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「行くぞ!」
「くはは!かかってくるといい」
カインは剣と盾で男に連撃を放つ。男は何食わぬ顔で連撃を軽々と避け、触手で反撃をしてくる。反撃を払いのけて更なる連撃を放つが、男は黒い霧となり、一瞬でカインの間合いから離れる。黒龍の踏みつけがカインを襲う。だがカインは躊躇なく盾で足を弾いて、踏みつけの範囲から逃れる。そしてそのままの勢いで脚を斬り、黒龍の四本の脚のうちの一本が斬られたことにより、態勢を崩し倒れ込む。
カインはこの好機を逃すまいと、黒龍の頭に剣を勢いよく突き刺す。そして剣が光り輝いたかと思った時、眩いほどの光を放ち、黒龍の頭を包み込み消滅させた。
頭を失った黒龍はピクリとも動かなくなる。
「これで自慢のペットはいなくなったぞ」
「その力……。貴様、どこでその力を手に入れたのだ」
「邪を払うこの力。我がアークライト家に伝わりし秘技だ」
「アークライト家……。いつの時代でも邪魔な奴らよ」
「我が家を知っているようだな。どうやら他にも何か知っていそうに見受けられる。詳しく話を聞くためにも、投降してもらえると嬉しいが」
「ふん、そんなことするわけもなかろう。それに…まだ終わったわけでもないのに粋がるなよ、アークライトの子孫よ」
男はそう言うと手を天に翳す。すると男の翳した腕から黒いオーラが奔流し、空中で渦巻いてから一直線に黒龍の死体に入っていく。カインが先ほどの秘技で切り払うが、切っても霧散した後に集合し黒龍に向かって行く。
「無駄だ、そんなことをしても邪魔することはできぬ。それより良いのか。お主の大切な主が死んでしまうかもしれんぞぉ?」
「くっ!」
そうだ。今の奴は動くことができない。ならばこそこの隙に陛下をお助けすべきだ!
「只今参ります、陛下!」
カインの戦いが収束を終える少し前、カインの戦いが始まってからずっと、ソフィアとシエラは必死の攻防を繰り広げていた。
「ソフィアさん!もうやめてくれ!」
「ごめんなさい…!」
ソフィアがシエラの上に乗ってナイフを必死の形相で押し込む。シエラはそれを必死に両手で抑えている。そんな戦いが数分間繰り広げている。
「ソフィアさん!こんなことをしたって意味はない!」
「…っ…ぁああぁぁぁ!」
「ソフィアさん!」
何を言っても聞いてくれない。何か洗脳されているのか。だとしても両手が塞がっているこの状況では何もできない。段々と力が強くなっている。女性の力とは思えないほどだ。相対的に私の腕に力が入らなくなってくる。本より私は肉体派ではない、限界が必ず来てしまう。具体的な打開策もない。カインの戦いも終わったみたいだが、すぐには来れないだろう。このままでは私は……。最悪だ……彼のために頑張ろうとしたのに……こんなところで。申し訳ありません……マスター…。私は目を閉じる。死、私は確かに感じたはずだった。だがいくら待っても痛みを感じない。閉じた瞼を恐る恐る開くと、ナイフが私に届く前に止まっている。正確には止められている。魔障壁によって。私には分かる、これが誰の手によるものかを。
「マスター…」
「ふぅー…なんとか間に合ったみたいだね」
「何してるのよ、ソフィアさん!」
ソフィアは僕の護衛騎士に羽交い締めにされて引き剥がされ、私はマスターに手を引いて起こしてもらった。
「待たせた。思ったより時間が掛かってしまったみたいだね」
「いえ…お待ちしておりました。マスター」
だがはたから見たその光景はおかしなものだった。主人公の傍に寄ってきたのは、まったく同じ顔をした主人公なのだから。
「へ、陛下が二人?」
「ど、どういう事ですか!?何で…あなたが…二人!?」
「それはね…」
「こういうことです」
シエラが指を鳴らすと体が煙に包まれる。そして煙が晴れると、主人公の姿はなく、代わりにシエラが立っている。
「あなたは…そうですか……そうなんですね。私を騙していたのですね!」
「そうだね。でも騙して悪いとは思ってるけど、これも策の内なんだ」
「流石は我がマスターです。予定した通りの展開にございました」
「いやー、結構ギリギリだったけど、考えていた内の一つが当たってくれて助かったよ」
「どういう事…ですか?もしかして…最初から疑っていたのですか…?」
「当たり。確かに信頼も大切だ。でも疑うことはもっと大切さ。知らない人が相手なら尚更ね」
「だから…私を騙して…」
そう言いながら、ソフィアは下に俯く。
「そう。そして僕は今からもう一つ、君を騙す」
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