第一章 レギンレイヴ平野の戦い

第7話

【国家と情勢】


大陸における現在の覇権国はリンドヴルム王国であるが、大陸の全土を完全支配するには至っていない。

従属国の殆どが群雄割拠の時代に王国と対立しその圧倒的武力によって膝を折ったところから現在に至り、王国は派兵を行う代わりに国民感情を味方にするため自治権は継続して与えるという形で間接統治を行っている。

このような形式である以上、フェニックス公国の大公をはじめ形式上の地位でしかない元々の支配者もいるが、概ね現地での支持は派兵されてきた王国兵たちよりも根強い。


王国の北部にあるニーズヘッグ帝国はそんな大陸情勢下でも独立を保っており、これは王国の大陸平定以前に結んだ同盟、リヒト・リンドヴルムとスカーレット・リンドヴルム(旧姓ニーズヘッグ)の婚姻、そして嫡男ジーク・リンドヴルムの誕生により半恒久化しているためである。

フェニックス公国は王国東部の砂漠地帯を挟んだ更に東に位置する最大の従属国である。元々現在の大公の治世では武より文が重んじられており、帝国以上の国土を持ちながらリヒトによる侵攻が開始されてから比較的早期に従属を表明した大公に対しては賢人とみるか愚者とみるかで王国内では未だ意見が二分されている。

王国領の東端に聖地を持ち長らく王国の支配に抵抗を続けていた大陸最大の宗教組織オーベロン教会は、王国が武力征服したと言える最初の勢力である。しかし大陸中に信者を持つ教会は各地、更には王国内でさえ反乱を起こし、その事態収束のために王国は教会への信仰を公に認めざるを得なかった。王国は聖地に大聖堂を建設、保身を望む教皇を傀儡としその右腕だった大司教に全ての罪を被せて処刑したことで教会勢力を名実共に臣従させることになる。

王国から南西に位置するのは大小の島々からなるグリフィン諸島連合。大陸中の港にコネクションを持つ大商会を母体にした武装商人集団であり、先王の治世下における最大の敗戦、第一次リヴァイアス海峡戦ではその財力に加え友好関係にある土着のドワーフによって作られた優れた兵器による武力を示したが、リヒト治世下で行われた第二次海峡戦ではある軍師の活躍により連合は敗北。従属した現在では半ば王国のお抱え商人集団と化し、王国が経済面においても覇権を握る支えとなっている。

ごく近年、これらの国への支配の過程で行き場を失い、しかしそれでも王国に骨を埋めるを良しとしない者たちが流れ着いていると言われるのが、王国と公国の狭間にある砂漠地帯である。特定の支配者も政治も持たないが寄り合いによる自治権を王国に主張するも、とうに大陸統一を宣言した王国に対して薄い結束では為す術もなく、戦とも呼べない小競り合いで追い散らされるように敗北した。


そしてそんな大陸情勢下で、無謀にも王国建国間も無くからの支配地、南東の乾燥地帯に旗を立てた者たちがいた。何の力も持たない人族の商人たちが治める国、名を自由レオーネ。王国は同じように建国され自壊した国を見てきたのでこれを意にも介さなかったが、この三年間で目立った崩壊の気配もなく、王国南の湿地帯に拡大路線を推進しているため、30年ぶりに王国軍が仕置きや鎮圧ではなく戦争という形で出陣することになった。これは言わば、着実に老境に差し掛かりつつあるリヒトが王国と自身の後継者の力を大陸中に見せつけるだけの示威行動に過ぎなかった。


以上、章前解説

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