ」
「そして王者が求めるものを得るには、ただ欲すればいい」
全ての生物の視線を一身に集め、ジークはそれら全てを力に変えたように雄叫びを上げる。
「さあ高らかに声を上げろ!」
「貴様らは何を欲するのか!」
人は叫び、
馬は吼え、
草木が鳴き、
地が騒ぐ。
「勝利! 勝利! 勝利!」
空を切り裂く渇望の声。
「抜剣!」
「行くぞ!」
「我らを呼ぶ戦場へ!」
「龍の翔ぶが如く!」
戦況は火を見るより明らかだった。
紅騎のような派手さはなくとも、大将が率いるは当然ながらその身を守る精兵の軍団。ジークはその手に采配ではなく剣を握って自ら敵を薙ぎ倒し、端から見れば異常な気炎を配下に与えている。
彼らが動き出し、サイガの伏兵が上手く網になり「脅し穴熊」が機能すると、敵軍は投降兵と逃散兵が後を立たず、本隊がギリアムの主戦場に合流する頃にはレオーネはただ戦線を下げるのみであった。
未だレオーネで戦意を保つのは紅騎将ソルとその麾下である紅騎兵たちを囲う兵くらいのものである。戦の大局は決していると言えた。
この戦況下にあって、屍に囲われたまま嗤う男の嬉しい誤算は、続く。
真っ先に現れたのは、老将とそれを伴った銀髪の少年、合計たった二騎だったからである。
本当に、恐いほど予想を的中させる男がいたものだ。そんな独り言を呟く男の脳裏を過るのは、底の知れないレオーネの首領。
「どういうことだ? 説明せよ!」
クラウスは冷静沈着な普段の姿からは想像もつかない顔で激昂していた。男の姿を見ればそれも当然のことであった。
「答えよ! タリム・スコル!」
青年は眉尻を下げたいつもの自信無さげな偽りの表情を脱ぎ捨て、不気味な笑みを浮かべていた。片手には、首を提げていた。疫病からなる吹き出物塗れの醜い男だ。しかし、クラウスはその人物を知っていた。
「何故、お前はコーマの首を持っているッ!!」
ヴァイスは、なんとなく察していたものの、「それ」が本当にコーマだと知り、しかし狼狽えることなく無表情に怒っていた。
もはや今日の戦場でクラウスが幾度も見た顔である。
仲間を殺された。その怒りであった。
ただの一兵卒でも初陣の彼にとっては自身と共に兄を、国を守らんと力を奮う戦友であった。それが王国の七勇将の一角ならば、尚更。
尤も、これほどの激情がヴァイスの中に眠っていたことは、今日という初陣の日を迎えるまで彼自身も知らなかったことだ。
「答える必要が、ありますかねぇ?」
フフ、と声を漏らしてタリムがその歪んだ口角を上げた。
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