第6話

ヴァイスが王の間に入るとリヒトとジークが既に部屋の窓際で彼を待っていた。傾きかけた陽射しが眩しい。

ジークは黙りこくっている。元々ヴァイスには刻限までに戻ると伝えていたのに、結果的に連れ戻されたのだろう表情に不機嫌と書かれているようだ。

王の間は王城の中ほどにあり、祭事や慶事の折に王族がそこから民に顔を見せるための間であり、今日もそのための呼び出しだとヴァイスは聞いていた。リヒトだけでなくジークとヴァイスが呼ばれたのは、次の戦ではジークが総大将となりヴァイスが初陣を迎えるためである。



「来たかヴァイスよ」

「お待たせしました」


リヒトは穏やかな表情を浮かべたまま、咎めることもなく手で自分の隣を指す。それにヴァイスが従い、三人が並んだところで、リヒトはカーテンを開き、窓を開ける。


地鳴りだ。

ヴァイスが感じた最初の感覚はそれだった。

自分を突き上げるような、大歓声。


「陛下ーーーー‼︎‼︎」

「ジーク様‼︎‼︎ ヴァイス様‼︎‼︎」

「リンドヴルム王国万歳!」


夥しい声、声、声。

それは民の意志であり、願いであり、賞賛である。

ハッとしてヴァイスが横を見ればリヒトやジークは事も無げに民へと手を振りかえしている。

城の真下に留まらず城下に広がる王都の大通りさえ埋め尽くす群衆が全て此方を見上げている。


「我が息子ジーク、そして我が甥子ヴァイスよ」


リヒトが、群衆にかき消されながらも確かに届く呟きを繰り返す。


「これが王である」


「これが民である」


「これが王の国、王の都である」


「そして」


「これこそが、『力』である」


瞬間、二人の胸には違う物が流れ込んでいた。

王の血を引く黒龍は王の猛き誇りを感じ。

優愛に満ちた銀龍は王の負う重圧を感じ。

違う心を持つ二人の龍へ国の栄華を見せつけた王は、心中に何を思うのか、いつもと変わらぬ笑みを浮かべるだけだった。


二人の頬を撫ぜる風は、一層秋めいて、冷たい。




序章 了

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