45ページ目
無慈悲な試合終了宣言、ライラもこれ以上は無意味だと判断したのだろう。拳を引くとマリアはポロポロと涙を流し始める。当たったのかと思いオロオロしてしまう。
「私はまだ闘える……負けてなんか……」
「認めたくない気持ちは分かる。しかし油断が招いた結果は認めなければならない」
「油断なんか…してません!」
「していただろう?あんな戦い方はいつもならしなかったはずだ」
「それは…」
「人間の身体能力では、竜人には勝てないと侮っていたんだろ?」
図星を突かれたのか、マリアは小さく呻いた。
「どんな相手でも全力で仕留めろと教えているだろう?」
「申し訳ありません……」
「まぁまぁ、そこまで怒らなくても」
「黙っていてもらいたい。これは私達の…」
「いやいや、そっちの問題だとしても、彼女はきちんと本気を出していたよ。それが僕に合わせた本気だったんだよ」
「……ふむ、なるほど。本当にそうなのか?」
マリアは首を縦に勢いよく振る。
「わかった。ならばこれでお前にマリアを任せることになるな」
「あぁ、分かった。大切に預からせてもらうよ」
「うむ、では俺は戻る。しっかり支えるんだぞ、マリア」
「ハッ!お任せください」
マリアの返事を聞くとライラは去っていった。
「……ありがとう、助けてくれて」
マリアがぽそりと呟いた。それを聞いた僕は笑ってしまう。
「な、何がおかしい!」
「ごめんごめん、ついね。取り敢えず疲れたから部屋に戻ろうか」
僕達は執務室に戻り、疲れた体を癒しつつ、ローザさんに淹れてもらった紅茶を飲みながら、しばらくゆったりとした時間を過ごしていると、シエラが勢いよく扉を開けて入ってくる。
「マスター!ご無事ですか!?」
「え、あぁ。うん」
「あぁ…よかった…」
安堵したシエラはその場にへたりこむ。
「ど、どうしたの?」
「それが…試合場に戦いの跡が御座いまして、本日は試合場は使わない予定でしたので賊が浸入したものと思い…」
「あ……」
伝え忘れてた。それをシエラが逃すわけなく、僕を睨みつけてくる。思わず僕は萎縮してしまう。
「今の「あ…」ってなんですか?」
「い、いや今のは……」
「そうですか。ローザさん、何があったのか教えて頂いても宜しいですか?」
「分かりました」
あぁ…言い訳する時間も、味方なんてのも居なかったんだと、僕は天井を見上げながらそんなことを考えた。
それから夕食の時間まで、みっちり説教をされたのは言うまでもないだろう。夕食を終えて意気消沈状態の僕は自室に戻る。
「お疲れのようだね」
声を掛けてきたのは、謎の術士の使い魔だ。
「まぁね……」
ベッドに体と顔を埋めたまま返事を返す。
「今のところ私の見ている未来通りに進んでいるようだね」
「そうなんだ……よく分かんないけど…」
「これから先の未来は2つに分かれている。仲間を大切にしたいなら賢い選択をするんだね」
「それってどういう意味…だ?」
意味深な言い回しを聞いた僕は起き上がって、周りを見渡したが使い魔は見当たらない。
「居なくなったのか……」
先ほどの言葉は気にはなるが、色々ありすぎで疲れたし、考えても仕方がないのでとりあえず寝ることにしよう。
そして翌日、先日の途中でお開きになった会議は青の国の事情を考慮し、解決後に持ち越しということになったので、各国の王たちは自国へと帰国することになり、ソフィアはステラとカインと共に青の国へ向かう。
準備で慌ただしい中、僕と幼なじみの彼女とローザ、何故か付いてきたステラとマリアを連れて母親のもとへ向かう。それから今に至るわけである。
「ご理解頂けましたか?」
「そういう理由でしたか。分かりました」
「では行きましょう」
「え?でも準備が……」
「家財は後で取りに来させます。今は少しでも時間が惜しいので」
「分かりました」
「ご主人様、お話が終わりましたのなら急ぎましょう。何やら囮側に問題が発生したそうです」
「何だって!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます