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そう僕が叫ぶと、天に雷雲が集い唸り上げ、天雷の稲光が神の裁きの如く、天から龍と男に降り注ぐ。ことは一瞬の出来事。一人と一匹に避けるどころか叫ぶ暇さえも与えず、光はその体を包み込み長い時間焼き続ける。しばらくして光が消えると、男と龍はその場に倒れこむ。ピクリとも動かないのが見て取れると、その場にいた誰もが倒したのだと思って安堵した。だが突如として龍が目を覚まし、暴れ始める。
「倒しきれなかったか…!」
「皆、下がるんだ!」
暴れ始めた竜にやられてしまわないようにカインが下がるように指示する。皆で安全圏に避難したところで僕は気づいた。暴れる龍の傍らに、同じくらいにはやられたはずであろう男が、ボロボロの身体を支えながらなんとか宙に浮いている。
「貴様ら……ふざけおって…」
「いい加減諦めたら?」
「ぐっ……いい気になっていられるのも……今のうちだ…」
そう言うと男は背を向けて逃げていく。
「どこに行くつもりだ!」
問いかけても答えが返ってくるはずもなく、男は凄い速さでその場から逃げていった。
「あっちには…」
「……あちらの方角は……青の国へ向かう方角です」
目を覚ましたソフィアは男の向かった場所を教えてくれた。
「ソフィアさん、もう起きて大丈夫なんですか?」
「えぇ…ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、構わないさ、約束したし。っとそれより今は追いかけないと。しかしあれをほっとくのもな~…」
そう言いながら僕は龍を見る。凄い暴れようだ。まさしく手が付けられないってところか。
「あれの対処は我々にお任せください」
「そうよ、私達に任せときなさい!陛下はあいつを追いかけて!」
「カイン、マリア……ありがとう」
「お任せを。それと追いかけるのであるならばこちらの馬をお使いください」
そう言われて見せられた馬はカインの大切にしている相棒。カインが騎乗して一度戦場に現れれば、その馬の容姿と走りながら兵を薙ぎ払う姿から白い嵐と言われている白馬、ヴァイゼンシュトルムだ。
「あれ?こいつはカインの愛馬なんじゃ…」
「大丈夫ですよ。こいつは陛下にも懐いておりますから」
実際に頭を垂れて、僕に寄り添ってくれるし、カインがそう言ってくれるのはありがたいんだが…。やはり名のある馬に乗るのは気が引けるといったところだな。
「ありがとう、少し借りるよ」
「あたしの赤兎馬もいるんでしょうね?」
「勿論です」
もちろんてどういうことだ?いや、むしろ彼女はいつの間にそんな名前の馬を飼ったんだ!つーか、ほんとにいるし!見た目もどことなく似てる感じだし!…突っ込み切れない僕は、とりあえず大きなため息を吐いておく。
「我々はあの龍を倒してから参ります。くれぐれも無茶は…」
「しないでくれってことだよね。分かってる」
「あたしもついてるから大丈夫よ」
「だから余計に心配なんですが…」
「私も連れていってください!」
僕はダメだと言いたかった。だが彼女の眼差しと、瞳に宿る決意は確かなものだと感じ、同行を許可した。カインその場と妹達を任せ、僕はソフィア一緒に乗り、幼馴染とシエラが一緒に乗ることを決めて、僕たちは馬を青の国へと走らせる。
そして、彼らの後ろをひっそりとアルテミスが付いてゆく。
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