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別動隊が出て行ってから準備を終え、護衛を任された私ことシエラは、マスター…ではなく陛下から伝えられた通りに陛下のお姿に成り済まし、カインを先陣に置き、後方から私とソフィア様がついていく形で行軍を始める。


「いや~、平和ですね~」

行軍開始からしばらく経ち、護衛兵士の1人がお気楽にそう発言する。兵士は他の兵士に怒られたが、確かに言葉にしたくなるほど平和ではある。このまま平和に行けば…良いんだけどね。

「…そうだね。おかげで予定より早く着きそうだよ」

「ですよね!いやー、やはり陛下は話のわかる御方ですな!」

「また失礼なことを!陛下、申し訳ありません。こいつ最近良いことがあって気分が舞い上がってるんです」

「そうなんですよ!聞いてくれますか、実は近々結婚することになりまして!」

「おい、いい加減にしろよ!陛下に失礼だろうが!」

「構わないさ。本人がやる気になってくれているのなら良いことじゃないか」

「へ、陛下。それでは他に示しが…」

「しかし、今は行軍中であり、いつ戦いが起こるか分からない。気を緩めず、帰りを待つ人の元に怪我なく帰れるように努めてくれ」

「は、はい!」


などと話しながら行軍を続けていると先陣から伝令が走ってくる。


「陛下!ご報告であります!」

「なにか起きたのか?」

「は!それが進行方向から人が歩いてきたのですが…」

「旅人ではないのか?」

「私達も最初はそう思ったであります。ですが突如として襲いかかってきたのであります。今はカイル騎士団長が対応しているであります」

「彼が対応しているなら安心だろう。事態が終息するまでしばらく休憩に…」

「安心していいのか?」


聞き覚えのない声がした。

辺りを見回すが声の主が見当たらない。


「おっと失礼」

その言葉とともに何もなかった空間に一人の男が現れる。


「隠蔽魔法…か」

「ご名答、流石は若き王。さぞ御勉強なさったご様子」

「ま、それなりにはね」

「陛下、お下がりください。ここは私共が……」

「君たちに用はない。人形と遊んでいたまえ」


男が指をならすと、黒い人の形をした塊が何体も現れる。


「な、何でありますか、この不気味な人の形をした塊は!?」

私はそれを知っている。あれは禁術でもかなり危険度の高い術「ファントムザング」、死した人の魂をこちらに無理やり呼び出し、魂の意思とは無関係に使役する。人の魂を冒涜する術だ。


「貴様…」

「おぉ。あれが何かを理解しているのですか、流石ですねぇ」

「外道が!自分が何をしているのか、分かっているのか!?」

「分かっていなければ使わないでしょう」


そう言うと彼は呼び出したモノ達を兵士に襲いかからせる。兵士達は剣で切りつけるが、モノには効果がない。何度切りつけても、何度形を崩してもそれは元の形に戻る。


「こ、攻撃が効いてないであります!」

「いったいどうすりゃいいんだよぉ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


先ほど結婚報告した兵士が叫び声を上げた。見ると黒い塊に飲み込まれていく姿が見える。


「た、助けて!助けてくれぇ!」

「待ってろ!今助けてやる!」


兵士の1人が飲み込まれていく兵士の腕を掴んで引っ張るがびくともせず、尚も彼を飲み込み続ける。しかもそれだけでは済まず、黒い塊は助けに入った兵士の腕に巻き付き浸食を始める。


「な、なんだよ。くそ、離れろ!」

振り払おうとするがびくともしない。いくら抗えど浸食は止まることなく続けている。

先に浸食された兵士はすでに跡形もなく消え去っていた。


「い、いやだ!!誰か助けてくれぇ!」

兵士は叫ぶ。しかし誰も助けてはくれない。それは至極当たり前のことだった。助けに入れば次は自分が飲み込まれる。そんな相手を誰が助けに行くのか。残念だが私にも助ける力はない。


「頼む!誰……か…助け…」

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