第3話

大袈裟なほど豪勢な食事が並んでいる、長テーブルを中心に据えた大広間は、食事の時間にはまだやや早いが既に喧騒に溢れていた。此処は一定以上の階級にある武将たちの食堂。彼らが山ほどある食事を自分の皿に盛っているのだ。

何の気無しにそこを覗いたヴァイスたちに気がついたのか、一人の美青年が近寄ってきた。


「これはこれは。ジーク殿下にヴァイス殿下。レイ姫殿下もご一緒ですか。相変わらず仲がよろしいですな」


柔和な表情ながらいかにも武人然とした精悍な顔つきで、もし睨まれようものなら獅子でも竦みそうな鋭さを含んでいる。左眼のもう開かない瞼に縦の傷痕があるこの青年は、大陸最強の王国軍でも当世一人の称号である紅騎将こうきしょうを最年少で与えられた最強の武将、ソル・ユニコーン。ヴァイスにとっては槍術の師でもあった。

他にも、王国が誇る七人の勇将を始め見知った顔も幾つかある。

武将の多くは視線をつい自分の食事を盛った皿に注いでしまうようで、その様はさながらお預けを食らった犬たちのようである。その様子に余計に苦笑を深くしたソルが頭を軽く下げた。


「はは、流石に王家の皆様より先に口をつける不届き者はおりませぬが、食事と聞けば元気になるような莫迦者ばかりでして。お騒がせ致しまして申し訳ございません」


そんな律儀な態度のソルの肩をジークが叩く。その瞬間に不思議と周囲からは長身のソルよりジークが大きく見えるようだった。そのポンと言う音一つで視線が一気にジークに集まる。


「良い。食うは主ら武将の務めも同じ。良く食い、良く鍛え、良く働くはリンドヴルム王家に仕える者の誉れ。活力有り余る大陸最強の王国軍の武将らしくしていろ。我慢無用だ」


いつの間にか食堂は静まっていた。

ソルの一礼に合わせ、例え軍律に無くとも皆がジークに頭を下げた。


「……物の言い方、仕草、武の才気にお顔立ち。なによりその既にして王たる器量。実に、国王陛下に似てこられた。否、それ以上の王ともなり得るお方。これならいつでも御父君の後を継げましょう」

「何を言う。私などまだまだ父上の足元にも及ばぬ。精進せねば」


照れたようにジークは頭を掻いて困ったように首を傾げた。どこか微笑ましく、ヴァイスとレイも笑っていると、冗談めかした声色のまま真顔のソルの顔がヴァイスの方に向いた。


「ヴァイス殿下も。初陣までいよいよあと一月ほどですからな。また稽古をつけさせて頂きます故、お覚悟を」

「……初陣までにはソルから一本取って見せる」


決まり悪そうに明後日の方を向くヴァイスに、ふふ、とソルが笑う。


「初陣までと言わず明日にもお願い致しますぞ」


それでは、と再び一礼して自分の席へ戻っていくソルの後ろ姿を見ながら、ジークとヴァイスは困ったように顔を見合わせた。

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