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「では主殿、私は隠れます。御用の時にはお呼びください」

「あ、うん。わかった」


一瞬でその場から居なくなる。何の痕跡も残さないその手腕は、まるで最初から居なかったかのような錯覚までしてしまいそうだ。


「凄いですね……」

「まったくだね…」


その後すぐに彼女と入れ違いで扉がノックされ、シエラがいつもの足取りで入ってくる。


「お二人でこちらを見つめて…どうかなさいましたか?」

「な、何でもないよ」

「さようで御座いますか。ところでそちらの方は?」


と聞かれてシエラが見ている方向を見て、さらに周囲を見回す。しかし誰も見当たらない。


「誰も居ないけど……?」

「…マスターにも見えるはずですよ。よく目を凝らして、あちらの角をご覧になってください」


シエラに言われるままに指定された場所を注視する。しばらくすると突然フウがそこに現れる。


「えぇ!?急に現れた!?」

「最初からそこにいましたよ?」

「……私の幻術を破るとは、貴様は何者だ」

腰に備えた小刀に手をかけ、臨戦態勢をとる。


「私はエルフですから、その下級の幻術では騙されませんよ」

「何故エルフがここに……」

「陛下の家臣ですが何か?」

僕をちらりとみてくるので頷いておく。

「……そうか」


すっと臨戦態勢をとく。たった数分間のやり取りなのに妙な緊張感があった。


「それで貴方はどちら様ですか?」

「私はフウ。イリス様の命で、主殿の手助けをすることになった」

「ふーん…………そうですか」

ちらっと僕を見る。


「いや、本当だから。そんな目で見ないで」

「疑ってはおりませんよ」


ならば含みがある言い方をしないでほしいものだ。僕はわざとらしい咳払いをする。


「シエラも来たことだし、作戦の話をしよう」


シエラは頷いてから座る。ローザは何も言わずにお茶の用意をする。


「ありがとう。さて今回の件なんだけど2つのことを同時にやろうと思ってるんだ」

「2つとは?」

「囮と救出の2つだね。囮はソフィアさんの警護、救出は彼女の母親をって感じかな」

「なるほど、では囮は私が請け負いましょう」

「うん、頼む」

「救出の方は少人数で?」

「そうだね、僕とローザとフウ。あとは彼女が居ればいいかな。護衛のほうは大部隊で行こう。城に残るのは精鋭とルインが居れば問題ないでしょう」

「分かりました。では準備をいたします。出発はいつでしょうか?」

「直ぐにでも、ソフィアさんの帰国より早く動かないといけないからね」

「畏まりました。では失礼致します」


必要なことを話し終えると、出された紅茶を飲み干して足早に出ていった。


「……たまにはシエラにも休みを与えないとな~」

「そうですね、ご主人様は頼りきりですものね」

「彼女が尽くしてくれるからこそ、僕が立っていられると言っても過言じゃないからね」

「あら、妬けますね」

「もちろんローザさんが尽くしてくれているおかげもあるよ」

「お世辞ですか?」

「いやいや、本音だよ」


紅茶を飲みながらそんな他愛のない話をしていると、勢いよく扉が開かれる。

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