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その言葉を聞いたソフィアが顔をあげると、目の前には主人公が立っている。驚いたソフィアは後退りをしようとしたが、羽交い締めにされているため体を動かすことができない。「離しなさい」とソフィアが言い切る前に、主人公はソフィアと唇を重ねる。そして主人公は同時に魔法を発動する。『
周囲の景色が消し飛び、真っ暗な世界に入り込んだ。ここは彼女の精神世界、螺旋状飛んでくる彼女の記憶。底へ落下していく自分。どこまでも続くように思える景色は、突如として顔から床にぶつかることで急に終わる。
「いたたた……いや、痛くないか」
顔を触っても痛みを感じることがないことに気づいた。よくよく考えれば、精神体だから当たり前だろうけど。
「さて、どうしようか」
とりあえず何かないかと辺りを見回し、手で辺りを触るように進むと、目の前に不自然な扉が唐突に現れる。何もない空間にポツリと佇む扉を僕は恐る恐る開けた。開けた扉の先には石畳の部屋、装飾品も何もないけど城の一室みたいな部屋。その部屋の真ん中にソフィアが一人佇んでいる。
「なぜ……ですか?」
「え?」
「なぜ…」
「なぜって……それは君を」
「話したところで解るまい」
僕が言葉を語りきる前に、別の男性の声が聞こえる。振り向くと僕が開いた扉は既に閉まっており、そこには一人の男性が立っていた。男性はソフィアに近づき、後ろに回ると髪を掬い上げる。ソフィアの体が心なしか震えている気がする。
「貴様の質問などよりも…だ。なぜあんなことをした?」
「…」
「貴様の夫になる男に対して、嫌われる態度をとったのはなぜだと聞いている!」
後ろから前に立った男性はソフィアの髪を引っ張り、顔を自分に引き寄せて、色んなところを殴り始める。僕は二人を止めようとするが、貫通して掴むことすら出来ない。
「それは私の過去の記憶。止めることはできません」
背後からソフィアさんの声がした瞬間、周りの景色が変わる。変わった先は薄暗い先ほどと同じような石造りの部屋。中央にはソフィアさんが椅子に縛り付けられていて、男性が鞭で叩き始める。悲痛な叫びと鞭の音が響き渡る。
「こんなこと……酷すぎる…」
「私は毎夜これをされてきました。躾という名目で…」
更に時が進み、先ほどと同じく縛り付けられているが、男性が持っているモノが違う。男性の手に掴まれた蠢くそれは……紫色の芋虫だった。
「この蟲は我が命に従わなかった時、貴様の体を食らいつくす。これを使えば貴様は必ず言うことを聞くしかない。そう、これは言うことを聞かない貴様が悪いのだ」
「い、いや……止めて…やめてぇ!」
顔を背けたり口を閉ざして抵抗するが、体を縛り付けられているため、男性に顔を鷲掴みにされ、口を無理やりこじ開けて捩じ込み、飲み込まされる。堪らず吐き戻そうとするが、出てくることはなかった。
「くはは!蟲を体内に取り込んだが最後、二度と出てくることはない。無理矢理取り出せば、宿主は死ぬ。貴様は一生私の奴隷なのだ!」
男性の甲高い笑い声が部屋中に響き渡り、部屋の外まで聞こえてきそうなくらいに笑っている。そして記憶の映像は一瞬で消え去り、再び暗闇に。
「分かったでしょう?貴方に私を助けることは不可能です」
「……ある。助ける方法はある」
「嘘はつかないでください。貴方の言葉は全て嘘。現に2回も騙されました」
「それは…悪いと思っている。信じられないのも僕のせいだ、だけど助かる方法はある。だから諦めないでほしい」
「……いいえ、ありません。あるはずがない。貴方と私はここで死ぬ運命なのです」
後ろを向き、去ろうとする彼女の手を掴み、体を引き寄せる。目を合わせ、力強く体を抱き、思いを伝える。
「僕は死ぬわけにはいかない。やるべきことがある。そしてそれは君にも同様にあるはずだ」
「知りません。貴方のやることなど知らない。私にやるべきことなどありません。…勝手なことを言わないでください」
「いや、君なら解るはずだ。僕は君の父親に真相を聞かなければならない」
「…なぜ?」
「親が……いや例え親じゃなかろうとあんなことをして良いわけがない。だから彼を止めるためにも戻らなきゃならない。それに…」
「それに?」
「ここに至るまでの道中、君の記憶を見ていた。君が子供の頃の父親はあんな風じゃなかった。そうだろう?」
「…はい」
「ならば、君は真相を知るべきだ。それは僕も同じだ」
「……貴方にそこまで関わる必要はないはずですが?」
「確かにそうかもしれない。それに君を騙していた僕にこれを言う権利はないかもしれないけど言わせてくれ」
「…なんでしょうか」
「僕は最初から助けるって決めてたんだ。それにここまで関わってきたのだから、最後まで関わり続ける自信くらいある」
僕の思いを話しきると、絶望していた顔をしていた彼女はようやく笑ってくれる。
「分かりました。……1つ約束していただけますか?」
「もちろん、なんでも聞くよ」
「もし…私が生きることができたなら……」
耳打ちするように話す。まるで誰にも聞かれたくないかのように。
「わかった。必ず叶えると約束する」
「ありがとう…」
「さて、そうしたらどうやったら帰れるかな?」
辺りを見回すが、特に出口らしきものは見当たらない。条件が違ったのだろうか?
「あちらです。あちらの扉から帰れます」
ソフィアさんが指差す方向、眩しいくらいに光を放つ扉がある。
「ありがとう。助けたら必ず約束は果たすからね」
「はい。楽しみにしてます」
「じゃ、あとでね!」
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